こんにちは!奥川です。

 

今回は私の過去の恥ずかしい経験談から始めます。

 

私は昔からファッションに全く自信がありません。

20代の頃、年頃でもあったのでブランド物の服を買ったり、お洒落にも少し目覚めました。しかし、とにかくセンスがなく、コーディネートも全くダメダメ…

 

お金を掛けた割には「なんかダサい」という結果になることばかりでした(笑)。

 

結局、お洒落で有名だった友人に服を買うたびについてきてもらい、「これを買えば大丈夫」と言われた服をそのまま買うようになりました。

 

その友人は学生の頃から本当にお洒落で有名な人気者でした。

「ユナイテッドアローズ」や「コム・デ・ギャルソン」のようなブランドも好きでしたが、古着屋巡りも大好きで、とにかくファッションそのものが好きな人でした。

 

私のように「モテたい」「格好良く見られたい」という理由で流行を追いかけていたのとは、根本的に違っていたんですよね。

 

社会人になってからは仕事柄スーツを着ることが多くなり、以前ほど悩まなくなりました。

とはいえ、毎回その友人に服選びをお願いするわけにもいきません。

 

そこで私が考えた作戦は、とても単純でした。

「GAP以外では服を買わない。」

同じブランドで揃えれば全体に統一感が出るので、大きく失敗することはありません。

 

当時フィットネスクラブでジム責任者をしていたのですが、ある日後輩から、

「奥川さんって服のタグを見ると、いつもGAPですね(笑)。スタッフみんな陰で"GAP"って呼んでますよ。」

と笑われたこともありました。

 

まぁ、それは今でもあまり変わっていません(笑)。

漏れなく、それは笑い話で済みます。

 

なぜなら私はファッションを楽しむ"ユーザー"だからです。

 

しかし、もしこれがファッションを提供する立場だったらどうでしょう。

ショップ店員がファッションをほとんど知らなかったら。

ブランドのデザイナーが流行だけを追いかけ、素材や縫製、スタイリングの知識を持っていなかったら。

 

きっと私たちは、その人から服を買いたいとは思わないでしょう。

 

実は以前、専門学校時代に知り合った元ファッションデザイナーの女性と親しくしていた時期がありました。

三愛やユナイテッドアローズなどでデザイナーとして仕事をされていた方で、施術の練習にもよく付き合っていただきました。

 

彼女はよく、
「私はファストファッションは好きじゃない。」
と言っていました。

 

もちろん価格の問題ではありません。

素材やシルエット、縫製など、一着の服が出来上がるまでの背景を知っているからこその言葉だったのでしょう。

 

そして私には、
「奥川くんは、お洒落じゃなさ過ぎるから銀座は立ち入り禁止ね(笑)」
とよくからかわれていました。

 

当時は笑って聞いていましたが、今思えばとても印象に残る言葉です。

 

流行を知っていることと、本質を理解していることは全く違う。

そして、その違いは提供する側になればなるほど重要になります。

 

では、私たちトレーナーや運動指導者はどうでしょうか。

流行しているメソッドだけを知っていれば、本当に良い指導者と言えるでしょうか。

 

ユーザーとして一つのメソッドを実践することは何も悪いことではありません。

しかし、指導者として考えた時には、その背景にある生理学や栄養学、そして「なぜその方法が機能するのか」を理解していることが求められるのではないでしょうか。

 

今回ご紹介するコラムは、東京大学大学院で栄養学・生理学の研究活動を行い、その後も現場で数多くのクライアントを指導してきた藤田先生によるものです。

 

研究だけでもなく、現場だけでもない。

自らもトライアスロン競技に取り組み、持久系アスリートからダイエット目的の一般クライアントまで幅広くサポートしてきた、まさに「研究」と「現場」の両方を知る実践者です。

 

だからこそ、流行の食事法やテンプレートを紹介するのではなく、「なぜ人によって結果が変わるのか」「なぜ一律の指導ではうまくいかないのか」という本質を、生理学の視点から分かりやすく解説してくださっています。

 

今回のテーマはボディメイクに携わる方に特に関係する内容ですが、その根底にある「メソッドではなく本質を学ぶ」という考え方は、すべての運動指導者に共通するものだと思います。

 

ぜひ最後までご覧ください。

 

コラム:ピラティスブームの裏に隠れた「痩せない罠」

トータルコンディショニング研究会は、

「教える・教わる」ではなく、育て合う学びをもう一度。
「売られる学び」ではなく、交わす学びを。

をキーコンセプトに活動していきます。引き続き、ご支援ご協力の程をよろしくお願いいたします。

 

