女「……そんなに見つめないで。落ち着かなくなる」
青年「見ずにはいられない……。まるで、消えてしまいそうで」
女「消える……ふふ、子供みたいね」
青年「子供でもいい。消える前に、確かめたい」
女「確かめるって……何を?」
青年「あなたが、ここにいるってことを」


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女「……ねえ、昔、夜中に温泉街を歩いたことがあるの」
青年「どうして?」
女「眠れなかったから。ただ歩いて……真っ暗な宿を見てた」
青年「それで?」
女「気づいたの。誰もわたしを見ていない。
 灯りがすべて消えたら……わたしもいなくなるんじゃないかって」
青年「そんなこと、ない」
女「あるのよ。あの夜の静けさは、わたしを呑み込もうとした」
青年「俺がいる。俺が証明する」
女「あなた……やっぱり子供ね。でも、その必死さ……嫌いじゃない」


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女「……そんなに、強く……ああ……」
青年「離せない……もう二度と、こんな瞬間ない気がする」
女「ふふ……乱暴なのに、泣き出しそうな顔をしてる」
青年「泣いてもいい……俺はただ、あなたを確かめたい」
女「わたしも……。今だけでいい、もっと抱いて」
青年「もっと……?」
女「一度でいいから。わたしがここにいるって、錯覚させて」


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女「……怖いのよ。あなたに抱かれてると」
青年「怖い?」
女「終わりが見えてしまう。まるで全部を手放してしまいそうで」
青年「だったら、最後まで俺と一緒に……」
女「それを言えるのが、あなたの残酷さ」
青年「残酷……?」
女「ええ。子供は夢を永遠だと思える。でも、大人には……夢しか残らない」


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女「……だから、一度きり」
青年「いやだ……」
女「いいえ。これ以上は、私が壊れてしまう」
青年「壊れてもいい!」
女「そうね。あなたは壊れても生きていける。
 でも、わたしは……壊れたら終わってしまう」
青年「待って……行かないで」
女「これ以上は、子供の夢になってしまうから」
青年「夢でもいい!」
女「いいえ……夢でいいのは、十代のあなたまで。わたしはもう……夢しか望めない」
青年「……」