HIITで痩せない理由〜プロも陥る指導の落穴と生理学的真実〜
「HIIT(高強度インターバルトレーニング)をやっているのに、なぜか痩せない……」
今、フィットネス現場やSNSでこのような悩みを抱える人が増えています。
短時間で劇的な効果が出ると謳われ、多くのパーソナルジムやスタジオレッスンで取り入れられているHIITですが、実は「頑張っているのに結果が出ない」という悲しいミスマッチが多発しているのが現状です。
本コラムでは、なぜこれほどまでにHIITが流行しているのか、解剖生理学的な視点を見落としたトレーナーさえも陥りがちな落とし穴とその根拠について、専門的な視点から紐解いていきます。
1. なぜ、いま「HIIT」がこれほど流行っているのか?
HIITが世界的なトレンドとなり、今なお根強い人気を誇る最大の理由は、現代人のライフスタイルに完璧にマッチした「タイパ(タイムパフォーマンス)の良さ」にあります。
従来の有酸素運動(ジョギングなど)で脂肪を燃焼させるには、最低でも20〜30分以上、できれば1時間近くの時間を投資する必要があるとされてきました。
しかしHIITは、「20秒の全力運動+10秒の休憩」を8サイクル繰り返す「タバタプロトコル」に代表されるように、わずか数分から10分程度で完結します。
さらに、メディアやSNSが「たった4分でランニング1時間分の効果」「脂肪燃焼細胞が活性化する」といったセンセーショナルなキャッチコピーで拡散したこともブームを後押ししました。
「ラクをして痩せたいわけではないが、時間はかけたくない」という、忙しい現代人のニーズに見事に刺さったことが、HIIT流行の背景にあります。
2. トレーナーが勘違いしがちなHIITの落とし穴と、その生理学的根拠
しかし、現場のトレーナーが「HIITをやらせておけば痩せる」と盲信しているケースが少なくありません。ここには、生理学的な視点を見落とした大きな落とし穴が存在します。
① 「全力」の定義エラー:ただのキツい有酸素運動になっている
本来、生理学的なエビデンスに基づいたHIIT(タバタプロトコルなど)は、最大酸素摂取量(VO2max)の170%、あるいは最大心拍数の90%以上に達するような「限界を超える全力運動」が必要です。
エネルギー代謝システムで言えば、酸素を使わない「解糖系(無酸素性エネルギー代謝)」を極限まで追い込むことで、初めてその恩恵が得られます。
しかし、運動初心者や一般のクライアントがここまでの強度を出すことは、肉体的に精神的にも不可能です。
結果として、心臓はバクバクして死ぬほどキツいものの、生理学的には「ただの中途半端にキツい有酸素運動」になってしまっています。
これでは、本来期待される劇的な代謝改善効果は得られません。
② 「アフターバーン効果(EPOC)」の過信
多くのトレーナーが「HIITの後は、運動が終わっても数時間にわたって脂肪が燃え続けます(アフターバーン効果)」とお客さまに説明します。
これは生理学的には「運動後過剰酸素消費量(EPOC)」と呼ばれる現象で、乱れた体内環境(乳酸の処理や体温の上昇、ホルモンバランスの調整など)を元に戻すために、通常より多くの酸素(エネルギー)を消費することを指します。
確かに効果自体は実在しますが、問題はその「量」です。アスリート並みの超高強度で追い込んで初めて、運動後数時間にわたって数十〜100kcal程度の追加消費が発生するレベルです。
一般のクライアントが現場で行うレベルのHIITでは、アフターバーンで消費されるカロリーは「おにぎり1/4個分」や「一口分のチョコレート」で簡単に帳消しになる程度の微々たるものです。
トレーナーがこの数値を過大評価し、食事管理を甘くしてしまうことが、痩せない大きな原因になります。
③ 糖質代謝と脂肪代謝の履き違え
息が完全に切れるほどの高強度運動(無酸素運動の領域)において、体内でメインのエネルギー源として使われるのは「脂肪」ではなく「グリコーゲン(糖質)」です。
脂肪が最も効率よく燃焼するのは、心拍数が上がりきらない中強度(最大心拍数の60〜70%程度)の有酸素運動です。
高強度のHIITを行うと、体内の糖質が急激に枯渇するため、脳は危機感を覚えて血糖値を上げようと激しい飢餓感(特に炭水化物や甘いものへの欲求)をサグらせます。
トレーナーが「キツい運動をさせたから脂肪が燃えるはず」と思い込んでいる裏で、クライアントの体内では食欲の暴走という逆効果が起きているのです。
3. なぜトレーナーはHIITばかりやらせたがるのか?