メインイメージ

 

現在、日本のフィットネス業界において、ピラティスはかつてないほどの巨大なブームを迎えています。

著名なモデルや韓国のトップアイドルたちが洗練されたスタジオでリフォーマー(専用マシン)を使い、しなやかに身体を動かす姿がSNSで拡散され、お洒落で洗練されたボディメイクの代名詞となりました。

 

従来の「ウエイトを担いで激しく追い込む筋トレ」に対するアンチテーゼとして、あるいは「バキバキにならずに、縦ラインの入ったお腹やスラリとした四肢を手に入れたい」という女性たちのニーズを捉え、スタジオの数は急増の一途を辿っています。

 

しかし、この華やかなブームの裏で、「週に何度もピラティスに通い、食事も気をつけているのに、体重が全く落ちない」「全然痩せない」という悩みを抱えるクライアントが急増しています。

プロであるはずのインストラクターやトレーナーが、ピラティスの持つ本来の効果とクライアントの「痩せる(脂肪を落としたい)」という目的のミスマッチに気づかず、盲目的にレッスンを提供してしまっているケースが少なくありません。

本コラムでは、ピラティスブームの背景にある「痩せない罠」について、解剖生理学的な視点からその根拠を紐解き、指導者が持つべき真の視点について解説します。

 

1. インストラクターが陥る「インナーマッスル神話」の盲点

現場のインストラクターが陥りがちな最大の盲点は、「インナーマッスル(深層筋)を鍛えて骨盤や背骨を整えれば、基礎代謝が上がって自然と痩せる」という理論の過信です。

 

ピラティスは、リハビリテーションを起源とし、腹横筋や多裂筋、骨盤底筋群といった体幹部のインナーマッスルを正確にコントロールすることで、姿勢を改善し、身体の機能を高める優れたメソッドです。

 

しかし、生理学的な事実として、これらのインナーマッスルは「姿勢を維持するため」の筋肉であり、持久力には優れているものの、筋肉の体積(ボリューム)自体は非常に小さいという特徴があります。

 

基礎代謝を大きく引き上げるためには、大臀筋(お尻)や大腿四頭筋(太もも)といった体積の大きい「アウターマッスル(表層筋)」に強い負荷をかけ、肥大させる必要があります。

インナーマッスルをどれだけ緻密に鍛えたとしても、体積の変化が小さいため、基礎代謝の向上によるカロリー消費量の増加はごくわずかです。

インストラクターが「骨盤を整えれば代謝が上がる」という言葉を魔法のように使い、それだけで体脂肪が燃えるかのように錯覚させてしまうことが、クライアントの「痩せない」という不満を生む根本的な原因になっています。

2. ピラティスで痩せない理由を紐解く解剖生理学的根拠

では、理路整然とピラティスを行い、食事のコントロールまでできているクライアントが痩せないのはなぜでしょうか。そこには3つの生理学的な理由が存在します。

 

① 運動量と消費カロリーの絶対的な不足

脂肪を1キログラム減らすためには、約7,200kcalのアンダーカロリー(消費が摂取を上回る状態)を作る必要があります。

 

しかし、ピラティスの1時間あたりの消費カロリーは、体重やレッスンの強度にもよりますが、おおよそ150〜250kcal程度に過ぎません。これは軽いウォーキングと同等、あるいはそれ以下です。

 

ピラティスは「身体の動かし方を学ぶ(脳と筋肉の神経回路を繋ぐ)運動」であり、心拍数を激しく上げて脂肪をエネルギーとして大量に消費するような「エネルギー消費型の運動」ではないのです。

クライアントが「スタジオでこれだけ頑張って動いたのだから、脂肪が燃えているはず」と思い込んでいる裏で、実際のエネルギー消費量は驚くほど少ないという現実があります。

② 「筋肉の慣れ(適応)」による省エネ化

マットピラティスを長期間続けていたり、いつも同じような強度のリフォーマークラスを受け続けていたりすると、人間の身体は驚くべき精度でその動きに「適応(省エネ化)」します。

 

最初のうちは、不慣れな姿勢を維持するために多くの無駄なエネルギーを使い、筋肉痛にもなっていた動きが、上達するにつれて「最も少ないエネルギー(最小限の筋出力)で、効率よく動かせる」ようになっていきます。

レッスン中に「汗をあまりかかなくなった」「以前ほどの疲労感がない」という状態は、クライアントが上達した証拠であると同時に、運動としての消費カロリーがさらに低下しているサインでもあります。

