ラ・ラ・ランド/LA LA LAND (9点) | 日米映画批評 from Hollywood

ラ・ラ・ランド/LA LA LAND (9点)

採点:★★★★★★★★★☆
2017年3月5日(映画館)
主演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン
監督:デミアン・チャゼル

 

 本年度アカデミー賞13部門14ノミネート、内6部門で受賞!!ということで、第89回アカデミー賞の主役となった作品。また作品賞が間違われるという歴史に残る珍事に絡んだこともあり、日本でも一気に知名度が高まった作品でもある。

【一口コメント】
 ロサンゼルスに住んだことがあり、かつハリウッドの映画業界に携わったことがある人間ならば、誰もが共感を覚える作品であり、アカデミー会員が絶賛するのも納得の作品です。(そうじゃない人にとってはどうでしょう?)

 

【ストーリー】
 女優の卵のミアは、違法駐車で車をレッカーされたパーティーの帰り道、偶然聞こえてきた音に誘われ、ジャズバーに入る。そこでピアニストのセブと出会う。しかし、不遜な態度をとったセブにミアは怒りを覚える・・・。
 後日、別のパーティーに参加したミアはプールサイドで演奏をするセバスチャンと再会する。そのパーティーの帰り道、マジックアワーに抱かれたハリウッドの街を見下ろす高台で互いの夢を語り合う2人。恋の始まりがすぐそこまで来ていた・・・。

【感想】
 結論から言うと、ロサンゼルスに住んだことがあり、かつハリウッドの映画業界に携わったことがある人間ならば、誰もが共感を覚える作品であり、その両方の要素を持つ自分には直球ど真ん中の作品だった。アカデミー賞最多ノミネートも納得の内容である。
 しかしロサンゼルスに住んだこともなければ、ハリウッドの映画業界に携わったことがない人が見た場合にはもしかすると古臭い演出や良くある普通の恋愛ストーリーに映るかもしれない。

 この作品の一番の肝はハリウッドという世界中の映画人が憧れる"映画の都"で、来る日も来る日も壁にぶつかってはその壁に打ち返され、一度は夢を諦め、故郷へと帰る主人公ミアと、不本意ながらも自分の夢を実現するために一見遠回りながらも着実に自分の夢をかなえるもう1人の主人公セブ、この2人の境遇と絶妙なバランス。
 互いに互いの夢を応援しながらも、片方が成功すると片方が上手く行かない、それがきっかけで喧嘩したかと思えば、それでもやはり相手の夢を支えようとする姿に心を揺さぶられる。例えばミアの故郷であるネバダ州ボウルダーシティでの2人のやり取り。せっかく大作のオーディションに呼ばれたにも関わらず、オーディションに何度も落ち、自分よりも美しい女性がいっぱいいる状況に苦しみ続け、夢をあきらめたミアに対し、強引に説得するシーン。その直前に1人舞台をし、声が漏れ聞こえる楽屋で客のダメ出しを聞くミアのシーンを入れることでミアの境遇がより一層際立つ演出になっている。
 このあたり、ロサンゼルスで映画業界に携わったことがある人間にはとても深く刺さる。その種の人間が必ず一度は経験する道だからだ。たとえ自分が役者を目指していなくても、周囲の親しい人間の中に同じ境遇の人間が数多くいるし、役者以外のポジション、監督であれ、メイクであれ、衣装であれ・・・、世界中から夢あふれる数多の才能が集まってくる"ハリウッド"という狭き門は、圧倒的に夢破れる人間の方が多い。世界中の才能がエンタメという一般社会とは異なる特殊環境でぶつかり合う場所は世界中探してもハリウッド以外にはないかもしれない。
 そもそも芸能事務所という概念が日本とは大きく異なるハリウッド(簡単に言うと宣伝も管理も事務所ではなく、タレント本人が行うのがハリウッドであり、例えばPRのプロを事務所が用意するのではなく、自分で雇う必要がある)において、夢を追うのにはとてつもないパワーが必要だし、ライバルは世界中からやってきた才能ばかり。そのプレッシャーたるや壮絶なもので、そのあたりの共感を誘う演出が絶妙なので、多くのアカデミー会員の賛同を得たのだと思われる。更に「
カサブランカ」や「理由なき反抗」などのクラシック作品の引用が効果的に使用されているあたりもアカデミー会員に響く要因としては大きいかもしれない。

 またどことなく懐かしさを感じさせるレトロな演出が多いのだが、技術的にはドローンを使った長回しなども多用されている。
 その最たるものがオープニングだろう。実際にはいくつかのカットを組み合わせているらしいが、一見ワンカットの長回しのように見える。しかもそれがロサンゼルスの高速道路のインターを封鎖した状態での撮影で、ここまで壮大なミュージカルシーンは今まで見たことがない!映画のオープニングとしても歴代トップレベルの演出でグッとストーリーに引き込まれた。

 

 ロサンゼルス在住経験があると良いという意味では、ミアが乗っているプリウスも"あるある!"となる。2人が偶然出会ったパーティーの帰りに車のキーを取ろうとするとプリウスのキーばかり・・・というシーンなど"そうそう!"と共感できる(ロサンゼルスで信号待ちをしているとプリウスが5台連なっている場面などよく出くわす為、微笑ましくさえ思える)。
 またオープニングの高速道路やグリフィス天文台を始め、ロサンゼルス各地がスクリーンに映し出されるのも在住経験者には楽しい。中でもサミット・エンターテインメント制作の映画であるにも関わらずワーナー・ブラザーズのスタジオが登場するのには驚いた。そしてそのスタジオ内のカフェで女優志望のミアがアルバイトをしているという描写もロサンゼルス在住の映画関係者あるあるであり、共感を生みやすい。またそのバイト先に有名女優が訪ねてくるというシーンが2度描かれていて、2度目の演出がとても上手い!

