TC研究会の奥川です。

私達の業界では絶えず新しい事実が発見されていて、数年前まで定説だった事が今では否定されていたり、重要視されなくなっている事は多々あります。

極端な例で言うなら

「下半身を鍛えるにはうさぎ飛び」
「練習中に水を飲まない」
「卵は一日1個まで」

何て考えは、昔は常識でしたが今では少しナンセンスになっています*もちろん、うさぎ飛びでパフォーマンスが上がる人や卵を食べると良くない人も世の中にはいる事は前提です

そこまで極端な例だとイメージが湧かないなら

「腰痛には上体起こしで腹筋を鍛えさせれば良い」と
私が駆け出しのインストラクターだった20年前は誰もが口にしてた言葉は

脊柱の分節ごとの制御にインナーユニットが主要な役割を果たしていると、様々な実験より分かった今となっては、ほとんど耳にする機会も無くなってきている事を考えるとイメージしやすいのではないでしょうか?

その様に科学的事実と言えども、新しい知見により見直される事は多々あり。
人の身体の健康に関する事を職業とするなら、多かれ少なかれ新しい情報にアンテナを張る努力は必要だと思います。

私も目新しい情報や知見は無いか?とちょこちょことアンテナを張り、日々気にして仕事をしていますが
最近面白いなぁ、と感じたのが『ダイナミックカップリング』という人の運動を見る時の新しい考え方でした

ダイナミックカップリングとは…

『ある筋が発揮した張力が体節(骨)に加わり、その作用が当該筋が直接またいでいない体節にも伝わる現象』(引用:姿勢と歩行~協調からひも解く~ 樋口ら著)下のリンクより購入出来ます↓



なんの事やらという感じですが、文献では具体例として一般的に膝関節の伸展運動を司る「大腿広筋群(内側、中間、外側広筋)」が実際の人の運動時には股関節の伸展の役割も果たしていると記しています。

「膝関節伸展筋でしかも単関節筋なのに、何故?」とすぐ疑問が湧くと思います。

『単関節筋である広筋群が発揮する張力は、直接的には大腿と下腿に作用し、大腿遠位と下腿近位をそれぞれ後方へと加速させる、その結果、膝関節は伸展方向に加速される(この時期には、大腿および下腿は実際には前方への速度を有している)、さらに遠位に向かっては、広筋群の張力は下腿および足部を通じて床を押す力となり、また一方、近位に向かっては大腿を通じて股関節へと伝わり、股関節を伸展方向へと加速させるとともに関節内部では前上方に向かう力(関節間力)が生じる、さらにその力は骨盤、そして脊柱を通じて、最終的には体幹を前上方へと加速させる力となる』

説明読んでも「なんの事やら…」と感じる方も多いかと思います、確かに関節運動学やバイオメカニクス的な知識が無いと少し分かりにくいところです。
*そんな方は書籍には分かり易いイラストも入っているので、是非ご購入し、確かめてみてください。

このような知見が臨床でどのように役立つか?それも文献には説明が載っています
少し紹介しますと、大腿広筋群だけでなく、同じく膝関節伸展筋である「大腿直筋」もダイナミックカップリングから見ると、同様に股関節伸展に関わっています。

ダイナミックカップリングを考慮した視点から考えると、今まで随意的に膝関節屈曲運動をリハビリで行わせていた片麻痺患者などで散見される「stiff-knee gait(膝関節屈曲角度が減少した歩行)」ですが

大腿直筋の発火タイミングが早すぎる事が影響している可能性が大きいそうです。
そのような事実を考慮すると、stiff-knee gaitには膝関節の屈曲運動より、むしろ股関節屈筋の作用により大腿骨遠位を前方へ加速させる動きを練習すると良い、と記されています。

リハビリの世界で認められた新しい知見が、数年後に一般の方やスポーツ愛好家、アスリートのトレーニングに応用されるケースは多々あります。

PNFやバランスボール、インナーユニットのトレーニングなどが良い例かと思います。

ダイナミックカップリングの考えも数年後には、一般の方々にもスタンダードな物になっているかもしれませんね?

さて、このような話をすると中には「身体に関しては科学的な通説や事実だって、技術や研究が進歩すれば覆される事が多々ある、あてにならない、学ぶ必要が無い」
と極論をおっしゃる方がいますが、私はそうは思いません。

この書籍でも
『解剖学的見地からイメージ出来る筋の作用とは全く異なる作用が、ダイナミックカップリングにより身体内部では発生している~中略~「直観と相いれない機能」に目を向けていく事が、動きの正しい理解には必要である。』
と締めています。

ですが、これは科学的事実、解剖学や生理学を否定しろという意味では無いと思います。

科学をベースとする事を前提としての話だと思います。

それに人間が他の動物と異なり、ここまで文明を発展させてきた根本的な要因は「世代を渡った知識、技術の継承」にあるのは疑いようのない事実ではないでしょうか。

科学を否定する事は今ある文明社会を否定するように思えます、それは行き過ぎた考え方だと思います。

最後大げさな話になってしまいましたが、科学を土台としながらも、盲信せず。
自分自身の感覚も磨き、絶えず新しい知見や情報を学ぶ事が身体の健康にまつわる仕事を生業とする者としては大切な事かと、私は思っています。