指導者がプログレッシブ・オーバーロード(漸進性過負荷の原則)を意識せず、同じ強度のエクササイズを繰り返させていると、身体は完全に停滞モードに入ります。

③ 「体重減少」と「サイズダウン(引き締め)」の混同

生理学的に、筋肉は脂肪よりも密度が高く、同じ体積であれば約1.2倍の重さがあります。

 

ピラティスによって体幹部の筋肉が引き締まり、骨盤の歪みが整ってポッコリお腹が凹んだとしても、それは「見た目の変化(アライメントの改善)」であって、「体脂肪の減少」とは別現象です。

 

クライアントが「体重」という数値を基準にダイエットを捉えている場合、インナーマッスルが発達して姿勢が伸び、ボディラインがどれだけ綺麗になっても、体重計の針が動かなければ「痩せない」と判断してしまいます。

指導者側が「見た目の引き締まり」と「脂肪燃焼(体重減少)」のメカニズムの違いを明確に説明できていないことが、このミスマッチを助長しています。

3. なぜピラティスは「やってる感」が強いのか?

消費カロリーが少ないにもかかわらず、クライアントが「ものすごく運動した気(やってる感)」になるのは、ピラティスが強烈な「脳の疲労」を伴うからです。

 

ピラティスでは、細かな骨の動き(エロンゲーションなど)や、独特な呼吸法、左右のバランスなどを常に意識し、集中し続けることが求められます。

これは固有受容感覚(身体のセンサー)をフル活用する作業であり、肉体的な疲労よりも「脳や神経系の疲労」が強く出ます。

終わった後に感じる心地よい疲労感を、クライアントは「激しい運動をしてカロリーを消費した」と脳内で誤って変換してしまいがちです。

これが、食事制限への甘えや、日常の活動量(NEAT)の低下に繋がります。

4. ピラティスで痩せないクライアントを救う指導者の視点

ピラティスを頑張っているのに痩せないというクライアントに対して、指導者が取るべき正しいアプローチは、単に「もっとレッスンに来てください」と回数を増やすことではありません。

 

① スタジオの外の「23時間の過ごし方(NEAT)」への介入

ピラティスで得た「正しい骨格の配置(ニュートラルポジション)」を、週に1〜2回のレッスンの中だけで終わらせず、スタジオを出た後の日常生活(歩く、立つ、座る)の動きにどう落とし込ませるかが重要です。

 

正しい姿勢を日常生活で維持できるようになれば、普段の歩行や階段の昇り降りといった何気ない動作における筋肉の動員率が上がり、日常生活全体の消費カロリー(NEAT)を底上げすることが可能になります。

スタジオでの1時間だけでなく、日常の活動量を増やすように行動変容を促すことこそが、真の食事管理をサポートする結果に繋がります。

② 評価基準のシフト(体重からアライメントへ)

クライアントに対して、体重計の数値に一喜一憂するのをやめさせるカウンセリングが必要です。

「ピラティスは体重を落とす運動ではなく、身体のパーツを正しい位置に戻し、服を綺麗に着こなすための骨格メイクである」というコンセプトを共有します。

ウエストやヒップのサイズ測定、あるいはタイトなウェアを着用した写真でのビフォーアフターの比較を行い、「体重は変わっていなくても、体型は確実に変わっている」という事実を視覚的に理解させることが、クライアントのモチベーションを維持し、不満を解消する鍵となります。

5. まとめ:ブームを超えた真の価値を提供する

現在のピラティスブームは、多くの人が自分の身体の「骨格や姿勢」に目を向ける素晴らしいきっかけとなっています。

 

しかし、「流行っているから」「お洒落だから」という理由だけで、脂肪燃焼を目的とするクライアントにピラティスだけを処方し続けるのは、指導者としての誠実さを欠いています。

 

ピラティスは、身体の土台(アライメント)を整える最高のツールです。

もしクライアントの目的が「大幅な体脂肪の減少」であるならば、ピラティスで動ける身体を作った上で、日常の活動量を増やすようにアプローチしたり、マイルドな食事の引き算を行ったり、時にはアウターマッスルを動かす有酸素運動や筋トレを組み合わせるような包括的な提案が必要です。

 

流行の波に流されず、解剖生理学的な事実をベースに、ピラティスの「できること」と「できないこと」を明確に見極めること。

そして、クライアントの本当の目的に寄り添ったロードマップを描くことこそが、このブームの中で一過性で終わらない、本物の指導者に求められる資質なのです。

 

