こんにちは、奥川です。

 

前回のコラムでは、整体施術の効果が持続する人と元に戻ってしまう人の違いを、運動学習理論と「身体の変化に気づく力(アウェアネス)」の観点から解説しました。

今回は、運動学習と制御の進化的な背景を深掘りし、最新の神経科学的知見を基に、理学療法士やトレーナーの皆様が臨床やトレーニングに活用できる視点を紹介します。

 

運動制御と学習の進化:単純な反射から複雑な予測へ

運動制御の理解は、かつての「刺激→反射」の単純なモデル(例:脊髄反射)から大きく進化しました。

ニコライ・ベルンシュタインの「デクステリティ(器用さ)」理論(Bernstein, 1967)では、感覚器の進化に伴い、外部環境の情報を正確に把握する能力が高まり、「記憶」「文脈」「思考」を処理する大脳皮質が発達したとされています。これにより、運動制御は以下のプロセスに進化:

1. 予測→計画→行動:大脳皮質が文脈や過去の経験に基づく予測を生成。

2. 結果の効果測定→計画の修正→新しい運動記憶:小脳が感覚フィードバックと予測の誤差を検出し、学習を更新。

 

この進化に伴い、強化学習も単純な刺激応答から、予測や文脈に基づく複雑なシステムへ変化したと近年考えられています。

以下で、このプロセスを支える脳のメカニズムを解説します。

 

ドーパミン報酬系の進化した役割

伝統的に、運動学習理論では「教師無し学習」「教師あり学習(小脳の誤差修正モデル)」「ドーパミン報酬系」が別々に議論されてきました。しかし、近年、これらが統合されたネットワークとして機能し、運動学習を強化・弱化することが明らかになっています(Bostan and Strick, 2018 https://www.nature.com/articles/s41583-018-0002-7)。

 

また、前回のコラムでは直感的に分かりやすく「階層的」な学習システムでドーパミン報酬系のシステムの説明を試みました。

 

つまり、大脳皮質で「意図を持った運動が企画」され運動野に筋収縮の指令が出されます。

その運動の結果は小脳にある「内部モデル」との誤差によって評価されます。

誤差が少ない感覚情報がフィードバックされた運動は「成功」とみなされ、ドーパミン報酬系の報酬システムを促通する事で運動学習が強化されると考えて階層的に説明しました。

 

ですが、実際の生体内では「マルチモジュール」的に運動学習が進み、また学習強化がされると考えられています。

 

つまり「階層的」であり「並列的」「再帰的」と言う事です。

それを理解していただいた上で、今回も前回に引き続き「階層的」に運動学習システムと神経的な働きについて説明していきます。

 

まず、各運動理論について概要を説明します。

「ドーパミン報酬系」は、報酬予測誤差(Reward Prediction Error, RPE)を計算し、期待された報酬と実際の報酬の差を学習に利用します(Schultz, 1998)。具体的には:

-基底核:中脳(腹側被蓋野:VTA、黒質緻密部:SNc)のドーパミン神経が、報酬の価値評価や行動選択を調整。

「小脳内部モデルによる誤差評価学習」:内部モデル(フォワードモデル)を通じて、運動や報酬の予測を生成し、実際の結果との誤差を検出(Wagner et al., 2017 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28321129/)。

-「大脳皮質による意図を持った運動企画」:前頭前皮質(特にOFCやDLPFC)が意図、目的、動機に沿った運動を社会的文脈に沿って企画、補足運動野、運動前野でイメージ(予測シナリオ)を生成し、一時運動野に指令を出し、筋骨格系に実行指令を出す、

 

これらの領域は、前回お話したように階層的にも働きますし、視床や橋核を介した双方向接続により統合ネットワークを形成し並列的、再帰的にも働いているのでは?と近年は考えられています。(Bostan and Strick, 2018)。

たとえば、小脳の深部核(歯状核)からVTAへの投射が、報酬期待をドーパミン系に伝達し、学習を強化します

The Cerebellum Directly Modulates the Substantia Nigra Dopaminergic System and Striatal Dopamine Release (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11441724/)。

また、大脳皮質による意図を持つ運動の企画プロセスはドーパミン報酬系に認知情報として提供されます 

 

感覚アウェアネスと運動学習の強化

前回のコラムで強調した「身体の変化に気づく力(アウェアネス)」は、この統合ネットワークの鍵です。研究では、感覚フィードバックに注意を向けることで運動学習が向上することが示されています。https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/record/2240/files/BKK0002047.pdf

具体的には:

- 施術やトレーニング後の「動きの変化」に気づくと、小脳が誤差を検出し、ドーパミン報酬系が「成功体験」を強化。

- このプロセスは、大脳皮質(島皮質や体性感覚皮質)が感覚アウェアネスを処理し、基底核にフィードバックすることでさらに強化される(Naqvi et al., 2007)。

 

臨床への応用:アウェアネスを活用した介入

理学療法士やトレーナーとして、クライアントの運動学習を最大化するには、以下のアプローチが有効です:

1. **感覚フィードバックの強化**:施術前後の動画や触覚フィードバックを用いて、クライアントに「感覚の変化」を気づかせる

2. **成功体験の強調**:小さな改善(例:スムーズな動作)を強調し、ドーパミン報酬系を活性化。これにより、運動記憶が強化される。

3. **文脈の提供**:大脳皮質の予測機能を活用し、動作の目的や文脈を明確に伝える(例:「この動きで姿勢が安定する」)。

 

 ドーパミン報酬系のコンセンサス

現在の神経科学では、ドーパミン報酬系は以下のように理解されています

- **機能**:中脳のドーパミン神経(VTA、SNc)が、報酬予測誤差(RPE)を計算し、行動の価値を評価。予測(期待)と実際の結果の差を基に学習を調整。

- **統合ネットワーク**:小脳(報酬期待のコード化、誤差検知)、大脳皮質(文脈やイメージの生成)、基底核(行動選択)が視床や橋核を介して協調

- **進化的な背景**:原始的な内部環境応答(例:空腹→食料)から、予測や文脈に基づく強化学習へ進化。小脳や大脳皮質の機能が「上書き」され、複雑な学習を可能にした。

 

まとめ

運動学習は、単純な「刺激→反射」から、予測・文脈・感覚アウェアネスに基づく統合システムへ進化しました。理学療法士やトレーナーとして、クライアントの「気づく力」を育て、ドーパミン報酬系を活用することで、施術やトレーニングの効果を最大化できます。最新の研究を参考に、感覚フィードバックと報酬系の統合を臨床に活かしましょう。