タイトル:ラヴクラフト全集4
著者:H・P・ラヴクラフト
訳者:大瀧啓裕
発行:創元推理文庫
発行日:1985年11月29日
過去の記録
一冊目
【115】ラヴクラフト全集1(H・P・ラヴクラフト)(訳:大西尹明) | 秋風の読書ブログ (ameblo.jp)
二冊目
【131】ラヴクラフト全集2(H・P・ラヴクラフト)(訳:宇野利泰) | 秋風の読書ブログ (ameblo.jp)
三冊目
【135】ラヴクラフト全集3(H・P・ラヴクラフト)(訳:大瀧啓裕) | 秋風の読書ブログ (ameblo.jp)
本記事においてはネタバレについて配慮しかねる。
どうか悪しからず。
本書には7編が収録されており、そのうちのひとつ、『狂気の山脈にて』は、
クトゥルフ神話TRPGの有名なシナリオ『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』の元となったとされる作品だ。
重要なことなので過去の記事で語った通り、繰り返し、念のため言っておくが、
ラヴクラフトの死後にダーレスが確立させた『クトゥルフ神話』と、ラヴクラフトの書き上げた作品は、分けて考えねばならない。
故に、TRPGシナリオとは全くの別物である、とここに明記しておく。
■宇宙からの色(1927年)
アーカムの西の丘陵に建設が予定されている、新しい貯水池の調査に訪れた主人公。
地元の人間に「焼け野」と呼ばれる、植物も育たないそこに関する話を聞きに、アミ・ピアースという人物を訪ねる。
そこで主人公は恐ろしい話を聞くことになった――――。
昔、隕石が降ってきて、その影響で井戸に"なにか"が住み着き、アミの近所に住んでいたネイハム一家に不幸が起きた。
行方不明となった子ども。狂った妻。そして変死。
夜に輝く井戸。隕石から飛び出した種。春の植物。揺れる樫木。異常な色をした実体。
解題(P326)で語られた、「『宇宙からの色』以外に全体としてわたしを満足させる作品はありません」というラヴクラフトの言葉通り、
作品全体の雰囲気はとても不気味でおぞましく、
そこに当時最先端の科学的要素がふんだんに盛り込まれ、
個人的には全集4の中で最も好きな作品である。
他の作品とは異なり、より宇宙的で科学寄りの作品。
40ページほどの中編のため、
ラヴクラフト独特な文体に疲れることなく、満足できるのも嬉しい作品。
■眠りの壁の彼方(1919年)
精神病の医師である主人公の元に興味深い患者が現れた。
ジョー・スレイターという白人で、夢遊病のように寝ている間に恐ろしい言動を繰り返すのだ。
主人公はスレイターがどのような夢を見ているか確認するため、自作の機器で彼の夢の世界へと足を踏み入れる。
そこでスレイターの夢を介して、主人公は"何か"から話しかけられた。
ラヴクラフトが恐怖をもたらす"何か"を、初めて宇宙からの生命体と描写した作品。
20ページないくらいの短編である。
■故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実(1920年)
タイトルのまま。
アーサー・ジャーミンと、その家系に関する話。
先祖が伝説として残っていた『類人猿の女王』であったと知り、主人公は発狂して焼身自殺。
ラヴクラフトが度々題材としている『呪われた家系』が、今回も主となっている。
13ページの短編。
この物語のタイトルにラヴクラフト自身もしっくり来ていなかったようだが、小説が掲載されるとき(出版されるとき?)に編集が勝手にタイトルを変え激昂したというエピソードがある。(解題から)
■冷気(1926年)
引っ越した先のアパートで、真上に住む「ムニョス先生」という人物と知り合いになる。
具合が悪くなった主人公が助けを求めて上階を訪れると、ムニョス医師の部屋は冷気に満ちていた。
ある日、ムニョス医師の部屋の冷房が故障し、医師のために主人公は氷を手配したり冷房の修理を手配したりと奮闘するが――――
ポウの影響を受けて執筆した最後の作品。
13ページという短さながらも、底冷えする不気味さはピカイチで、
『宇宙からの色』に次いで全集4の中で気に入った作品である。
大変面白かった。
■彼方より(1920年)
親友クロフォード・ティリンギャーストに見せられた不思議な機械を通して、主人公は異世界の生物を目にすることになる。
こちらも12ページほどの短編。
異世界と繋がる機器の登場。
解題にもある通り、ラヴクラフトにしてはやや物足りない感じの不完全燃焼感のある作品である。
■ピックマンのモデル(1926年) ※ネタバレあり。
不気味な絵を描く友人のピックマン。
主人公が、何故ピックマンと仲違いしたのかを別の友人に話して聞かせるような一人称物語。