<コラム執筆者紹介>
藤田英継先生

藤田英継(ふじたひでつぐ)先生

・合同会社PROTEIOS代表

・パーソナルトレーニングジムevergreen 代表

・東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境系 身体運動科学 修士課程修了

・2008年よりパーソナルトレーナーとして活動開始

・大学院では脂肪・糖質代謝を研究し、遺伝子・ホルモン・細胞レベルから身体づくりを学ぶ

・都心スポーツクラブで3年連続売上トップを獲得

・延べ1万人以上のセッション実績

・書籍執筆、雑誌監修、通信教育講座のプロデュースなども担当

・現在は健康リテラシー向上やトレーナー育成事業にも取り組む

 

編集後記

藤田先生のコラムは、今回も非常に示唆に富む内容でした。

私たちは、流行しているメソッドをそのまま提供する「ユーザー」で終わるのではなく、目の前のクライアントに合わせて最適な方法を組み立てられる「創造者」でありたいと私は思っています。

 

そのためには、一つのメソッドを信じ続けるのではなく、その背景にある原理・原則を理解し、「なぜ?」を問い続ける姿勢が欠かせません。

 

知識を集めることは大切です。

しかし、それだけならAIはこれからますます得意になっていくでしょう。

 

知識を検索し、整理し、要約することだけなら、AIは人間をはるかに上回る時代になりました。

だからこそ、私たち専門家に求められるのは、知識の量ではありません。

 

目の前のクライアントの身体や生活、価値観を理解し、その人にとって最適な答えを創り出せる力です。

 

AIには「答え」を探すことはできても、「その人に合った答え」を一緒に創ることはまだできません。

そこに私たちの存在価値があるのだと思います。

 

そして、もう一つ。

今は情報があまりにも多い時代です。

SNSを開けば、毎日のように新しいメソッドが現れ、「これが正しい」「いや、こちらが正しい」と様々な情報が飛び交っています。

まさに情報の濁流です。

 

一般のクライアントが、その中で何を信じれば良いのか分からなくなるのも無理はありません。

 

だからこそ私たち専門家は、自分自身がその濁流に流されるのではなく、本当に価値のある情報を見極め、クライアントが安心して進める方向を示せる存在でありたいものです。

私が好きな言葉があります。

 

「勉強とは勉め強いること。学問とは学びて後に問うがあるもの。」

 

ただ知識を集めるだけではなく、「なぜなのか?」を問い続ける。

私は、その姿勢こそが本当の専門家を育てるのだと思っています。

 

And, そのような専門家が増えることが、結果としてクライアントを幸せにし、業界全体の価値を高めることにもつながると信じています。

 

もしあなたが、
「流行を教える指導者」ではなく、
「一人ひとりに合わせた価値を創造できる指導者」
を目指したいのであれば、7月12日に開催する藤田先生のWebセミナーは、きっと多くの学びと気づきを与えてくれるはずです。

 

これは単なるセミナーではありません。

同じ志を持つ仲間と出会い、互いに学び、育て合うための第一歩でもあります。

 

ぜひ7月12日、一緒に学びましょう。
皆さまとお会いできることを楽しみにしております。

 

【セミナー開催のご案内】

7月開催の藤田英継先生の栄養学、生理学 Webセミナー

 

<藤田英継先生のセミナーお知らせ>

 

【7月5日(金) 録画配信】
三大栄養素の基本のき

https://www.okugawaseitai.com/r8-628-fujita

糖質・脂質・タンパク質。すべての栄養指導の土台となる知識を、生理学的視点から体系的に学びます。


【7月12日(金) ライブセミナー】
痩せない原因はクライアントではない ~トレーナーが見落とす代謝と栄養の盲点~

https://www.okugawaseitai.com/r8-712-fujita

クライアントは頑張っている。それなのに結果が出ない。その時、原因はクライアントでしょうか?それとも私たち指導者側の理解不足でしょうか?

