Ⅱ 「良い状態(Well–being)」に近づく

 

・動きに多様性があり、体全体がチームとして働いている

・痛みや不快感が無い

 

ことを良い状態としました。ではこれらの状態に近づくにはどうしたら良いのでしょうか?

 

 

1.「動きに多様性があり、体全体がチームとして働いている」状態に近づく

 「立甲」という動作があります。文字通り肩甲骨を立てる動作です。肩甲骨を自由に動かせれば、あなたのチームに優秀なメンバーが一人増えることになります。チームのメンバーが増えれば取れる戦術のバリエーションが増えます。つまり動きの多様性が増えることにつながります。では、この動作を獲得するにはどうしたら良いでしょうか?

 

●硬い場所を柔らかくする

 単純に硬く動かない場所は動作に参加する事ができません。前程として硬い場所を柔らかくして動作に参加できる可能性をつくることが必要です。立甲でいえば肩甲骨が剥がれている必要があります。

 

●動きを学ぶ(多様性とチームプレイの獲得)

 肩甲骨が剥がれただけでは立甲ができるとは限りません。何故なら、一度も立甲ができた事がない人は立甲の感覚がわからないからです。新しい動きを学ぶ必要があります。

 

「動きに多様性があり、体全体がチームとして働いている」状態に近づくためには、この二つの観点が必要になると考えています。これらを獲得するヒントを記していきます。

 

 

1)硬い場所を柔らかくするには

 「動きに多様性があり、体全体がチームとして働いている」前程として、硬い場所は動き辛いため、動かずサボっている硬い部位に柔軟性を取り戻すことが大事です。

 

 ここでは結合組織(筋膜)を中心に柔軟性についてお話を進めていきたいと思います。

 

●筋膜(Fascia)

 体は四つの組織から構成されている言われています。

  神経組織

  上皮組織

  筋組織

  そして、結合組織です。

 柔軟性を取り戻し身体内のチームワークを活性化させるには、この結合組織に働きかけるのがポイントと考えています。

 

 諸説ありますが、結合組織はさらに、

  ・骨、軟骨などの「支持性結合組織」

  ・血液、リンパなどの「流体性結合組織」

  ・腱、靭帯など「線維性結合組織」

 の3つに分類されます。この線維性結合組織を広義の意味での「筋膜(Fascia)」と呼びます。

 

 筋膜(Fascia )は、線維芽細胞などの「細胞」、親水性高いプロテオグリカンなどの「基質」、コラーゲン、エラスチンといった「線維」で構成されています。基質と線維を合わせて「細胞外マトリックス」といい、ドロドロ、ヌメヌメの基質の中に線維でできたハンモックが浮いている、細胞の足場の役割を提供しています。これら構成要素の状態によって組織の硬さが決まってきます。線維の割合が多い場合、密生の靭帯や腱というしっかりした組織として認識され、基質の割合が多い場合、皮下組織や組織間にあり組織同士の滑りを作り出す、動きやすい粗性の組織となります。

 

 

●硬さの正体

 組織の硬さの正体は以下の筋膜(Fascia)の状態に関連していると考えられます。

 

 ・緻密化

 ・癒着

 ・平滑筋の緊張

 ・細胞の変化

 

・緻密化

 緻密化は細胞外マトリックスの中の線維が通常よりも増えている状態です。肥厚や瘢痕ともいえると思います。また、配列が整っておらず、絡まっている状態も存在します。修復過程で誤りが生じたり、過剰になることが原因と考えられます。つまり、損傷を受けたり負担がかかったりする場所がより強く丈夫になろうという反応です。

 

・癒着

 癒着は基質が豊富な組織間の粗性結合組織に緻密化が起こることや、水分が抜けてしまったり、老廃物が溜まることで組織同士のスライドやグライドが妨げられている状態と考えられます。つまり、組織同士の滑りを生み出す、ヌルヌルやドロドロの部分が失われれビーフジャーキー状態に陥っているのです。損傷に加え、安静や不動が原因と考えられます。

 

・筋膜は緊張する

 以前は完全に受動的な要素であると認識されていた筋膜ですが、筋膜自体に動きがあることが確認されています。

 

 その一つの理由に筋膜内の平滑筋の存在が挙げられます。

 特に大きい筋膜シートに存在していると報告されています。平滑筋は自立神経支配の筋で随意的には動かせません。筋膜内に広範囲に存在する交感神経の働きによって収縮し、組織の緊張となって確認できます。筋緊張ならぬ“筋膜緊張”といえるかもしれません。

 

 他には”筋“線維芽細胞の存在が挙げられます。

 筋線維芽細胞は通常の線維芽細胞が変化したもので、平滑筋と線維芽細胞との中間の存在です。神経支配が無いという点で筋とは異なります。筋線維芽細胞は傷の修復時に活発に活動し、組織同士を近ずけ隙間を埋め、新しい組織をつくるのに役立っています。筋線維芽細胞細胞は組織の損傷やメカニカルストレスに起因し線維芽細胞から変化します。少ないエネルギーで通常の線維芽細胞の4倍の収縮力で周囲の線維を引っ張り、引き寄せる筋線維芽細胞はさながらサイヤ人から変化したスーパーサイヤ人の様です。

 臨床的に筋線維芽細胞の持続的収縮はデュプイトレン拘縮や凍結肩といった慢性拘縮として確認できると考えられています。筋線維芽細胞が通常の線維芽細胞に戻るかは不明ですが、改善する凍結肩もある事から変化は期待できると考えています。

 

●硬さを引き起こす活動

 前述の様な筋膜の硬さを引き起こす誘因は

  不動、誤用、過用、損傷

です。

 不動によって組織は癒着し滑走性を失います。また、ミクロ的には線維の波状構造が失われて組織の”コシ”は低下します。過用、誤用は組織の負担を増やし緻密化を招きます。損傷は炎症を起こし結果として癒着や緻密化を招きます。

 また、加齢によって線維芽細胞や線維(コラーゲン、エラスチン)は減少し、組織の弾力性は低下します。皮膚においてはシワとして確認できます。

 

【執筆者紹介】

 

宮井健太郎先生

1977年生まれ 
2001年 理学療法士資格取得  
以後、老人総合病院、老人保健施設、老人ホーム、小児病院、スポーツ整形外科、一般整形外科にてリハビリテーションに関わる 
2006年 ロルフィングプラクティショナー認定 
2010年 フランクリンメソッド エデュケーター認定 
2014年 ロルフィングムーブメントプラクティショナー認定 
現在、東京 有楽町線・副都心線 小竹向原駅近く、東久留米市内にて、ロルフィングとボディーコンディショニングを行う 
日本ロルフィング協会会員