主人公がピックマンと仲違いした原因は、彼のアトリエで見つけた、不気味な絵のモデルとなった"実物"の写真だったのだ。
この後に続く『狂気の山脈にて』が大長編すぎるがため、面白い作品なのに印象が薄くなってしまったのが残念である。
『語り部』的な形なので、ラヴクラフトの這い忍び寄る恐怖感が薄れてしまっている気がして、余計に印象薄に感じるのかもしれない。
けれども全集3のアウトサイダーを彷彿とさせるような語り口は、かなり好みである。
物語の締めはしっかり落とし込むところに落とし込まれていて、良作だ。
■狂気の山脈にて(1931年)
主人公含め16名で南極大陸を冒険した話。
不気味な雪山。
そこで発見した植物のような動物のような奇妙な姿をした<旧支配者>。
ネクロノミコンで『ショゴス』と呼ばれた粘着性の原形質。
連絡の取れなくなった仲間に、雪山で見つけた古代都市。
目が退化した真っ白なペンギン――――
主人公は、はるか昔に熾烈に争った<旧支配者>とショゴスとの歴史を知ることになる。
全集4の半分を使った大長編である。
ラヴクラフト独特の癖になる文体は、十数ページの短編でも満足感があるので、
長編になると正直私にはちょっと重い…。
『狂気の山脈にて』は名作だろうし、
解題にてラヴクラフトのプロット(メモ)が掲載されていて、
彼もかなり意気込んで作ったものなのだろう。
故に、細かい描写が逆に重い…
(実際は私が本作を読んだ時期が色々とタイミングが悪かったという影響が大きそうだが)
これはちょっと期間を開けて読みなおしたい作品である。
TRPGシナリオを先に知ってしまっていたので、
わかってはいてもあまりに大きく作品の印象が異なっていたから…
まぁ、本当に別物ってことだな。うん。
P211
わたしたちはゆるやかな上昇をした後、アネロイド気圧計によれば、高度二万三千五百七十フィートに達して、眼前に広がる雪に覆われた地域はもう既にあとにしていた。
(省略)
山越えのルートが眼前に迫るようになり、鋸歯状で恐ろしくも威圧的な高峰のあいだはなめらかで、風が吹きぬけていた。
その向こうには、渦巻く蒸気にけむり、南極の低い太陽に照らされる空があった――――人間がかつて見たことがありえない、神秘的な領域を覆う空が。
P248に、ヒマラヤではミ=ゴ、あるいは忌まわしい雪男として
という記載があるのだが、ショゴスとミ=ゴって同じ生命体を指してます?
現在読解力が欠如しているのでよくわからない…
↑のちに調べたらWikiに別物と記載あり。
この時の私には読解力が欠如していたようだ…
□資料:怪奇小説の執筆について(1934年)
ラヴクラフトが作品を書く理由、気を付けている点などが語られている。
□作品解題
豪華。
ラヴクラフトの作品が実際に掲載されていた時の挿絵やその雑誌の表紙(?)がたくさん載っている。
各作品の解説も変わらず大瀧さんが手がけてくださり、
『狂気山脈にて』のラヴクラフトのプロットも記してくださっている。
貴重な資料が綺麗にまとめられており、今回もラヴクラフトへの愛が伝わってくる解説だ。
TOP画は以下からお借りし少し色味変えさせていただきました。
雪山イラスト - No: 22367479/無料イラスト/フリー素材なら「イラストAC」 (ac-illust.com)
追伸
TRPGシナリオ、『狂気山脈』が映画化に向けて動いています!
(157) 『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』 パイロット・フィルム - YouTube
楽しみ~~~~!!!!
恐ろしい山の声、めちゃめちゃいいですね!!
そんでもってシナリオが現在は無料配布!?
『狂気の峰へ』 クトゥルフ神話TRPGシナリオブック - FORESTLIMIT Publishing - BOOTH
Youtubeの概要欄から公式サイトとクラウドファンディングにも飛べるので是非チェックしてみてくれよな!
(この記事書いてる時にはクラファン終了しているけど、そのうちまた同じURLで再開されるんじゃないかなぁと思ってる)
好きなシナリオなのでガンガン宣伝していくぜ!
(ちなみにTRPG遊んだことがないので誘ってほしいんだぜ)
ラヴクラフトを現在も有名たらしめ続けているのは、
やはりクトゥルフ神話TRPGの影響なくしては語れないほど大きいと思う。
かくいう私もTRPGの動画配信からラヴクラフトを知った人間の一人なので、
素敵なシナリオがあればガンガン宣伝していきたい所存です。
入口はどんな形であれ広い方がいい。
追記2
これは全然関係ないのだけれど。
カンブリア紀に存在した「新型モンスター」を発見!学名は『デューン砂の惑星』から - ナゾロジー (nazology.net)
花のような(植物のような)で、とてもロマンが高まってしまった。