 

身体は単純な足し算では動きません。代謝、ホルモン、自律神経、NEAT、栄養。これらが複雑に絡み合っています。

 

もしあなたが、
・メソッド巡りに少し疲れている
・SNSの流行に振り回されたくない
・もっと自信を持って指導したい
・顧客に合わせて本当の意味でパーソナルな提案をしたい
そう思うなら、今回の2つのセミナーは単なる知識習得ではなく、「メソッドを学ぶ側」から「メソッドを評価し使いこなす側」へ進むための第一歩になるはずです。

 

皆様のご参加をお待ちしております。

HIITで痩せない理由〜プロも陥る指導の落穴と生理学的真実〜

「HIIT(高強度インターバルトレーニング)をやっているのに、なぜか痩せない……」

 

今、フィットネス現場やSNSでこのような悩みを抱える人が増えています。

短時間で劇的な効果が出ると謳われ、多くのパーソナルジムやスタジオレッスンで取り入れられているHIITですが、実は「頑張っているのに結果が出ない」という悲しいミスマッチが多発しているのが現状です。

 

本コラムでは、なぜこれほどまでにHIITが流行しているのか、解剖生理学的な視点を見落としたトレーナーさえも陥りがちな落とし穴とその根拠について、専門的な視点から紐解いていきます。

 

1. なぜ、いま「HIIT」がこれほど流行っているのか?

HIITが世界的なトレンドとなり、今なお根強い人気を誇る最大の理由は、現代人のライフスタイルに完璧にマッチした「タイパ(タイムパフォーマンス)の良さ」にあります。

 

従来の有酸素運動(ジョギングなど)で脂肪を燃焼させるには、最低でも20〜30分以上、できれば1時間近くの時間を投資する必要があるとされてきました。

 

しかしHIITは、「20秒の全力運動+10秒の休憩」を8サイクル繰り返す「タバタプロトコル」に代表されるように、わずか数分から10分程度で完結します。

 

さらに、メディアやSNSが「たった4分でランニング1時間分の効果」「脂肪燃焼細胞が活性化する」といったセンセーショナルなキャッチコピーで拡散したこともブームを後押ししました。

「ラクをして痩せたいわけではないが、時間はかけたくない」という、忙しい現代人のニーズに見事に刺さったことが、HIIT流行の背景にあります。

 

2. トレーナーが勘違いしがちなHIITの落とし穴と、その生理学的根拠

しかし、現場のトレーナーが「HIITをやらせておけば痩せる」と盲信しているケースが少なくありません。ここには、生理学的な視点を見落とした大きな落とし穴が存在します。

 

① 「全力」の定義エラー:ただのキツい有酸素運動になっている

本来、生理学的なエビデンスに基づいたHIIT(タバタプロトコルなど)は、最大酸素摂取量(VO2max)の170%、あるいは最大心拍数の90%以上に達するような「限界を超える全力運動」が必要です。

 

エネルギー代謝システムで言えば、酸素を使わない「解糖系(無酸素性エネルギー代謝)」を極限まで追い込むことで、初めてその恩恵が得られます。

 

しかし、運動初心者や一般のクライアントがここまでの強度を出すことは、肉体的に精神的にも不可能です。

結果として、心臓はバクバクして死ぬほどキツいものの、生理学的には「ただの中途半端にキツい有酸素運動」になってしまっています。

これでは、本来期待される劇的な代謝改善効果は得られません。

 

② 「アフターバーン効果(EPOC)」の過信

多くのトレーナーが「HIITの後は、運動が終わっても数時間にわたって脂肪が燃え続けます(アフターバーン効果)」とお客さまに説明します。

これは生理学的には「運動後過剰酸素消費量(EPOC)」と呼ばれる現象で、乱れた体内環境(乳酸の処理や体温の上昇、ホルモンバランスの調整など)を元に戻すために、通常より多くの酸素(エネルギー)を消費することを指します。

 

確かに効果自体は実在しますが、問題はその「量」です。アスリート並みの超高強度で追い込んで初めて、運動後数時間にわたって数十〜100kcal程度の追加消費が発生するレベルです。

一般のクライアントが現場で行うレベルのHIITでは、アフターバーンで消費されるカロリーは「おにぎり1/4個分」や「一口分のチョコレート」で簡単に帳消しになる程度の微々たるものです。

トレーナーがこの数値を過大評価し、食事管理を甘くしてしまうことが、痩せない大きな原因になります。

 

③ 糖質代謝と脂肪代謝の履き違え

息が完全に切れるほどの高強度運動(無酸素運動の領域)において、体内でメインのエネルギー源として使われるのは「脂肪」ではなく「グリコーゲン(糖質)」です。

 

脂肪が最も効率よく燃焼するのは、心拍数が上がりきらない中強度(最大心拍数の60〜70%程度)の有酸素運動です。

 

高強度のHIITを行うと、体内の糖質が急激に枯渇するため、脳は危機感を覚えて血糖値を上げようと激しい飢餓感(特に炭水化物や甘いものへの欲求)をサグらせます。

トレーナーが「キツい運動をさせたから脂肪が燃えるはず」と思い込んでいる裏で、クライアントの体内では食欲の暴走という逆効果が起きているのです。

 

3. なぜトレーナーはHIITばかりやらせたがるのか?

