トップガン (8点) | 日米映画批評 from Hollywood

トップガン (8点)

採点:★★★★★★★★☆☆
2022年6月4日(DVD)
主演:トム・クルーズ、ケリー・マクギリス、ヴァル・キルマー
監督:トニー・スコット
製作:ドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマー

 

 1986年の全米興行成績1位を記録し、トム・クルーズが一躍トップスターの仲間入りを果たした作品で、日本でも1987年度の洋画配給収入1位を記録。36年ぶりの続編公開に合わせて、過去に何度も見た自宅のDVDを劇場に行く前に鑑賞した。
 

【一口コメント】

良い意味でシンプルを極めた作品でありながら、歴史を変えた作品です。

【ストーリー】
 アメリカの海軍機F-14のパイロットであるマーヴェリックは、相棒のグースと共にインド洋上でミグ28との戦いに勝利し、空母に帰還した。すると上官からトップガンという優秀なパイロットが集められた養成学校に行くよう命じられる。パイロットたちが集まる酒場で、マーヴェリックはシャーロットという女性に声を掛けるが、待ち合わせていた老齢の男性が来たことで振られてしまう。翌朝シャーロットがミグに詳しい教官として、チャーリーというコードネームでトップガンにやってくる。
 その後厳しい訓練を通して関係性を深める2人。しかし訓練の途中で相棒グースが事故で亡くなり、自分のせいだと思いこんだマーヴェリックは学校からもシャーロットからも次第に距離を取るようになっていく―――。

【感想】
 これぞハリウッド映画!という要素が盛りだくさんの作品。
 主人公の成功と挫折を主軸に据え、友情あり、恋愛あり、戦闘機による空中アクションあり、憎ったらしいライバルがいて、親子の確執もあり、そしてバディムービー的な要素もある。さらに映画音楽とはこういうものだというお手本的な音楽もある。
 ストーリー的には予定調和に物事が進んでいき、グースの死以外に予想外の出来事は起きず、ストーリーだけを取ってみればよくある作品なのだが、この作品をその他大勢の作品と違う名作にしているのは、なんといっても海軍全面協力というところだろう。この作品の要素(=主人公の成功と挫折を主軸に友情や恋愛など・・・)が他はすべて一緒であったとしても、舞台が海軍学校ではなく、普通の学校で空中アクションの代わりにストリート・ファイトだったとしたら・・・と考えてみるとわかりやすいかもしれない。一般人にとっては未知の領域である海軍学校で、これまた一般人には未知の領域である戦闘機という世界観。ここを舞台に上記の要素を上手く散りばめながら一流のスタッフが、一流の俳優とともに作り上げた作品というのが個人的には大きいと思う。

 ストーリー的には上述したように、よくある作品であり、良くも悪くもシンプル。シンプルだからこそ時代が変わっても、時代背景に影響されることなく、いつ見ても楽しめる。逆に映画に奥深さとか、練りに練ったサスペンスとか、ミステリー的要素を求める人は拒絶反応を示すレベルのシンプルさだと言える。考え方を変えると、ここまでシンプルに作って、かつ面白いというのは逆に難しいのではないか?と言える。
 一方、映像においては海軍が舞台ということもあり、この作品ならはの素晴らしい映像がたくさんある。
 戦闘機が空を滑空するシーンはもちろんだが、オープニングの甲板上で戦闘機の離陸を前にシルエットで映し出されるメカニックたちの姿に興奮を覚えたりもする。映画もそうだが、メイン(この作品では戦闘機やトム・クルーズら、映画であれば監督や俳優たち)となる要素の周りには多くのサポート要素があるということをオープニングで比喩的に伝えてくれる。

 同じ海軍を舞台にした名作「
愛と青春の旅立ち」にも通じるものがあるが、大きな違いはこの作品には主人公マーヴェリクのキャラクター設定もあり、コメディ色が強いという点だろうか?
 例えばオープニングのミグ28との戦闘シーン、背面飛行で敵機上空から数mの距離まで近づき、ポラロイド写真を撮影するというシーンがある。このシーンはコメディであると同時にマーヴェリックのパイロットとしての腕前の凄さも示す違う意味での名シーンと言える。これも海軍が舞台だからこその名シーンで普通の学校が舞台の作品で、天井からぶら下がって逆さにポラロイド写真を撮っても、それはストーカー以外の何物でもない・・・。
 また個人的にツボだったのが、管制塔をかすめ飛ぶマーヴェリック。劇中でも過去に5回も行っていることを上官にとがめられるシーンがあるが、それとは別にこの作品中でも2回、管制塔の近くを飛ぶシーンが描かれている。1回目はまだしも2回目、最後の最後に管制塔に「挨拶します」とマーヴェリックが無線を使って事前告知をしていて、来るとわかっているのにコーヒーを飲む管制官も面白い!

 映画は第七芸術と呼ばれることもある。カンヌ映画祭やベルリン映画祭などの映画祭はまさに映画の芸術性を評価するお祭りだし、日本のアカデミー賞もどれだけ売れたのか?観客がどれだけ楽しんだのか?という視点よりも芸術性が評価されることが多い。しかし個人的には映画=芸術ではなく、映画=娯楽=エンタメであり、アメリカのアカデミー賞は他の映画祭や日本のアカデミー賞とは異なり、ある程度劇場で成績を残さないとノミネートすらされない。
 その点、この作品はエンタメの王道とも言うべき作品であり、アメリカのアカデミー賞でも4部門にノミネートされ、1部門受賞している。そして何よりエンタメの王道=何度も見たいと思わせる作品ということで、DVDを購入し何度も見返してしまうほどである。単純に見終わった後に爽快感に満たされる=これぞハリウッド映画!という作品です。
 長編監督2作目のトニー・スコットが監督を務め、ジェリー・ブラッカイマーがプロデューサーを務め、若き日のトム・クルーズを含め、ヴァル・キルマー、メグ・ライアンなど大物俳優達を一躍世に送り出したこの作品。今見ればスタッフにも俳優陣にも名だたる名前が並んでいるのだが、ブラッカイマーを除いて公開当時は今ほどの知名度はない。そういった意味ではこの作品をきっかけにアメリカン・ドリームを体現した作品とも言える。

この作品がもし今公開されたら、ありきたりなストーリーで映像的にも音楽的にも新鮮味はないのだろうが、36年前のまだCG映画の歴史を変えた「
ジュラシック・パーク」が公開される7年前にアメリカ海軍全面協力のもとに戦闘機を実際に飛ばして、CGではない現実の映像を大スクリーンに繰り広げたという意味では、この作品も「ジュラシック・パーク」と並ぶ歴史を変えた作品と言えるのかもしれない。