皆さん こんにちは! TC研究会 理学療法士の梅澤です。本日もコラムに興味を持って頂き本当にありがとうございます。
今回の内容は皆さんも職種やクライアントの年齢によってはよく遭遇すると思われる 脊柱管狭窄症 についてお話させて頂こうと思います。
現在日本は高齢化社会であり、腰部脊柱管狭窄症と診断される患者さんは大変多くいます。 症状や訴えとして 下肢痛や痺れ、筋力の低下、膀胱直腸障害,腰痛などが主なものとなります。
私も理学療法士として多くの患者さんをみてきました。しかし、この腰部脊柱管狭窄症については、まだはっきりとしないことがあったり正確な情報が伝わっていないこともあるため、今回簡単に述べさせて頂き皆さんの現場で少しでも役立てて頂ければと思います。
<症状と経過>
腰部脊柱管狭窄症の病態としては脊柱管を構成する骨性要素や椎間板、靭帯性要素などによって腰部の脊柱管や椎間孔が狭小化し、馬尾あるいは神経根の絞扼性障害をきたします。
しかし明確に統一された定義は存在しておらず、2011年に日本における腰部脊柱管狭窄症のガイドラインでは以下があり
①殿部から下肢の疼痛や痺れを有する
②殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増
悪し、前屈や座位保持で軽快する
③歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する
④MRIなどの画像で脊柱管や椎間孔の変性狭窄状態が確認され、臨床所見を説明できる
上記 4つを全て満たすものを腰部脊柱管狭窄症の診断基準案として提唱しています。
脊柱管の構成要素は年齢とともに変性し、その結果脊柱管は狭窄します。日本における近年の大規模コホート研究※1においては、平均年齢 66.3 歳(21 歳から 97 歳) の 1009 名を対象に移動型 MRI で腰椎を撮像したところ、脊柱管狭窄は全体の 9.3% に存在し、その中で実際に症状を呈していたのは 58.5% であったと報告さ れており、画像上の狭窄は必ずしも症状と結びつか ないことに注意が必要となります。
また、一旦手術適応と診断された中等度の疼痛を有する腰部脊柱管狭窄症患者の25%は保存的に疼痛が軽減し、一方で軽度な疼痛を呈する患者のうち 10 年後に疼痛が増悪したのは56%に留まっていたという報告もあります。従って、腰部脊柱管狭窄症は必ずしも病態が一方的に増悪する疾患ではなく、軽度から中等度の患者の中には、症状が自然にあるいは保存的に軽快する場合も多いことを認識する必要があるようです。
<診断について>
臨床症状や身体所見の評価が最も重要となります。狭窄の部位に応じて感覚神経、運動神経の障害が生じるため、腱反射、痛みやしびれを生じる部位、徒手筋力テストによる筋力の評価に加え、膀胱直腸障害や会陰部の灼熱感など馬尾症状に関する問診が重要となります。
また病状が進行すると立位や歩行に応じて神経性間欠性跛行※2が起こり、痛みや脱力により歩行困難となり歩行可能な距離が短くなります。多くは前屈位や座位での安静保持により症状が軽減し、この点で血管性間欠跛行※3との鑑別が可能であることが多いです。
画像評価としては単純レントゲン写真は腰椎疾患の基本検査項目であり、アライメントの異常、椎間板の狭小化、骨棘の形成が評価できるほか、前後屈の動態撮影により椎体の不安定性を評価します。しかしながら狭窄の有無そのものは単純レントゲンでは評価が困難であり、MRIでの評価が有効となります。
<治療について>
症状が軽度~中等度の腰部脊柱管狭窄症における治療の基本は保存的治療となります。コルセットといった固定は、歩行能力の改善に効果がある可能性が示されていますが、痛みに対する直接の効果に関してはエビデンスがありません。
また、運動療法は痛みの軽減、身体機能、ADL/QOL の改善に有効であることが報告されています。
薬物治療も一般的に行われる治療ですが、処方の際には症状の原因を分析し適した薬剤を使用する必要があり、一般的に腰部脊柱管狭窄症は、下肢、殿部および会陰部の感覚障害を特徴とする馬尾型、下肢と殿部の疼痛を特徴とする神経根型、および両者を合併する混合型に分類されます。馬尾型に対しては NSAIDs※4よりもリマプロスト※5の方が有効である一方、神経根型に対しては NSAIDsがリマプロストよりも神経根疼痛や腰痛に対する効果が一般的に期待出来るとされています。