生理学的なミスマッチがあるにもかかわらず、なぜ多くの現場でトレーナーはHIITを多用するのでしょうか。

そこには、フィットネスビジネスにおける「指導の手軽さ」と「顧客心理のコントロール」が関係しています。

 

一つ目は、短時間で圧倒的な「やった感(満足度)」を提供できるからです。

1時間のセッションの中で、じっくりと正しいフォームを指導し、地味な筋トレを継続させるよりも、最後の10分で音楽をかけてHIITをやらせ、息をゼェゼェ言わせて床に倒れ込ませた方が、お客さまは「今日も限界まで追い込んだ!効いている!」という強い達成感を覚えます。

トレーナー側にとっても、専門的なフォーム指導の技術が少なくても「とりあえずキツい運動をさせる」ことで、顧客満足度を演出しやすいという安易なメリットがあります。

 

二つ目は、タイムマネジメントのしやすさです。

パーソナルジムやグループレッスンにおいて、時間はそのままコストになります。短い時間で「運動を完結させた」という既成事実を作れるHIITは、スタジオの回転率を上げたいジム側や、時間枠をカツカツで回したいトレーナーにとって非常に都合の良いツールなのです。

いわば、商業的なエンタメ化が先行してしまっているのが実態です。

 

4. HIITで痩せない人には何が足りないのか?

もし、HIITを頑張っているのに全く痩せないという人が目の前にいるとしたら、決定的に足りていないのは「ジムの外での過ごし方」、専門用語で言えば「NEAT(非運動性熱産生)の意識」と「自律神経のケア」です。

 

① 日常の活動量(NEAT)の維持

HIITで下半身や体幹を限界まで追い込まれた人は、ジムを出た後の23時間、無意識のうちに「省エネモード」になります。筋肉痛や疲労感のせいで、普段なら使う階段を避けてエスカレーターに乗り、歩く速度が遅くなり、自宅ではソファから動かなくなります。

 

このように、日常生活における家事や移動などの消費カロリー(NEAT)が激減した結果、「HIITで消費したわずかなカロリー」よりも「日常生活で減ってしまった消費カロリー」の方が大きくなり、トータルの消費カロリーがマイナスに転じないという現象が起こります。

 

② 身体の「ゆとり(自律神経の安定)」

HIITは身体にとって「強烈なストレス(危機状態)」です。寝不足が続いていたり、仕事のストレスを抱えていたりする人がHIITを行うと、ストレスホルモンである「コルチゾール」が過剰に分泌されます。

 

コルチゾールが高止まりすると、体は水分を溜め込んで浮腫みやすくなり、筋肉を分解してエネルギーに変えようとするため、基礎代謝が落ちてしまいます。

つまり、心身の休養という「土台」がないままハードな刺激だけを与えても、体は防衛反応を起こして脂肪を頑なに手放そうとしません。

 

5. 手段の目的化を防ぐ

HIITは、心肺機能の強化や、インスリン感受性の改善(糖代謝の向上)において、非常に優れた科学的エビデンスを持つ素晴らしいトレーニングメソッドです。決していかがわしい手法ではありません。

 

しかし、それはあくまで「適切な体力を持ち、日常生活が安定している人が、正しい強度で行う」という前提があってのものです。

「キツい運動をすれば、それだけで脂肪が魔法のように燃える」という盲信は、指導する側も受ける側も捨てなければなりません。

 

ボディメイクの本質は、ジムの中での10分間だけでなく、「その後の23時間をどう快適に、活動的に過ごせる体を作るか」にあります。

目の前のクライアントのライフスタイルや、身体の生理学的な反応を無視してHIITばかりを乱用する指導は、プロの仕事とは言えません。

 

「木を見て森を見ず」の指導から脱却し、クライアントが真に健康的に、持続可能な形で変われるアプローチを見極めること。

それこそが、情報が氾濫する現代においてトレーナーに最も求められている本質なのです。

 


 

