この話は実話です。
去年掲載したものを全話一括で再掲載します。
第1話:倒産危機
前職での10年以上前の昔話。
ある製造業を営む社長がいた。
従業員は30名前後、年商1億円、社長が創業者で創業20年ぐらいだったかな。
有利子負債は1億円。
当時、3億円あった売り上げが1億円まで落ち込んだ。
材料メーカーへの支払いができず、1,000万円の手形が決済出来そうもない状態になった。
決済は20日で、あと3週間しかなかった。
当然のように銀行へ融資の申し込みに行ったが、メインバンクは拒絶。
その時のメインバンクの支店長の態度は忘れられない。
支店長「今のご時世で、今後の返済は難しいでしょう。」
社 長「この経営改善計画書のように全社員でがんばりますので・・・」
支店長「この計画書の通りにはいかないでしょう。そこまで売上高が改善するとは思えません。」
社 長「・・・」
ここまでは正直なところよくある話。
びっくりしたのはそのあとです。
支店長「社長には貸せませんが従業員になら貸しましょう。」
社 長「どうゆうことですか?」
支店長「従業員の皆さんに100万程度用意して30名ですから3,000万円ですね。その皆さんで会社を新しく作ればいいのです。」
社 長「そんなこと、出来るわけないでしょう。」
支店長「では、あきらめるしかないですね。」
社 長「・・・」
隣にいた私はドキッとした。
銀行の支店長の対応にも驚いたが、悔しそうに拳を握りしめる社長にも。
結局、メインバンクはあきらめざるを得なかった。
すがるような思いで、サブバンクへ行くことにした。
支店長は同席せず、担当者が対応してくれた。
社長と私が一通りの説明を終えると・・・
担当者「検討してみましょう。」
社 長「ありがとうございます。」
担当者「ただし、稟議が通っても20日までに間に合うかどうか。」
社 長「何とかお願いします。」
担当者「今のところ、なんとも言えません。」
つづく
第2話:問題発覚
サブバンクの回答を待ってては手遅れになる。
社長と相談のうえ、材料メーカーに頼むことにした。
「手形をジャンプしてもらいましょう。」
経営改善計画書を提出して説明すれば分かってもらえるはず。
私は根拠のない自信を持っていた。
「実は・・・」
社長が言いだした。
「・・・・・」
「どうしたんですか?」
「えっ!」
「なぜ、もっと早く言ってくれなかったんですか。」
社長の説明によると、この経営改善計画書は材料メーカーに提出できないとのこと。これには事情があったのです。
材料メーカーには与信審査のため毎期、決算書を渡していたのですが、それが粉飾されたものだったのです。
突然の告白に一瞬、戸惑いましたが私は冷静でした。
とにかく対応しなければならない。
「その提出した決算書の控えはありますか?」
「これです。」
社長の顔色は悪かった。
罪悪感と危機感で一杯なのだろう。
書類を確認すると、数字の差額は相当あった。
どう考えても取り繕うことはできない。
結論は決まっている。
「社長、本物を提出してお詫びしましょう。そのうえで、経営改善計画の説明をしましょう。」
社長は肩を落としていた。
「社長、良い機会です。全部をさらけ出して改善に取り組めばいいじゃないですか。
隠し事をしている罪悪感から解放されて、あとは仕事で頑張ればいいじゃないですか。」
聞こえてはいるだろうが、返事はなかった。
沈黙の中で、電話が鳴った。
つづく
第3話:交渉開始
事務員が社長に電話を取り次いだ。
どうやら材料メーカーからの電話のようだ。
「今日の16:00に来るそうだ。」
「では、私はいったん事務所に戻って書類を用意します。」
聞こえているだろうが、返事はなかった。
材料メーカーの担当者が来た。
名刺交換をする。
「!」
「営業所長さんなんですね。」
外見は若く見えたが、どうやら責任者のようだ。これで一気に話がつく思ったのだが・・・
