Ice Legends 2016のコラボ。第三部。ラブロマンスだから、姓ではなく名で書いた方が雰囲気出そう。だからスケーターは名前で書きます。

二組のカップルの中、ステファンが一人激しく滑る姿に、既に悲劇は内包されているように感じた。
ペアとアイスダンス。最高に調和がとれたそれぞれのカップル。彼ら彼女らは比翼の鳥だ。女性は思い切り男性並の身体のキレを見せる。逆に男性はその力を女性を支えることに使い、自分を押し出すのを押さえる。
ステファンとカロリーナ。自分をただ押し出すシングルスケーターの二人に、それ以上の調和が出来るはずはない。
その激しさをどこかで抑えないと男と女はともにいられない、ふとそんな気がした。しかし男はエネルギーを迸らせ翼を広げる。女はその翼に身体を預けることを夢見て手を伸ばす。
おずおずとした調和。少しずつ、少しずつ、ユニゾンしていく。もう少しこの二人を堪能できるかと思っていた。けれど。

そこへ滑り込む大輔。ステファンはカロリーナから離れる。男二人の完璧なユニゾン。大輔の少し醒めた表情。男性と女性の両方の香りを漂わせ、ステファンと同じ速度で滑り、そして消える。

同じ強さで飛べる二羽の鳥は、たやすく調和する。そして同じ強さを持つからこそ、素早く飛び立っていく。

その後のステファンとカロリーナの愁嘆場は、私には冗長に感じた。
嘆くカロリーナ、それを捕まえようとするステファン。そう、捕まえようとするけれど、懸命に捕まえようとはするのだけれど、彼女に寄り添わない。
そしてカロリーナは去り、ステファンは氷上に倒れる。

ふと思う。嘆きながらそれまで以上に力強く滑るカロリーナ。ステファンがそういう彼女のスケートに調和しようとすれば、心を寄り添わせようとすれば、ひょっとしてステファンは彼女を取り戻すことが出来たかも、と。
しかし二人はただ思いをぶつけあい、そして終わる。



このコラボの世界はステファン・ランビエールの創った、つまり男の視線から創られた世界だ。
しかし、私はそれをひっくり返した視点で見てしまった。女が男とどう生きていくかという姿を見たような気がした。

例えば比翼の鳥の片方となる。比翼の鳥、それは雌雄それぞれが目と翼を一つずつもち、2羽が常に一体となって飛ぶという、中国の空想上の鳥。調和する代わりに、自分の翼を広げるのを少し押さえたり、少し無理をしたりしてバランスを取り、カップルとして生きる。もちろんこの生き方は男の側の協力が必要である。女だけで選ぶわけにはいかない。

男と同じ速度で生きることが出来ない、そして一体になれない女は、自分の世界で遊びながら男の訪れを待つ。「ラストダンスは私」なら我慢して、それまでは他の人と踊らせる。

そして男と同じ速度で同じ世界を追いかけ、半ば女であることを失う代わりにしんと冷えた魅力を身につける女性。いや、演じているのは男の大輔なのだけれど。男性並みの速度と硬質さを身につけて世の中を走っていく女性もそういえばいる、と思う。

この話は男の悲劇で終わる。二羽の鳥はばらばらになる。
しかしほんの少し、男がそれぞれの女(?)を見て相手の世界に歩み寄れば、微妙に違う世界になったかも、などと思ってしまった。



それにしても。
大輔さんが「ビートルズメドレー」の衣装で、ステファンの「浮気相手」を演ると聞いたときは実はちょっとビビった。何せ私にとって「ビートルズメドレー」は特別なもんで。イメージ崩れないかなあ、心の一部が拒絶しないかなあ、とか見る前に考えた。
しかし見たらそんなものを感じないどころか、わずかな時間なのに魅了されてラクリモーサやマンボ以上にリピしている状態。

そういえば「ビートルズメドレー」のタンゴの「Come Together」部分、争いや戦いを感じさせる動きの中に、私は大輔さんの身体から、男性性と女性性の両方が強く匂い立つのを感じていたっけ。
ステファン、そのイメージをコラボに持ち込もうとした?だとしたら、私は狙い通りに踊されたわけである。