踊る大捜査線 =THE FINAL= 新たなる希望 (7点) | 日米映画批評 from Hollywood

踊る大捜査線 =THE FINAL= 新たなる希望 (7点)

採点:★★★★★★☆☆☆☆
2012年12月8日(試写会)
主演:織田 裕二、柳葉 敏郎、深津 絵里、ユースケ・サンタマリア
監督:本広 克之


 1997年に始まった3作品合計でおよそ350億円を稼ぎ出した特大ヒット・シリーズも15年の歴史に幕を下ろすときがやってきた。年内に見ることはできないだろうと思っていたら、アメリカの日系ケーブルTVのプロモーション活動の一貫でLAとNY限定で上映される試写会に応募したところ、見事に当選し、見ることができた。



【一口コメント】
 シリーズ最後の大円団、"踊る"らしさが散りばめられた最後の"踊る"満喫させていただきました。



【ストーリー】
 国際環境エネルギーサミットの会場で誘拐事件が起こり、数時間後に被害者が死体となって発見される。警察が押収した拳銃が使用されたことが発覚し、今までにない異例の捜査方法が実施されることになる。青島ら所轄の刑事には情報が開示されない状況の中、第2の事件が発生。更には真下の息子が誘拐されるという事件も発生!
 その過程で管理官・鳥飼の策略によって青島は警察手帳を剥奪され辞職勧告を受ける。更には室井までも辞職を迫られる事態に・・・。



【感想】
 正直、
パート3 が散々な内容だっただけに非常に心配していたのだが、結果としては"踊る"最終作として、とても満足のいく内容だった。
 さりげなく過去のシリーズ作品の登場キャラが脇役として出演していたり、車のナンバー・プレートなどのディテールにこだわった小道具も相変わらずで、スリー・アミーゴズも新旧対決を通して笑いを倍増させてくれたりと、笑いに関しては安心パックとなっている。


 そして青島と室井が追い続けてきた理想にもある種の答えを出してくれ、しかもそれがこのシリーズを15年間追い続けてきた一ファンである自分にとっても、納得という言葉では足りないくらいの満足感をもたらしてくれた。



 またこのシリーズの肝となるキャリア vs ノンキャリの対立描写も、キャリア組のトップを徹底的に自己中心的な人物として描き、本来市民を守るはずの警察が自己防衛に走るとこうなるという"絶対悪"として描くことで、シリーズ最高レベルの緊迫感を見せる。ここが破綻していたパート3とは大きく異なる。この官僚たちの会議室における醜悪さたるや、「事件は現場で起きてんだ!」という名台詞をもう一度聞きたいくらいだった。

 警察組織内部の腐敗を描いている=TVシリーズ初期から一貫していたテーマに戻ってきた

 という方程式が成り立ったため、この完結編はそこかしこに"踊る"らしさが散りばめられている。中でも鳥飼の策略にはまり、青島と室井がダブルで辞職勧告を受けるくだりはしびれました。
 パート3とこの完結編を通して見ると、この鳥飼というキャラの存在意義がはっきりする。そんな鳥飼の名台詞、「組織の中の人間は書類によって生きてるんです」に深く考えさせられたと同時に、最後の最後に青島がその鳥飼に言った台詞「正義は胸にしまっておくくらいが丁度良い」の持つ重みも胸に沁みた。15年前の青島なら「正義は全開で!」と言っていたであろうから、この15年の成長が伺える。


 "踊る"らしさの1つが、自らの台詞を撤回・否定するという流れ。最も有名なのが、パート1の名台詞「事件は会議室で起きてんじゃない、現場で起きてんだ!」をパート2で「事件は会議室で起きてるの!」と否定しているくだりだろうか?
 それに倣って、この作品も上述の警察官僚上層部の隠蔽を暴くために、室井と鳥飼がそれぞれのやり方で戦っている一方で、湾岸所内で誤発注してしまったビールを隠蔽するという流れをコメディーとして描いている。
 同じ"隠蔽"を一方でダークなシリアス描写として描きつつ、他方ではコメディーとして描く、このバランスも"踊る"が"踊る"たる由縁であり、コメディーの比重が大きかったパート3とはここも違う。