社長が言いださない。
注文部品の確認と納期とあれが、これが・・・
「では、ありがとうございました。失礼します。」
(えっなんで)
「社長!言わないのですか?」
「あ、いや・・・」
私は出て行った営業所長を追いかけた。
話があることを伝え、戻ってきてもらった。
「どうかしました?」
社長は何も言わない。
(もう私が言うしかないか・・・)
「実はですね。」
「いい、わしが話す。」
「・・・」
社長は過去の経緯と現在の状況を話した。
何度も謝っていた。
うっすら涙を浮かべていた気がする。
「私の一存では決められませんので、本社に報告します。」
「お手数おかけします。」
「では、改めてご連絡させて貰います。」
営業所長は厳しい顔つきになっていた。
そうだよな・・・
まぁ連絡を待つしかないので私は事務所に戻った。
事務所に戻って書類作成をしているときに電話が鳴った。
「来週の火曜日に来るそうだ。」
「そうですか。どなたが来るのですか。」
「本社から専務が来るらしい。」
「わかりました。きっとうまくいきますよ。」
決戦は火曜日か・・・
つづく
第4話:運命の日
材料メーカーの本社(大阪)からお偉いさんが来た。
1.2・・4人もいる。
専務、常務、法務審査部部長、経理課長
それぞれと名刺交換や挨拶をしたあと、専務が口を開いた。
「たいへんでっしゃろ。」
「でも、嘘はいけませんなぁ。わたしら信用で商売してますやろ。」
グサッとくる言葉。
社長はうつむいたままだ。
「とりあえず帳簿類を確認させてもらいますわ。」
まるで税務調査のように手際よく調べていく。
私は質問に答えながら、この後の展開を想像していた。
実際の数字を見て、手形のジャンプは引き受けてくれるのだろうか。
経営改善計画書をちゃんと見てもらえるのだろうか。
不安な気持ちを隠しつつ、目の前の状況に対処していた。
専務が動いた。
「工場を見せてください。」
「在庫の倉庫を見せてもらいましょ。」
現場視察に従業員も少し驚いているようだ。
一通り終わったのは17:00だった。
「実は、私ら5社ほど調べに来たんですわ。せやから今週はこっちにおりますんで、社長さんのとこは金曜日に話しできますか?」
「はい、わかりました。」
複雑な思いでその日は終わった。
そして運命の日。
「社長さん、残念やけど手形のジャンプはできませんわ。」
「!」
「未決済分合わせて3,400万円ほどですな。これはなんとかしてもらいますな。」
「今は難しいので、何とかなりませんか。」
「いや、無理ですな。他のお客さんにも言うたんですが、わが社としては一切応じないことで決定したんです。個別に対応していても不平不満がでますやろ。」
「・・・」
「そのかわり、今後の仕入れ単価を落としましょ。計画によれば銀行さんの融資が通れば問題ない。今後の売上増加は頑張ってもらわな。うちが協力できるんは単価で対応するくらいですわ。」
「ありがとうございます。」
「けんど、今後の支払いは自社振出手形はいただけません。元請けさんのを回してもらえますか。」
このあと条件がさらに続いていたが、社長の頭には入っていないだろう。
どんな条件を言われても目の前の手形が決済できなければ何の意味もないからだ。
あとは銀行の返事待ちか。
うまくいかないものだがあきらめるわけにはいかない。
あした銀行に電話してみよう。
つづく
第5話:起死回生
銀行から明確な答えはまだ来ない。
週が変わって月曜日の朝、電話した。
サブバンクの担当者は不在だった。
そこにあの社長からの連絡が飛び込んできた。
「大変なことになった。」
「どうしたんですか?」
「元請け先から呼び出されたんだ。どうやら、材料メーカーが元請け先に報告したらしい。」
「ちょっと待ってください。そんなことってあるんですか。」
「とにかく時間をとれんか?」
「では、今から行きます。」
そんな情報を勝手に言うもんだろうか?
