タイトル:クローバー
著者:島本理生
発行:角川文庫
発行日:2011年1月25日
あらすじ
ワガママで女子力全開の華子と、その暴君な姉に振り回されて、人生優柔不断ぎみな理系男子の冬治。
双子の大学生の前に現れたのはめげない手強い求愛者と、健気で微妙に挙動不審な才女!?
でこぼこ4人が繰り広げる騒がしくも楽しい日々。
ずっとこんな時を過ごしていたいけれど、やがて決断の日は訪れて……。
モラトリアムと新しい旅立ちを、共感度120%に書き上げた、キュートでちょっぴり切ない青春恋愛小説! 解説・辻村深月
恋愛小説!というから、やや身構えながら手に取った。
おすすめです、と紹介いただいた手前、
今更恋愛ものはちょっと…(^^;)というわけにもいかず……
読んでよかった……!
薦めてくれてありがとう!!と1/3読み終わったくらいに感謝してた。
いやぁ、食わず嫌いは良くないですねえ。
王道の青春ストーリーだった。
進路に悩み、色恋沙汰に振り回され、
悩み、決断し、子供から大人へ。
面白かった。
ストーリーもだけれど、文体が何より好みで。
物語は双子の弟・冬治の一人称で語られる。
大学3年生で、性格が対称的な双子の姉と同居しながら、
姉の引き起こす面倒事の後処理をしている苦労性の主人公。
ドタバタ系のコメディかと言われればそうでもなく、
大学生らしい進路の悩みや、
姉や自分の恋愛事情で様々考えを巡らす心理描写は重すぎず、美しい。
姉には姉の、冬治には冬治のコンプレックスがあり、プライドがあり、気遣いがある。
人間模様が素晴らしかったね。青春ストーリーだった。
尚、著者は以下のように表現しているので、
青春ストーリーと呼ぶのは、もしかしたら失礼かもしれないけれど。
P282(解説:辻村深月)
島本さんは同じくそのあとがきの中でこの小説を「青春小説でも恋愛小説でもなく、モラトリアムとその終わりの物語」と表現している。
そしてその「終わり」を経て、『クローバー』は、新しく旅立つ者の始まりの物語にもなるのだ。
高校生や大学生の、進路に悩み始める年齢の人にプレゼントとして贈りたい、
そういう物語だった。
まぁ、大人になった今でも私はずっと進路に悩み続けてるんだけどね!!
またそろそろ転職したいなぁ~なんて考える優柔不断な時期です。
一向に落ちつく気配が見えません。
P39
「たぶん、私があんまり誰かを本気で好きになれないのは、自分のことを好きじゃないからだよね。
だって好きな人がいいって言うと、今まで興味のなかった音楽とか本とかが急に特別な物に思えてくるじゃない。
自分を気に入ってないから、自分越しに見てる世界も愛せないんだと思う」
哲学じゃない?
びっくりしちゃった。
私は別の理由で他人を愛することはできないけれど、
自分のことは大好きだからね、基本的に。
P75
「何度言われても嫌よ。あきらめて、ほかを当たって」
「無理です。ほかの女性なんて、考えられません」
「当たり前でしょう。
ほかの人なんて考えられないと思うのが恋愛なのよ。
みんな、ほかの人なんて考えられない、と思いながら、別れてほかの人と出会って好きになって、ほかの人と付き合うのよ。何度でも」
純粋にうらやましいなぁと思った。
そんなに他人のことに興味持てる?
24時間のうち、私が他人のことを気にかけているのは仕事中くらいなもんで、
でもそれって興味ではないでしょう?
……そういう意味で言ったら、私は他人に究極に興味ないな。
他人が興味持っている先に、興味を持つ事はあるけどね。
本とかゲームとかアニメとか。
(我ながら薄情な人間だな)
P195
「女の人って、よく相手のために服を選んだりするの?自分の趣味や自己満足だけじゃなくて」
「その人にもよると思いますけど、大事な人がひれば多少なりとも影響されると思いますよ。華子さんは、自分の好みなんてないって言ってましたし」
「あいつは極端だから、あんまり信用ならないな」
「あと、服装は環境の一部だって。
自分をよりよく見せるだけじゃなく、一人一人の着ているものが空間や街の雰囲気をつくるから、美しい服選びは個人のためだけじゃなく、もと外側に向かっているんだって。
この絵を見ていたら、その話を思い出して」
美術館で、おそらくモネの「赤いハンカチ」を見ながら話をしていたシーン。
モデルの妻が赤いスカーフを選んだのは、白ばっかりの世界で、
少しでも画家の夫の目を楽しませようとしたのではないか、と言った雪村の発想に、
主人公同様、わたしも驚いた。
そんな観点で服を選んだこと……ないな……。
え、多くの人は結構共感する感じなのか、これは……。
モネが描いた妻カミーユとその儚い人生について超解説! - アートをめぐるおもち (omochi-art.com)
P247
「人間は人生の必要な時期に、必要な人間としか出会わないし、そこで色々と学び尽くして、一緒にいることの意味がなくなれば遠ざかっていくのは仕方ない。
それは地面に生えている木が枝を伸ばして葉を付けて最後に落とすのと同じくらいに自然なことで、お父さんは一度もお母さんを束縛したり、引き留めたりしたことはないよ。(省略)」
「全然知らなかった」
「言うわけがないだろう、そんなこと。
おまえたちはまだ子供で、どうしたって理解できないことがあるんだから。
下手に説明したら、親の片方を嫌ったり、誤解したまま成長してしまうと思ったんだよ」
ここまで家族のことを考えられるお父さん、素晴らしいね……。
結婚しても妻の意思や決断を一人の人間として尊重するし、
加えて子どもたちの成長についてまで考えを巡らせたのか。
別れ話を切り出されても、このくらい冷静に分析して相手を尊重できるのは素晴らしい。
――ごたごたした家族を覚悟もなしに作って、子供にやれ毒親だとか親ガチャ失敗だとかいわれる大人諸君に、是非見習ってほしいね。
哲学的な思考が多い小説、好きなんだよね。
最後に、解説から、本作を紹介するのにこれ以上ない素晴らしい言葉を引用する。
P281(解説:辻村深月)
恋にアグレッシブで弟の支えがなければ不安定に見えた華子が、熊野氏の出現により意外にも早く自分の足で立ち始め、それと同時に、それまで物事を俯瞰して語ることが多く大人びて見えていた冬治が、姉に見守られる側へと関係を反転させていく。
島本さんは、価値観や人との距離感がまだ定まらず、風向き一つで関係性まで変えていく「青春時代」の本質を正確に射貫いている。
青春だなぁ!!!
私も、もう一度自分の進路について考えないとね。
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それでは素敵な読書ライフを!!