身体へアプローチする有効な方法の一つとして徒手的なアプローチがあります。
このページをご覧の方にも徒手的なアプローチをお仕事に取り入れている方はたくさんいらっしゃるかと思います。
徒手的なアプローチをする方にとって「皮膚感覚」について考えることは非常に重要だと感じている方も多いのではないでしょうか?自身の皮膚感覚はもちろん、クライアントの皮膚感覚も

クライアントの皮膚から伝えられる情報を、リアルタイムに自分の手の皮膚を通して感じ、次のアプローチにすぐ還元出来るのも徒手的アプローチの醍醐味の一つです。

近年、身体と心の繋がりにおいてこの「皮膚感覚」が心に与える影響が注目されています。

スキンシップ

「表皮と大脳などの神経系が発生初期において同じ外肺葉に由来する(皮膚感覚と人間のこころ:傳田光洋)」ことから皮膚感覚は心に密接に関係する事が推測されます。

皮膚の受容器(マイスナー小体、メルケル触盤、パチニ小体、ルフィニ終末など)で捉えた刺激は、電気信号として脳に伝わります。
その脳への伝導路には原始感覚系、識別感覚系の二つの経路があります。

原始感覚系では、脳が活性化され、触れられた刺激から、快や不快といった原始的な情動を引き起こし、そこからさらに攻撃や逃避といった運動を起こす事と結びついています。

原始感覚系として働く神経線維の一つ、遅速C線維はゆっくりとした皮膚への刺激にのみ反応し働く事が分かっています、すなわちスキンシップを取る時のようなゆっくりとした皮膚への触刺激が原始的な情動を引き起こす働きがある事が分かっています。

また皮膚は視覚、聴覚、味覚、嗅覚といった他の感覚に比べ、意識の影響が出やすい感覚とも言えます。
例えば魅力的な女性の赤いドレスも大男の強盗が振り上げる赤い鉄パイプも、同じ赤色に見える事でしょうが、魅力的な女性に手を握られるのと、強盗に手を握られるのでは全く異なる皮膚感覚と感情を覚える事だと思います。

この二つから考えると、他人に触られて心地良いと感じるためには、ゆっくりとした皮膚刺激で働き情動を引き起こす遅速C線維を刺激する事と共に、どのような人に、どのような環境で触れられるか?などの心理的な問題も考慮する必要があるようです。

成長の早い段階で適切なスキンシップを取る事はラットの実験からストレス耐性や免疫力を高める効果があるのではと推測されています。

人においても幼少期に親子のスキンシップを積極的に取る事が、その後の心の健康に影響を与えると言われています。

研究によると、乳児期に母親とのスキンシップが少なかった大学生は、多かった大学生よりも、人間不信や自閉的傾向が高く、また自尊心が低い傾向があったそうです。

また、心の問題である自閉症児や多動、注意、集中の困難といった症状がある場合に全身にゆっくりとした締めつけ圧を加えるスクィーズマシーンといったものが臨床で効果を上げ、皮膚に対する「圧」の触刺激が心に与える良い効果があることを示唆しています。

いずれにしてもアプローチの方法や環境への配慮といったものが十分に必要になりますが、適切な方法をとるなら徒手で身体にアプローチすることは心に対して良い効果が期待出来そうです。

「皮膚感覚の不思議」の著者で桜美林大学リベラルアーツ学群教授の山口創先生は現代社会において視覚、嗅覚、聴覚、味覚への刺激に対して触覚への刺激が希薄になっている事の心と体への悪影響を危惧しています。

確かに現代社会では視覚が非常に優位で、視覚を満足させる工夫は社会の至るところに見受けられると思います。(テレビ、映画、インターネット、ゲーム、…etc)
また、聴覚(音楽)、嗅覚(アロマオイル)、味覚(グルメ)も十分刺激されていそうですが触覚だけは希薄になっている感はいなめません…

解剖学者の三木成夫先生によると視覚を始め様々な感覚のベースとなるのは、まだ視力が弱い赤ちゃんの頃に敏感な手や指、舌や唇から得た触感覚だそうです。(内臓のはたらきと子どものこころ:三木成夫)

豊かな触感覚を幼少時に経験した子供は、その後獲得していく知覚の数々が豊かに育まれていく基盤を得ている事が考えられます。

大人になっても触感覚が他の知覚に関係している事は、前述したように触感覚が情動に大きく関係する事からも多分に考えらえれます。

その触感覚が希薄になっている現代社会において、皮膚感覚に直接訴えかけれる身体への徒手的なアプローチが果たす役割は非常に大きいのではないか?と私は考えています。(自分が徒手療法をするのでひいき目に見る訳ではなくです^^;)

そのような事もありTC研究会では徒手的なアプローチの可能性を追求するというのも運営の目的の一つに掲げています。

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数回に渡る長文閲覧いただきありがとうございました!

心と身体の繋がりについてまとめた今回のコラムですが、次回でまとめの回にしたいと思います。m(_)m