<コラム執筆者紹介>

藤田英継先生

藤田英継(ふじたひでつぐ)先生

  • 合同会社PROTEIOS 代表
  • パーソナルトレーニングジムevergreen 代表
  • 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境系 身体運動科学 修士課程修了
  • 2008年よりパーソナルトレーナーとして活動開始
  • 大学院では脂肪・糖質代謝を研究し、遺伝子・ホルモン・細胞レベルから身体づくりを学ぶ
  • 都心スポーツクラブで3年連続売上トップを獲得
  • 延べ1万人以上のセッション実績
  • 書籍執筆、雑誌監修、通信教育講座のプロデュースなども担当
  • 現在は健康リテラシー向上やトレーナー育成事業にも取り組む

最新ロボットが辿り着いた「視覚」と、あの日の私の見た世界

1. 世界を驚かせた「プロに勝つ卓球ロボット」の秘密

2026年4月、国際科学誌『Nature』に掲載された一つのニュースが、ロボティクスと認知科学的アプローチの境界線を塗り替えました。

https://www.nature.com/articles/s41586-026-10338-5

ソニーAIが開発した卓球ロボット「Ace」が、人間のプロ卓球選手を公式に撃破したのです。(下は実際の映像)

秒速20mを超えるスピードで急峻なカーブを描くピンポン玉。

従来のAIが苦戦したこの「超高速の対話」をAceが制することができた理由は、演算速度の向上だけではありません。

その鍵は、人間の視覚メカニズムを工学的に模した
「イベントベースカメラ(イベントカメラ)」という革新的な視覚システムにありました。

従来のカメラ(フレームベース)が1秒間に数十枚の静止画を撮り、その「絵のパズル」を比較して動きを推論するのに対し、イベントベースカメラは画素ごとに「輝度(明るさ)が変化した瞬間」だけを非同期に送信します。

静止した背景は完全に無視し、動体が生じさせた「パルス(イベント)」のみをマイクロ秒単位で捉えるこのシステムは、データ量を1/10から1/1000にまで劇的に圧縮し、圧倒的なリアルタイム性を実現しました。

▼ 従来のカメラとイベントベースカメラの違い

📷 従来のカメラ(フレームベース)

  • 仕組みの比喩: 1秒間に何度も写真を撮り、犯人がどこに移動したか探すパズル
  • データの性質: 背景も含めた画面全体の情報を、コマ(フレーム)ごとに送り続ける
  • 計算の効率: 動かない背景データも重複して処理するため、負荷が大きく遅延が生じやすい

⚡️ イベントベースカメラ

  • 仕組みの比喩: 暗闇の床に敷かれたセンサーが、足跡が光った順番だけで動きを察知する仕組み
  • データの性質: 動きや変化があった「差分」のみを、非同期のパルスとしてリアルタイムに送る
  • 計算の効率: 変化のない情報は「ゼロ」として扱うため、超高速・低消費電力で反応できる

2. 私たちは「ありのままの世界」を見ていない

この最新ロボットの視力に驚かされる一方で、身体の専門家である私は、ある種の既視感を覚えずにはいられませんでした。

なぜなら、私たち人間の網膜こそが、この「イベントベースカメラ」そのものだからです。

人間の網膜が脳へと送っているデータは、実は映画のような鮮明な映像ではありません。
網膜の視細胞は輝度の変化(エッジや動き)のみをパルスとして送っており、脳に届く情報は驚くほどスカスカで不完全なものです。

ここで一つの疑問が生じます。
網膜が「変化」しか捉えないのであれば、なぜ私たちは静止している景色を見続けられるのでしょうか。

その秘密は「マイクロサッカード(微小躍運動)」と呼ばれる、無意識に行われる眼球の微細な振動にあります。

私たちの目は常にガタガタと震えることで、静止画の中に擬似的な「輝度の変化」を作り出し、景色が消えてしまうのを防いでいるのです。

では、網膜から届く断片的なパルスを、誰が「クッキリとした3次元の世界」へと書き換えているのか。
それが脳の「予測符号化(Predictive Coding)」という機能です。

脳は網膜からのスカスカな情報をヒントに、過去の記憶や遺伝子レベルの認知システムを用いて、欠損したデータをCGのように3D補完しています。

私たちはありのままの世界を見ているのではなく、脳が予測した「都合の良い現実」を毎瞬投影しているに過ぎません。

この「予測」という名のサボりがバグを起こした状態が「錯視」です。

例えば、静止画が動いて見える「周辺ドリフト錯視」や、存在しない輪郭が見える「カニッツァの三角形」などは、脳が「ここには動きがあるはずだ」「輪郭があるに違いない」と現実を捏造した証拠です。

