【あらまし】

源氏を僧坊に迎え入れた僧都は、世の無常、後世のことなど語って聞かせます。

源氏は、自分が犯している罪業を恐ろしく思い、「あぢきなきこと」、道にはずれたことに心を奪われて、生きている限り思い悩まずにいられないであろうし、来世で受ける報いもいかばかりかと思うと、いっそのこと俗世を捨てて、このような修行の身になってみたいとも思うものの、昼間垣間見た少女の面影が脳裏から離れません。

 

「こちらにいらっしゃるのは、どなたでしょうか」、と源氏は出し抜けに尋ねます。「実は、お尋ねしたい夢を見まして、今日、こちらに伺って思い当たりました。」

 

僧都はにやりとして、

「唐突な夢語りでございます。お尋ねなさいましても、ご期待にはかないませんでしょう。按察使(あぜち)大納言は亡くなって久しいので、ご存じでないでしょう。

その北の方・正妻はそれがしの妹で、大納言が亡くなって間もなく剃髪いたしました。この頃は患って、それがしの許に籠っております。」

 

 

【本文】

僧都、世の常なき御物語、後の世のことなど聞こえ知らせたまふ。

The bishop talked of this ephemeral world and of the world to come. 

 

わが罪のほど恐ろしう、あぢきなきことに心をしめて、生ける限りこれを思ひなやむべきなめり、

His own burden of sin was heavy, thought Genji, that he had been lured into an illicit and profitless affair.  He would regret it all his life

 

まして後の世のいみじかるべきおぼし続けて、かうやうなる住ひもせまほしうおぼえたまふものから、

and suffer even more terribly in the life to come.  What joy to withdraw to such a place as this! 

 

昼のおもかげ心にかかりて恋しければ、

But with the thought came thoughts of the young face he had seen earlier in the evening.

 

「ここにものしたまふはにか。尋ねきこえまほしき夢を見たまへしかな。今日なむ思ひあはせつる」と聞こえたまへば、

  “Do you have someone with you here?   I had a dream that suddenly begins to make sense.”

 

うち笑ひて、「うちつけなる御夢語りにぞはべるなる。尋ねさせたまひても、御心劣りせさせたまひぬべし。

  “How quick you are with your dreams, sir!  I fear my answer will disappoint you. 

 

故按察使(あぜち)の大納言は、世になくて久しくなりはべりぬれば、えしろしめさじかし。

It has been a very long time since the Lord Inspector dies.  I don’t suppose you will even have heard of him.

 

その北の方なむ、なにがしが妹にはべる。かの按察使かくれてのち、世をそむきてはべるが、このころ、わづらふことはべるにより、かく京にもまかでねば、頼もし所に籠りてものしはべるなり」と聞こえたまふ。

He was my brother-in-law.  His widow turned her back on the world and recently she has been ill, and since I do not go down to the city she has come to stay with me here.  It was her thought that I might be able to help her.”

 

 

【語句の説明】

わが罪のほど恐ろしう:藤壺との密通のこと。

 

 

【余説】

この段の英訳はサイデンステッカーのものです。原文に即した、わかりやすい訳です。

 

源氏が知りたいのは少女のことですが、あからさまに聞けないので、奇妙な口実で尋ねています。

それに対して、僧都は「うち笑ひて」応えています。源氏の下心に気がついての笑いなのか。

 

 

(岩波文庫(一)390~392ページ/サイデンステッカー英訳)