数日後の夕方、祐介のスマホに通知が入った。
差出人は祐奈。
『ねえ、今ちょっと空いてる?ごはん行かない?』
ほんの軽い一文。
けれどその裏にある意味を、祐介は見逃せなかった。
待ち合わせたのは駅前の小さなイタリアン。
店に入った瞬間、祐奈がいつもより落ち着かない様子で立ち上がった。
「……ごめん。待たせた?」
「いや、俺も今来たとこ」
言葉は何気ないのに、互いにどこかぎこちない。
席に着いてからも、祐奈はグラスの水をやたらと口に運び、落ち着かない手つきでストローを弄っていた。
「……この前さ」
祐介が切り出そうとすると、祐奈が先にかぶせた。
「な、何してたの?」
急に声を上げたあと、すぐに顔を赤らめて視線を逸らす。
「ほら、あの時……なんか変な顔してたじゃん……」
「……何してたのは、こっちのセリフだよ」
祐介が淡々と返すと、祐奈はぴたりと動きを止めた。
そして唇を噛み、指先でグラスをなぞる。
「……ばか。そういう言い方する……」
声が震えていた。
料理が運ばれてきても、二人の間には言葉にできない沈黙が続いた。
視線を合わせるたび、祐奈は慌てて目を伏せる。
けれど、ふとした拍子に絡むその目は、確かに潤んでいた。
「……ほんとはさ」
祐奈がぽつりと呟く。
「こんなの、しちゃいけないんだよね」
罪悪感に揺れる声。
それでも、次の言葉は止められなかった。
「……でも、祐介といると……落ち着くっていうか……」
「……わかんない。ばかみたいだよね、私」
彼女は俯き、グラスをいじる指先を震わせていた。
照明に照らされた横顔は赤く、伏せた睫毛がかすかに震えている。
その仕草ひとつで、祐介の胸は苦しくなるほど高鳴った。
心臓が喉の奥にせり上がり、呼吸が浅くなる。
(……やばい。触れたい……)
言葉にする前に、体が反応しているのが自分でもわかる。
ただ向かいに座っているだけなのに、視線が彼女の唇や、細い首筋を追ってしまう。
飲みかけのグラスを持つ手に力が入り、汗で指が滑る。
理性が必死に「まだダメだ」と囁く。
けれど、彼女の赤い頬も、潤んだ瞳も、机の下で落ち着かず揺れる膝も――
すべてが祐介の欲望を煽っていた。
祐奈が小さく笑おうとして、唇を噛む。
その表情に、祐介の中で何かがかちりと音を立てて外れた気がした。
(……俺、もう……)
祐介は返す言葉を失った。
ただ、机の下で揺れる祐奈の膝の震えを見つめるしかなかった。
外ではいつも通りの学生のざわめき。
けれどこのテーブルだけが、別の熱を帯びていた。