加奈子はいつだって、祐奈をからかうのが好きだった。
「バカなんじゃないの?」と強気に返してくる祐奈の顔が、照れて赤くなる瞬間を見るのが、最高に面白かったから。
そしてその祐奈の隣にいる洋介――静かで、けれど時折こちらを射抜くように見る目――それさえも、からかいのネタにしていた。
「ねえ、洋介って祐奈のこと好きすぎじゃない?」
そんなふうに笑っていたはずだったのに。
――インドの空の下、すべてが変わった。
留学で訪れたデリー。喧噪と香辛料の匂いに満ちた街で、加奈子は偶然にも洋介と同じプログラムに参加していた。
「え、あんたも来てたの!?」
驚いた声をあげると、彼は照れくさそうに笑った。
その笑顔に、どうしようもなく胸が跳ねる。おかしい。今まではただ、祐奈をからかうついでに見ていただけのはずなのに。
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夜、現地の友人アビシャの家に泊まることになった。
狭い家の中で、二人の布団は思ったよりも近くに敷かれている。
外からは太鼓の音と人々の笑い声。異国のざわめきが、妙に心を解きほぐしていく。
「眠れないな……」
洋介が小さな声で言う。
「……うん、なんかね」
加奈子も返す。気づけば、ふたりの声は自然と寄り添っていた。
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「加奈子さ、祐奈には内緒だな」
「……なにが?」
「俺たち、こうしてるの」
彼の指先が、ほんのかすかに加奈子の手に触れる。
その一瞬で、頭の中が真っ白になった。
「……ずるいよ、洋介」
強がる声は、もう震えていた。
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加奈子は、気づいてしまった。
祐奈をからかうつもりで笑っていたのに、自分が一番深く、洋介に惹かれていたんだって。
異国の熱気と、夜風の香りと、彼の体温。
そのすべてが重なって、加奈子は抗えなかった。
気づけば――「イケナイ」とわかっている一線を、ふたりで越えていた。
口から洩れるかすかな吐息。彼の胸に埋もれて、もう後戻りはできないことを知った。
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「……祐奈に、なんて言えばいいのかな」
天井を見上げながら加奈子が呟く。
洋介はしばらく黙っていたけれど、やがて静かに答えた。
「俺は……加奈子が、好きだよ」
胸の奥がきゅっと掴まれる。
祐奈を裏切った罪悪感と、どうしようもなく嬉しい気持ちが、同時に胸を満たす。
加奈子はそっと目を閉じた。
祐奈の笑顔が浮かぶ。
でも、その隣に立つ洋介の横顔を見てしまう。
――ああ、私、本当に、祐奈をおちょくってたはずなのに。
――今はもう、祐奈に謝ることもできないくらい、彼を好きになっちゃってる。