私は半信半疑で社長のもとに向かった。
話を聞けばすぐに謎が解けた。
材料メーカーは調査をした5社全部の状況を話したらしい。
元請け先は1部上場の企業でこの地区では有名どころだ。
調査された5社全部の元請け先が同じで、今後の対応に相談しに行ったらしい。
「それで、どうするんですか?」
「とにかく今から一緒に行ってくれないか。」
「わかりました。」
道中で社長がまたまた爆弾発言をした。
「実は、元請けにも粉飾したやつを提出していんだ。」
「!」
これは、最悪の事態、発注停止になるのではないかと思った。
元請け先に着いてからは私は何もすることがなかった。
とにかく社長はお詫びするばかりで、話が先に進まない。
しかし、経理部長やいろんな重役たちが発注停止を匂わせていた。
「みんな、考えてみんか。」
重役らしい一人が言った。
「全部切ってしもうたら、どこに回すんや。切るのは簡単やろけど長年、うちのために協力してくれたところなんや。ここなら再建できるんやないか。」
わが耳を疑った。粉飾していた下請け先を助けようという重役がいた。
「そんなら、●●さんが責任もつのですか。」
「おう、わしが再建さしたるわ。」
「???」
よくわからないが、どうにかなりそうだった。
一通りの会議の後、さきほどの重役と私たちは別の場所へ移動させられた。
材料メーカーの営業所だった。
そこで営業所長も交えて打ち合わせが行われた。
結論としては大喜びの展開になった。
「ここと、あそこの分を○○に発注を回すから、単価減で頼むわ。」
この一言で受注が拡大したことと原価削減が確実になったわけだ。
しかも元請け振出の手形を材料メーカーが割引することになった。
つまり毎月、現金の入金がされるようになったのだ。
これで一気に経営改善計画書の3年後の姿になった。
さらにおまけがついた。
「持ち株会の株式、売ったれや。」
「!!!」
株式の売却まで許可が出た。
これで資金は足りるかもしれない。
まさに起死回生とはこのことだ。
不安でたまらなく出発したが万事うまくいって帰ってこれた。
結局、あとは銀行か。
つづく
第6話:危機継続
火曜日になった。
サブバンクに電話すると動きがあった。
「保証協会も担当者が決まって審査を始めました。
来週くらいには返事が来るのではないでしょうか。」
「それで、20日には間に合いますか?」
「なんとも言えませんがギリギリ間に合うかどうかですが難しいかもしれません。月末なら大丈夫でしょう。」
おいおい、月末では間に合わないんだよ。
とにかく社長と打ち合わせをしなくては・・・
お互いの都合がつく時間は19:00だった。
出前を取っていただき食事をしながら話した。
「銀行が間に合わなかった場合に備えて対策をとりましょう。」
「どうすりゃいいのかね。」
私が確認している現状を説明した。
株式の売却で500万ぐらいになること、そして売上の15日の
振込入金が250万、定期積金の解約で60万、当座の残高が30万です。
あと150万ほど足りない。
お互いに沈黙してしまった。
私は決算書をもう一度見直し、何かないかと考えた。
「!」
ダメもとでいくか。
「社長、できるかどうかわかりませんが、するしかないと思います。」
「???」
「従業員にかけている生命保険を解約しましょう。」
「いくらになるんだ?」
「金額は後で説明します。問題は解約しても会社が受け取れないことです。」
「どういうことだ?」
「解約金は従業員の口座へ振込みされます。」
「おかしいだろ、会社で払っているのに何で社員へいくんだ。」
これを説明していては話が違う方向に行ってしまう。
私は、いま制度がどうこう議論しても進まないと思い、結論を急いだ。
「とにかく社長!、従業員の中にお金を貸してくれそうな人はいませんか。」
「!」
「保険会社から振り込まれた解約金を会社に貸してくれる人ですよ。」
「わかった。しかし、どうだか。」
私も難しいことは分かっていた。給料を遅配している倒産しそうな会社にせっかくもらったお金を戻すはずがない。
退職金代わりを手放したりしないだろう。
まして、社長が頭に思い描いているのは幹部の重鎮たちだ。
彼ら3人にはすでに合計300万円ほど借りている状態だ。
「話してみるが、いくらなんだ?」
「社長、金額は言わなくていいのです。その人の通帳を新しく作ってもらって通帳ごと借りるのです。もちろん本人の同意がなければなりません。」
「言わないのか。」
「違います。まず信頼できる人に同意を得たうえで、全てを話しましょう。その時に借用書を作らねばなりませんし、同意が先ですよ。」
人間というものは自分の口座に入ったお金は引き出したくないものだ。
通帳ごと借りてしまえばお金を手にした実感もわかないだろうとの考えだった。
これで何とかなればいいが。
この先に光が見えているのに足元は真っ暗だ。
ここを乗り越えられれば、業績回復は約束されたようなものだ。
まだ倒産の危機は脱しきれていない・・・
つづく
第7話:審判の日
あの社長から連絡が入った。
