なかなかひどい経済記事があったので、いつものようにネチネチとケチを付けてみる。
出典は日刊ゲンダイのサイトで、タイトルは「良好な経済指標ズラリ 民主党政権は本当に“悪夢”だったか」というもの。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/247482
この本文では冒頭で次のように書いている。
「経済政策について主に批判させていただいている」と、アベノミクスが成功しているかのように話していたが、経済指標で比べても、民主党政権の方がよかった事例がたくさんあるのだ。
えええ?ホントだろうか?
基本的にはナイと思ってるブログ主としては、異和感バシバシである。
1つ目。
まず、実質賃金が今より高かった。
いきなり脱力。
なんだよ、それ。
実質賃金って、名目賃金から物価上昇率分を割引いたものだよね。
ってことは、仮に賃金が変わらんとしてだよ、
- インフレが進む = 実質賃金落ちる
- デフレが進む = 実質賃金上がる
となるわけだ。
この記者はデフレ推奨なのか?
極端な例だが、インフレで100円のパンが200円になったとする。
給料が変わらんのなら、購買力は半分になる。
当然ながら超ビンボーになる。
逆にデフレで100円のパンが50円になったとする。
給料が変わらんでも、購買力は2倍になる。
問題なのは、「金持ちになった」と考えるかどうかなんだな。
さて、ここでエ?そうじゃないの?って人のために補足しとく。
そもそも、デフレでパンが半額になるのは景気が悪いから、なんだわ。
デフレは物価が安くなるからOKという人が結構いるんだけど、それはとんでもない間違い。
デフレ期は商売の売上が落ちる。
でも給料は払わんとイカンし、そうそう値下げできないから、パートさんやバイトを切り、物品の購入を控えて出金を抑える。
だからさ、正社員はかなり守られてるのよ。デフレだからって極端に給料減らないしね。
でもやめさせられたパートさんやバイト君は収入ゼロになるんだよ。
しかもデフレ期ってどの会社も出金を抑えようとするから、ロクな働き口がない。
つまり、国民全体で見ると稼ぐカネが減るわけだ。
ってことは、国民全体がビンボーになってるってことだ。
とこう言うと「なんだよ、じゃあインフレでもデフレでもビンボーになるのかよ」って言うヤツがいるが、ちょっと待て。
大切な条件が抜けてるんだよ。
それは給料の上昇だ。
最初に書いたリストに給料の上昇/下落を加えると、納得しやすいものになる。
- インフレが進む+ちょっと名目賃金上がる = 実質賃金落ちる
- インフレが進む+かなり名目賃金上がる = 実質賃金上がる
- デフレが進む+ちょっと名目賃金下がる = 実質賃金上がる
- デフレが進む+かなり名目賃金下がる = 実質賃金下がる
この中で2がベストシナリオで、4がワーストシナリオだ。
いやらしいのが3。
通常のデフレ期には4のシナリオではなく3のシナリオになることが多い。
この時、失業者が大量発生する。だけど平均賃金は働いている人の平均だから、失業者は含まれない。
給料の上昇も下落も少ないから、名目賃金はそれほど変化がない。
でも、国民全体の生産量はガタ落ちになってて、国民全体の購買力は落ちる。
(失業してて給料もらってない人が増えるからね)
ちなみに、現在はやっとシナリオ3を脱脚して、シナリオ1になってきたところ。
むしろ実質賃金は下がるべくして下がるタイミング。この時期をうまく乗り越えられれば、シナリオ2に移行できる。
んで、民主党時代はデフレが絶賛進行中だったわけで、正に3のシナリオになってたワケだ。
これが良好な経済指標だって?
2つ目。
財務省の法人企業統計を見ると、アベノミクス以降、企業が稼ぎを人件費に回す割合の
「労働分配率」は下がり続け、17年度は66.2%と43年ぶりの低水準だった。
困ったな。相手がバカすぎて反論に飽きてきたぞ。
これまたスジの悪い話を持ってきたな。
「労働分配率」低下はどんな時に発生するのか?
売上と人件費の比率なんだから、次のどっちかだわな。
- 売上が増えた時
- 人件費を減らした時
えと、今って人件費減ってるんだっけ?国民の総所得は増え続けてるよな?
それでも比率が落ちてるってことは、それ以上に売上が増えてるってことだよな?
それって、企業の業績が絶好調ってことだよな?
えと.......、ナニがダメなの?
3つ目
一方で、企業の内部留保は6年連続で過去最高額を更新。17年度は446兆円にまで膨れ上がった。
2つ目の続きなんだが、内部留保が増えたのか。
そうかそうか、それだけ売上が伸びたんだね。
良かった良かった。
って文脈じゃなさそうなんだよな。
これもナニがダメなんだろ?
あ、その次の段落に主張があった。
民主党が下野した12年度の304兆円から、労働者に分配せず、142兆円も増やしてきたのだ。
そういうことか。企業の中に留保せずに吐き出せよ、ってことかぁ。
一言で言ってアタマ悪い。
儲かったらすぐ還元しろってんなら、赤字になったら社員に補填させるのか?
よもや、儲かった時は還元して、赤字になったら会社の責任だから知らんぷりってんじゃないよな?