 また人間ドラマの観点から見ても、パート3とは比べ物にならないくらい良くなっている。中でもすみれさんの辞職を控えての刑事を続けたい・・・けど、体が持たない・・・という切ない心境は、なんとなく共感を覚える。警察上層部の腐敗に怒りを覚えるのとは対照的だ。
 もちろん最後の最後のあり得ない展開に加担することによってすべて台無しになってしまったが・・・。

 3では特にいらないんじゃないか?と思えた新キャラたちも、TVスペシャルを挟んだことで、すっかりなじんでいる。パート3ではうざいくらいだった「和久ノート」が控え目になり、わざとらしさが減り、物語の進行を邪魔することも減った。
 ワンさんはワンさんで中国人という設定を最大限に生かして、コメディー部分では光輝いていたし、新署長となった真下にいたっては新生スリーアミーゴズの一員として旧アミーゴズとの戒名対決で大いに笑わせてくれたと同時に、息子の誘拐の発端となった6年前の事件の指揮官であり、上司と部下の間で板ばさみだった当事の苦悩と息子の安否を心配する父親としての苦悩を描いている。

 と、ここまでは良いことだけを書いてきたが、ここからはダメな点。
 もっともダメだったのは最後の暴走。文字通りバスが暴走するわけですが、ここはSATやSITを導入するなど、他にいくらでも他の方法があっただろう!と怒りすら覚えるような展開で、せっかくの展開をすべて台無しにしてしまっている。一歩間違えば青島が死んでしまうこのやり方。しかもそれを実行するのがあのキャラというのもあり得ない。
 何でここまで丁寧にキャラ描写をしておいて、それをぶち壊すようなことをしたんだろうか?

 また青島が犯人の隠れ家を見つける一連の流れも納得がいかない。自転車に乗って、犯人の気持ちを考えながら・・・といったくだりはOKだったのだが、ある果物をヒントに隠れ家を特定するのはあまりにも強引で、もう少し説得力のある方法を考えて欲しかった。まぁ、踊るはミステリーではないので、謎解きを期待するのは間違いなのだが、さすがにこのやり方はひどかった・・・。

 また久瀬を犯人だと特定し、共犯を探し出すために泳がせておいてあまりにもあっさりと逃げられる当たりもどうかと思うし、その久瀬が真下の子供を誘拐するのも何か違う。6年前の事件の現場のトップだった真下の息子という理由はあるが、警察上層部への不満を抱いているのであれば、真下ではなく、円卓を囲むメンバーの関係者を誘拐したほうが物語に深みがあったのではないかと思うと少し残念だ。

 全体を通して見ると"踊る"の完結編としては、これで十分過ぎる内容なのではないだろうか?というのが率直な感想。
 上述したコメディ、キャリア vs ノンキャリのシリアス・ドラマ、これらをうまく混ぜ込んだテンポの良さ、"踊る"らしさをそこかしこに感じることが出来たし、和久さんの台詞も和久ノートによって引き継がれるという微妙なパート3の演出を極力抑え、最終的には和久イズムともいうべき台詞を室井が代弁することで、あぁ刑事魂はこうやって次の世代に引き継がれていくんだと感じると共に"新たなる希望"という完結編のサブタイトルもうまく収まった。
 室井が「青島の背中を見ていろ」と青島の部下たちに言うシーンは感動したし、その直後に「・・・なんてな」と和久の名台詞を言った際には、本来笑えるシーンのはずなのに、自分はここに和久さんを持ってきたか!?と感動すらしてしまった。

 そしてすべての事件が解決し、大円団のシーンに懐かしの2人の管理官も登場し、室井が青島に質問をし、このシリーズがずっと追い続けてきた答えを青島の口から聞くシーン(これを書きながら泣きそうになる・・・)。
 「現場の人間が正しいと思えることをできるようにする。そのために室井さんは上で頑張る、俺は現場で頑張る」遠い昔に青島と室井が交わした約束、15年経って、ようやくその入り口にたどり着いたような、そんな終わり方。
 シリーズの根幹を成すこの考えを最後の最後に持ってきたことによって、その直前の犯人特定の方法と暴走をも許せてしまった。願わくば10年後くらいに室井が日本警察のTOPになった姿も見てみたいが、これはこれでシリーズ完結としてよくまとまっているのではないだろうか?

 エンド・ロールの真下家族の写真も感慨深いものがあった。