また、特に高齢者には有害事象に対する配慮が重要であり、やみくもな薬物療法はむしろ全身状態を悪化させうるため注意が必要とされています。
硬膜外ブロックや神経根ブロックも一般的に行われる治療となります。
膀胱直腸障害などの馬尾症状が重症化した場合や、疼痛・筋力低下などの症状が著しく神経性間欠跛行やADL/QOLの障害が強い場合には手術療法が選択 されます。
一般的には椎間不安定性を伴わない場合には除圧術が行われるが、不安定性を伴う場合などには固定術が併用される場合があります。一般的に80 歳以上の高齢者であっても他の年代と比較し手術の有用性は同等であると報告されていることが多く、全身状態の評価など適応を正しく判断すれば高齢者に対しても手術療法は有効であるとされています。一方で腰痛、安静時のしびれ、下垂足などは術後も残存しやすい傾向があります。
今回は腰部脊柱管狭窄症について簡単に基礎知識の内容を述べさせて頂きました。病名の診断は医師がするものであり、この様なクライアントに関わる際は、本日の内容のようなどを踏まえた上で、その方の症状に合わせた施術やトレーニングなどを行えればと考えます。
本日もコラムにお付き合い頂き本当にありがとうございました。
※1 コホート研究
ある特定の疾患の起こる可能性がある要因・特性を考え、対象集団(コホート)を決め、その要因・特性を持った群(曝露群)と持たない群(非曝露群)に分け、疾患の罹患や改善・悪化の有無などを一定期間観察し、その要因・特性と疾患との関連性を明らかにする研究方法です。原則として、コホート研究は介入をせず、観察のみで行われる研究です。利点としては、ある特性に対する結果の観察に優れ、対象の割り付け時にバイアスを可能な限り避けられ、対象から直接データを集めることができることなどがあげられます。欠点としては、時間・費用的効率が悪く開始時点の対象集団割り付け時に疾患に関与する背景因子に気づかない恐れがあることなどがあげられます。
たとえば、糖尿病患者における身体活動量と、血糖値や体重との関連を調査するために、身体活動量に応じて対象を割り付けし、身体活動量と血糖値・体重との関連を検討するといった研究デザインです。
※2と※3 神経性間欠性跛行と血管性間欠跛行
間欠性跛行とは、しばらく歩くと足に痛みやしびれを生じ、少し休むとまた歩けるようになる症状のことをいいます。
間欠性跛行は神経性と血管性の2つにわけられ、代表的な病気は、神経性跛行を起こす腰部脊柱管狭窄症と血管性跛行を起こす閉塞性動脈硬化症です。神経性でも血管性でも基本的に歩くと足が痛くなるという症状は一緒です。
両者の違いは何かと言いますと、注目すべき点は休むときの姿勢です。血管性跛行の場合、休む時の姿勢には関係なく、歩くのをやめれば症状はよくなります。ところが神経性の場合は立って休んでいても足の痛みやしびれはあまりとれません。たいていの場合、休むときにはベンチに腰掛けたり、しゃがみ込んだりと、腰が前かがみの状態で休んでいることが多いはずです。また、歩くのはつらいけど、意外と自転車には乗れることが多いです。自転車に乗るということは、座っている姿勢に近いので腰が前かがみになっています。これが神経性跛行の特徴です。
※4 NSAIDs
NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatorydrugs)とは非ステロイド性抗炎症薬のことで、鎮痛、解熱、抗炎症作用を併せもつ薬剤の総称です。代表的なものに経口薬のロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニンⓇ )、坐薬で使用されることの多いジクロフェナクナトリウム(ボルタレンⓇ)、注射薬のフルルビプロフェンアキセル(ロピオンⓇ)などがあります。
※5 リマプロスト
血管拡張作用、血流増加作用があり腰部脊柱管狭窄症に伴う自覚症状(下肢疼痛、下肢しびれ)および歩行能力に対する効果が認められている。
本文にありますように 神経根型より馬尾型に効果が大きいのは、馬尾型のケースでは脊柱管内で圧迫などされることで細い毛細血管などが障害され症状が出現していることが多いため、この血管および血流に作用するリマプロストの効果があるとされています。
コラム著者紹介
梅澤拓未先生
理学療法士として、急性期病院・認知症専門病院で13年勤務。
資格
理学療法士
呼吸療法認定士
認知症ケア専門士
介護支援専門員(ケアマネージャー)
福祉住環境コーディネーター2級
日本コアコンディショニング協会マスタートレーナー