私たちの意識は、脳による高度な画像編集を経た後の「投影された作品」を受け取っているのです。

3. ヴィパッサナー瞑想の果てに、世界から「奥行き」が消えた瞬間

私は長年、ヴィパッサナー瞑想という「物事をありのままに観る」訓練を継続しています。

ある日、極限まで集中が高まった瞑想の果てに、私は脳の認知プログラムが文字通り「一時停止」した瞬間を目撃しました。

数時間に及ぶ静坐を終え、ゆっくりと目を開けた時のことです。
目の前に広がっていたのは、いつもの慣れ親しんだ3次元の世界ではありませんでした。

それは、奥行きが完全に消失した「平面に色を塗っただけの2次元」の世界。

壁も、机も、窓の外の樹木も、すべてがパッチワークのように平坦な色の塊として網膜に貼り付いていました。

太陽の光が射さないステンドグラスのように、世界から内側からの厚みが消え失せていたのです。

臨床現場で数千人の身体を観てきた専門家として、私は異常事態には慣れているつもりでした。
しかし、この時ばかりは専門家としての仮面が剥がれ落ち、本能的に「ビビって」しまいました。

この現象を神経科学の視点で解釈するならば、一つの仮説として説明することができます。

私個人は、この体験が瞑想による深い静止状態によって、マイクロサッカードや予測符号化ネットワークの活動様式に何らかの変化が生じた結果ではないかと考えています。

もちろん、当時の脳活動を計測していたわけではないため断定はできません。

しかし少なくとも主観的な体験としては、脳が普段行っている「これは机である」「これは遠くにある」といった自動的な意味づけや立体補完が一時的に弱まり、通常であれば意識に上がってこない感覚情報が前景化したように感じられました。

言い換えれば、脳内で加工された完成品ではなく、その手前にある「生の感覚データ」に近いものが露出したかのような感覚です。

世界が立体に見えるのは、私たちの身体システムが環境との相互作用を通じて絶えず現実を構築しているからなのかもしれません。

その構築プロセスの一部が一時的に静まったとき、私の目の前には「色のパッチが並んだ平面世界」が現れた――少なくとも私自身は、そのように解釈しています。

世界が立体に見えるのは、私たちの身体システムが環境と「ダンス」を踊り、毎瞬世界を構築しているからに他なりません。

そのダンスを止めた時、世界はただの色のパッチに成り果てる。

それは生命が現実という幻影を作り出す舞台裏を、ほんの一瞬だけ覗き見てしまったような、畏怖を伴う体験でした。

4. ヴァレラが語った「歩くことで、道ができる」

この体験の正体を教えてくれたのは、認知科学の巨人フランシスコ・ヴァレラでした。

ダライ・ラマ14世とも深い親交を持ち、「瞑想する科学者」として知られた彼は、チベット仏教の知恵と神経科学を融合させ、「エナクション(立ち上げ)」という革新的な理論を提唱しました。

ヴァレラは、世界は最初から客観的な立体物としてそこに用意されている(環境実在論)のではないと説きました。
※これは「アフォーダンス」と対立する概念ですが、私はヴァレラが正しいと思っています。

むしろ、生物が自らの身体を通じて環境とダンスを踊るように関わることで、その都度「世界を産み出している」のだと考えたのです。

🧠 ヴァレラの思想の要約

  1. 世界に「道」は最初から存在しない。
  2. 私たちが一歩を踏み出す(認知・行為する)ことで、初めて「道」ができる。
  3. 現実は、私たちの身体システムが能動的に創り出している「投影」である。

この知見は、私が日々の臨床現場でクライアントの身体と向き合う際の、揺るぎない哲学となっています。

例えば、一人の患者さんの「肩の痛み」や「歪んだ姿勢」を診るとき、それは単なる故障したパーツの羅列ではありません。

その方の過去の歩み、生活習慣、精度、そして「どう生きてきたか」という身体の歴史が、今この瞬間に「痛みのある現実」としてエナクション(立ち上げ)されているのです。

回復とは、単に痛みを消すことではありません。

治療家である私とクライアントが対話と手技を通じて新たなダンスを踊り、より自由で、痛みのない「新しい現実」を共に産み出し直していくプロセスなのです。

「歩くことで、道ができる」

固定観念という自動補完プログラムを捨て、目の前の生命が今まさに立ち上げようとしている現実を、まっさらな視点で共に更新していく。

最新のロボット工学と、あの平面の景色が教えてくれたのは、身体を扱うプロフェッショナルとして、常に「未知なる一歩」を共に踏み出す勇気でした。