「例の件だが○○が話を聞きたいと言っている。」
「そうですか、OKというわけではないのですね。」
「ああ、金額を聞かれて困ったよ。」
「それで、何時がいいですか。」
「18:00でいいかね。」
「わかりました。」
さて、どうしたものか。同意してくれればいいが・・・
生命保険の解約金は全員分で2,800万ほどだった。
リストを見ながら考えた。
この金があれば何の苦労もしなくて済むのに・・・
(○○さんは約200万だった。)
さすがに勤続年数が長い分だけあって2番目に多い金額だ。
先方へうかがい、話をした。
「・・・」
やっぱり駄目か。
「あのう、会社が大変なことは聞いています。このお金があれば倒産はしないのですか?」
「そうならないように努力しています。」
「これさえ、この金さえあれば、もう安心できるのですか?」
「どういうことですか?」
「来月やその次、その次と繰り返すことになるんではと心配で・・・」
「断言できませんが、良い方向に進んでいます。」
「・・・」
「強制ではありません。あくまでお願いです。」
「もし、この先に望みがないのなら渡したくはありません。」
「!・・・そうですよね・・・」
「でも、あなたが大丈夫であるというなら必要な分を使ってもらってもし、余るのならすぐにでも欲しいのですが・・・」
「!!!」
ここで大丈夫と断言していいのだろうか・・・
元請け先の話や仕入れ単価の引き下げなど良い話は確かにある。
ただ、この私が大丈夫と断言していいのだろうか。
社長は何も言わない。
「大丈夫ですよ。」
言ってしまった。
結局、話はまとまった。
これで手形の決済には十分な資金ができた。
ただ、手形は来月もその翌月もずっと続く。
私は「大丈夫だと」答えたが、確信があったわけではない。
単に目の前の手形決済が目的でしかなかった。
社長は満面の笑みを浮かべて握手をしている。
同意した幹部はすっきりしていない感じだ。
話をする前は、これさえうまくいけば・・・と思っていたが、
うまくいった今では、何となく苦い思いをしていた。
とりあえず今月は生き残った。
そして、来月の手形決済の計画を立てねばならない。
これからが再スタートだ。
つづく
最終話:計画始動
手形決済の資金はできた。
3日後
皮肉なことに今頃になって
銀行から融資OKの返事が来た。
ただし、20日には間に合わないとのこと。
それでも融資のおかげで2カ月は大丈夫だ。
なんか気の抜けた感が続いていた。
突然、呼び出しがあった。
あの社長からだ。
「元請けが計画書について話があるらしい。」
ちょっとした緊張感が戻った気がした。
「この計画は甘いな。こんな悠長に待てん。」
「どのように・・・」
「発注は今後、増えていくはずや。本社の受注計画もかなりでとる。
3年後に工場移転で計画してほしい。増産対応や。」
「???」
無茶なことを言う。
しかし元請け先の重役は的確だった。
現在の工場は老朽化がひどく、増築しながら機械を増やして
いったため、通路や配置に問題がある。
作業時間以外の手間が取られすぎるのだ。
「こんなとこでは増産はできん。広いとこに移って機械の配置をかえるだけで2割はアップするやろ。」
しかし、3年後に2億円の融資は無理だ。
計画を練り直し、社長との打ち合わせは夜中までかかった。
次の日
銀行にも足を運び話を聞いたが、相手にしてくれなかった。
そこで、ダメもとで中小企業金融公庫(当時)に行ってみた。
はっきりとは断られなかったが乗り気ではない。
まぁ最初からあきらめていたに等しかった。
そこに社長がパンフレットを持ってきた。
工業団地への移転案内だ。
「!!!」
すぐに市役所に行くことにした。
一通りの話を聞いて希望がわいてきた。
助成金で8,000万円が可能かもしれなかったからだ。
計画を練り直し助成金は受けられるものだと仮定し、
何とか1億円の融資でできるように3年計画で作成した。
元請けの重役もあの社長も工場移転が実現すると確信しているようだ。
半信半疑は私だけだ。
かなり無理をした計画書だった。
3年後に売上高5億円。
今現在、1億円。
計画は始まった。
結局、3年後には実現してしまった。
本当に工場新設を果たしたのだ。
その間の苦労はいろいろとあったが、ここでは省略する。
足掛け6年間、私が担当者だったが、変わる直前の売上高は
10億円だった。
かなり時間をとられた担当先だったが、充実感はあった。
ここまで急激に業績を回復した企業も珍しい。
あの社長は今頃どう思っているのだろう。
あの辛い時に私が言ったひとこと。
「今は大変ですけど、きっと笑い話になりますよ。」
今は笑っているだろうか・・・
おわり
追記:最近このお話の社長さんと久しぶりの再会をした。
人懐っこい感じは当時のままだった。
いろいろと昔話をしていると、社長がつぶやいた。
「あの時はあんたに世話になった。あの時にあんたが言った通りだよ。」
「???」
「今じゃ本当に笑い話になったな。」
「ですね・・・」
今現在は年商20億円になったそうだ。
では、この辺で・・・