 そしてラストシーン。一言で言うとアンハッピー・エンドということになるのだろうが、アンハッピーなのだが、どこか幸せな感じも残るという絶妙なバランスがまた良い!ミアの回想改め妄想シーンを現実描写で挟むことにより、これ以上ないくらい甘美的な、切なさと愛しさが同居するラストシーンとなっている(「切なさと愛しさと・・・」と昔のヒット曲のタイトルのようだが・・・)。
 オープニングの高速道路でのミュージカルシーンが陽のクライマックスとすれば、このラストにおける妄想の最後で暗転し、一瞬の静寂の後で暗闇の中で鍵盤を叩いているセブが浮かび上がるシーンは陰のクライマックスとなっている。作品の最初と最後に陰・陽それぞれ別の2つのクライマックスを持ってくるという極上の演出にしてやられた!!


 今作を見終えて自分の中に芽生えたのが「ミュージカルって面白い!」という、子供が初めてテーマパークを訪れた時のような素直な感情。
 もちろん今までミュージカル映画を見たことがないわけではなく、「
オペラ座の怪人」や同じくアカデミー賞6部門受賞の「シカゴ」を始め、過去に何本も見てはいる。しかし今までは正直、ストーリーの流れの中で突然歌いだす登場人物たちによってせっかく入り込んでいた世界観から一気に引き戻される感じがあったのだが、本作はオープニングの印象がとても良かったこともあり、その引き戻され感がなかった。
 また通常の映画であればキャラクターの内面描写というのはモノローグを使うか、あるいは言葉は発さずに絵で見せ、観客の想像に任せる手法を取るのが常だが、ミュージカルの場合はそれを歌に乗せることができる。今作で言えばやはりオープニング。渋滞で待っている車の運転手の心情を歌に乗せて表現するという手法。普通であれば高速道路の上で車から降りて歌いだすなんてことはあり得ないのだが、そこを敢えて歌にすることで映画とミュージカルの境界線をうまく超えていく。もちろんどの作品にでもOKという手法ではなく、それが合う合わないはある。
 またこの作品は他の多くのミュージカル作品と大きく異なっている点がある。他の作品の多くが舞台で上演されているミュージカルを映画化しているのだが、この作品は原作ともいうべきミュージカルはなく、オリジナル脚本によるミュージカル映画である。そのため、見る側はもちろん作る側も先入観なしに映画の世界に入ることができ、ミュージカルっぽくない演出も多い。特に中盤ではほとんど歌唱シーンがないまま、物語が進展するという、舞台の映画化作品ではめったに見られない"映画らしい"ミュージカル映画に仕上がっている。

 劇中でジャズを死に行くものとして描いているあたりも心をくすぶられる。そのジャズのパートを1人で担うセブ役のライアン・ゴズリングがとても良い。自分の夢を最終的に実現させるのだが、そこに至るまでの過程がとても切ない。自分の夢への最短ルートではない・・・どちらかというと遠回りな道を歩むセブに対して、自分の境遇を踏まえた上で夢に挫折しそうなミアがまっすぐに切り込むシーンは心が痛くなる。
 そして何といっても彼の演奏シーン。ミュージカルだからこそのスポットライト的演出も加わり、魂が揺り動かされるシーンとはまさにこれだ!というラストシーンはとても感動的だった。
 一方のミア役のエマ・ストーンも良い。
 冒頭は売れない女優としての演技を見せつつ、夢が叶った後の大女優としての演技も見せる。一作品の中での振り幅の広さはもちろんだが、そのバランスというか、さじ加減がとても上手い。

 

 もしかすると「シカゴ」や「オペラ座の怪人」と比べると、ミュージカルそのもののレベルは高いわけではないかもしれない。しかし、この作品に関してはそこは重要ではない。
とにかく 主役二人の演技が良いのだ!(これはあくまでも映画であって、ミュージカルではない)
 高速での第一印象最悪のすれ違いシーンから、付き合う前のそっけないシーン、付き合い始めの頃の楽しい恋愛シーン、そして互いの事を思った上でのケンカシーンなど、どれも真に迫る演技で観客に喜怒哀楽を感じさせてくれる。

 そして監督。既に演出に関してはいろんなことを書いてきたが、ミュージカルシーンなどはセットをあえて作り物っぽくする一方で、ドラマのシーンは徹底的にシリアス路線で行く・・・そうしたメリハリが良い意味ではっきりしている。上述しているが物語中盤に関しては歌唱シーンがほとんど出てこないのもそうしたメリハリの一環と言える。そうすることでミュージカル映画にありがちな「えっ、ここでいきなり歌い出すの!?」感が薄れ、観客としても見やすい作品になっている。
 ただし脚本に関しては結構粗が目立つ。2人の恋愛感情の高まりに関する描写には説得力がないし、ミアが独り舞台をするに至った経緯やセバスチャンの売れたことによる苦悩の心理描写などもやや薄い。6部門を受賞しながらも脚本賞を逃したのは順当と言っても良いかもしれない・・・。


 最後に・・・正直、映画業界に関わったことがない人間が見た場合にそこまで感動するのかどうか?は疑問・・・。