生理学的なミスマッチがあるにもかかわらず、なぜ多くの現場でトレーナーはHIITを多用するのでしょうか。
そこには、フィットネスビジネスにおける「指導の手軽さ」と「顧客心理のコントロール」が関係しています。
一つ目は、短時間で圧倒的な「やった感(満足度)」を提供できるからです。
1時間のセッションの中で、じっくりと正しいフォームを指導し、地味な筋トレを継続させるよりも、最後の10分で音楽をかけてHIITをやらせ、息をゼェゼェ言わせて床に倒れ込ませた方が、お客さまは「今日も限界まで追い込んだ!効いている!」という強い達成感を覚えます。
トレーナー側にとっても、専門的なフォーム指導の技術が少なくても「とりあえずキツい運動をさせる」ことで、顧客満足度を演出しやすいという安易なメリットがあります。
二つ目は、タイムマネジメントのしやすさです。
パーソナルジムやグループレッスンにおいて、時間はそのままコストになります。短い時間で「運動を完結させた」という既成事実を作れるHIITは、スタジオの回転率を上げたいジム側や、時間枠をカツカツで回したいトレーナーにとって非常に都合の良いツールなのです。
いわば、商業的なエンタメ化が先行してしまっているのが実態です。
4. HIITで痩せない人には何が足りないのか?
もし、HIITを頑張っているのに全く痩せないという人が目の前にいるとしたら、決定的に足りていないのは「ジムの外での過ごし方」、専門用語で言えば「NEAT(非運動性熱産生)の意識」と「自律神経のケア」です。
① 日常の活動量(NEAT)の維持
HIITで下半身や体幹を限界まで追い込まれた人は、ジムを出た後の23時間、無意識のうちに「省エネモード」になります。筋肉痛や疲労感のせいで、普段なら使う階段を避けてエスカレーターに乗り、歩く速度が遅くなり、自宅ではソファから動かなくなります。
このように、日常生活における家事や移動などの消費カロリー(NEAT)が激減した結果、「HIITで消費したわずかなカロリー」よりも「日常生活で減ってしまった消費カロリー」の方が大きくなり、トータルの消費カロリーがマイナスに転じないという現象が起こります。
② 身体の「ゆとり(自律神経の安定)」
HIITは身体にとって「強烈なストレス(危機状態)」です。寝不足が続いていたり、仕事のストレスを抱えていたりする人がHIITを行うと、ストレスホルモンである「コルチゾール」が過剰に分泌されます。
コルチゾールが高止まりすると、体は水分を溜め込んで浮腫みやすくなり、筋肉を分解してエネルギーに変えようとするため、基礎代謝が落ちてしまいます。
つまり、心身の休養という「土台」がないままハードな刺激だけを与えても、体は防衛反応を起こして脂肪を頑なに手放そうとしません。
5. 手段の目的化を防ぐ
HIITは、心肺機能の強化や、インスリン感受性の改善(糖代謝の向上)において、非常に優れた科学的エビデンスを持つ素晴らしいトレーニングメソッドです。決していかがわしい手法ではありません。
しかし、それはあくまで「適切な体力を持ち、日常生活が安定している人が、正しい強度で行う」という前提があってのものです。
「キツい運動をすれば、それだけで脂肪が魔法のように燃える」という盲信は、指導する側も受ける側も捨てなければなりません。
ボディメイクの本質は、ジムの中での10分間だけでなく、「その後の23時間をどう快適に、活動的に過ごせる体を作るか」にあります。
目の前のクライアントのライフスタイルや、身体の生理学的な反応を無視してHIITばかりを乱用する指導は、プロの仕事とは言えません。
「木を見て森を見ず」の指導から脱却し、クライアントが真に健康的に、持続可能な形で変われるアプローチを見極めること。
それこそが、情報が氾濫する現代においてトレーナーに最も求められている本質なのです。
<コラム執筆者紹介>

藤田英継(ふじたひでつぐ)先生
- 合同会社PROTEIOS 代表
- パーソナルトレーニングジムevergreen 代表
- 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境系 身体運動科学 修士課程修了
- 2008年よりパーソナルトレーナーとして活動開始
- 大学院では脂肪・糖質代謝を研究し、遺伝子・ホルモン・細胞レベルから身体づくりを学ぶ
- 都心スポーツクラブで3年連続売上トップを獲得
- 延べ1万人以上のセッション実績
- 書籍執筆、雑誌監修、通信教育講座のプロデュースなども担当
- 現在は健康リテラシー向上やトレーナー育成事業にも取り組む