夕方のハンバーガーショップ。ガラス越しに西日が差し込み、テーブル席には学生らしいグループが散らばっていた。

 講義を終えたばかりの祐介は、レポートの下書きを広げるつもりで、空いていた奥の席に腰を下ろした。

 ドリンクを置き、ふと顔を上げる。
 すぐ前のカウンター席に座っている横顔に、見覚えがあった。

 「……祐奈?」

 心の中で名前を呼ぶ。
 同じゼミで、飲み会やサークルの集まりでもよく冗談を言い合う仲。
 気取らずふざけられる相手だが――今日は違った。

 彼女の隣には男子がいた。
 視線の距離、会話の間合い。どう見ても彼氏だとわかる雰囲気だった。

 胸の奥がざわつく。
 いつもの祐奈なら、気さくにこちらに気づいて手を振るはず。
 だがその顔は、普段の明るさよりもずっと大人びていて、頬はかすかに赤く染まっていた。

 彼氏が自然に肩へ腕を回す。
 その瞬間――祐奈の身体が小さくびくりと震えた。

(……今、震えた?)

 祐介は思わず息を飲む。
 ただ肩を寄せられただけに見えるのに、その反応は妙に鮮明だった。

 目を逸らすべきだと思った。
 けれど、できなかった。

 彼氏が耳元で何かを囁く。
 祐奈は小さく笑い、ストローを指でいじる。
 だがその仕草はどこか落ち着かず、机の下で彼女の脚が揺れているのが視界の端に入った。

 一定のリズム。
 時折、祐奈の肩が小さくすくみ、唇がわずかに震える。

(……何をしてるんだ、あの二人)

 胸が高鳴る。
 見ちゃいけない、と頭では思うのに、目が離せない。

 祐奈の頬はさらに赤くなり、下唇を噛むようにして耐えているように見えた。
 それでも、彼氏に微笑み返している。
 教室で見せる無邪気さとは違う、どこか艶めいた表情。

 祐介はコーヒーを口に運ぶふりをして、呼吸を整えようとした。
 だが耳の奥で自分の鼓動ばかりが響いて、落ち着けなかった。

「……もう一回」

 祐奈の小さな声が聞こえてしまった。
 次の瞬間、彼氏が肩をさらに寄せる。
 祐奈の身体が再び小さく震え、脚が机の下でぴくりと跳ねた。

(……間違いない。なにか……してる)

 喉が渇く。
 視線を逸らせず、心臓の鼓動が早くなる。

 そして――気づけば声をかけていた。

 「……祐奈?」

 その声に、彼女がはっと顔を上げる。
 潤んだ瞳がこちらをとらえ、驚きに揺れた。

 その瞬間だった。
 テーブルの下から、祐奈のスカートの奥に差し入れられていた彼氏の腕が、素早く抜き取られるのを祐介は見てしまった。

 空気が張り詰める。
 祐奈は咄嗟にスカートの裾を直し、耳まで赤くして視線を逸らした。

 「……え、祐介……?」
 慌てて笑みを浮かべようとするが、その声は震えていた。

 「偶然だな。ここで会うなんて」
 祐介は乾いた声で取り繕った。

「……ていうか……何してたの?」

「……何してたのは、こっちのセリフだよ」

 祐奈は唇を噛み、耳まで赤くして視線を落とす。
 「……何してたの?」
 問いかけると、一瞬の沈黙ののち、彼女は唇を尖らせた。

 「……ばか。言わなくていいでしょ」

 軽く突き放す言葉。
 けれどその声は、わずかに濡れて震えていた。

 ――その響きが胸に残り、祐介はどうしても戸惑いを隠せなかった。