事業主じゃないんだから、売上げの増減リスクをサラリーマン側に押し付けるのはマズイだろ。
そもそも、給料を簡単に上げたり下げたりしたらイカンしな。
そんなんやったらスグに労働基準局からご指導されるぞ。
4つ目
「史上初めてすべての都道府県で1倍を超えた」と威張る有効求人倍率にしても、民主党政権の上昇トレンドを受け継いだ恩恵が大きい。
「リーマン・ショックの影響で、09年1~3月期の経済指標は軒並み大幅なマイナスでした。有効求人倍率も09年に0.47に落ち込んだが、民主党政権で回復し、12年に0.80まで戻したところで安倍政権にバトンタッチしました」(経済評論家・斎藤満氏)
資料調べんのが面倒なので確認してないので反論はやめとく。
だけど、9年0.47→12年0.80 だからといって、前後の状況を見んと何とも言えんと思うし、
トレンドの恩恵が大きいと断言しちゃうのは言いすぎではないかとも思う。
5つ目
それに、雇用が増えればいいというものでもない。
この文は明らかに間違い。
雇用が増えるのは正義。減るのは悪。これは断言していい。
雇用の質に対する主張はありうるが、雇用が増えることは絶対的に正しい。
「この条件だったら働いてもいいな」と思うからこそ雇用は増える。
仮にブラック求人ばっかだったら、皆が「割が合わん」と考えるから雇用は増えない。
と書くと、「そんなことはない。でなければブラック企業のトラブルがあんなに出てくるはずがない」とか言うのが出てくる。
あのね、ブラック企業が成立するのは求人が少ない時だけなんだよ。
求人がたくさんあれば、わざわざ条件の悪い職場を選ぶはずないだろ。
勤めてから、ブラックだとわかった時も、求人が多けりゃやめる気にもなりやすいってもんだ。
それともう一つ。「食っていくためにやむを得ず就労する人も多い」というやつ。
これもおかしな話。
そんな人で雇用が増えたっていうんなら、今までその人はどうやっておまんま食ってたんだ?
ゴミ箱あさってたか、仙人でカスミ食って生きてたか。
そんな人はそれまでも何らかの形で就労してただろうから、雇用が増えるのには関係ない。
ま、この一文は筆がすべったとしておこう
問題はその続き。
総務省の労働力調査によれば、安倍政権で非正規雇用が220万人も増え、全体の37.3%を占める。年収200万円以下のワーキングプアも100万人以上増えている。
もういかにも一部だけをトリミングした印象操作やね。
そもそも雇用者数が増えてるないのだろうか?(反語表現)
非正規雇用の率は本当に上がっているのだろうか?(反語表現)
ちょっと考えればわかりそうなもんだが。
ワープアにしたって、給料が減った人の増加してるんなら大問題だが、無職が職を得られたコトで増加かしてるんなら景気良くってメデタイ話だよな。
6つ目
おかげで、「貯蓄ゼロ世帯」も増加の一途。金融広報中央委員会の調査では、2人以上世帯の貯蓄ゼロ世帯は17年に31.2%と過去最悪を記録。18年はなぜか22.7%に大幅改善したが、これは調査方法を変更したからだという。
これも、資料調べんのが面倒で確認してないので反論はやめとく。
が、世帯数は増えてるんじゃないの?と思うわけだ。世帯が増えれば平均値も落ちて、ゼロ世帯も増えると思うんだがな。
ただ、上の段落とこの段落を「おかげで」でつないでるのは指摘しておく。
両者に依存関係があることを全く説明してないんだもん。かなり悪意を感じる。
7つ目
都合の悪い数字はいじり、大本営発表で見せかけの景気回復を演出する。それがアベノミクスの本質ではなかったか。鳩山政権で過去最高の11位を記録した「報道の自由度ランキング」も、17年には72位まで順位を落としてしまった。
最初の二文はここまででくつがえしたと思ってる。
やっぱ安倍政権スゴイわ。
また、「報道の自由度ランキング」なるものはその判断基準や付番ルールが不明瞭なので、個人的には信用に値しないのではないかと思っている。(ま、これは個人的な見解)
8つ目
民主党政権の経済政策は、決して間違っていたわけではない。
内閣府の「暦年実質GDP」のデータを比べると、民主党政権は10年の489.6兆円から12年の519.2兆円まで6.1%も伸ばした。東日本大震災があったにもかかわらずだ。
一方の安倍政権は17年の530.1兆円まで2%程度しか成長していない。16年にGDPの算出方法を変更してカサ上げしても、実質成長は民主党政権に遠く及ばないのだ。
お、GDPを出してきたな。やる気マンマンやな。
でもこのテのは経年変化を追っかけた方がいいよな。
んで、2007年(民主党の2年前)から2012年(民主党が終わった年)までのGDP値を探してみた。
見つけたのはコレ。
年 | 名目GDP | 実質GDP | 変動率(実質GDP) |
2007年 | 531兆6883億円 | 504兆7915億円 | 1.7% |
2008年 | 520兆7152億円 | 499兆2714億円 | -1.1% |
2009年 | 489兆5010億円 | 472兆2288億円 | -5.4% |
2010年 | 500兆3539億円 | 492兆0234億円 | 4.2% |
2011年 | 491兆4084億円 | 491兆4555億円 | -0.1% |
2012年 | 494兆9572億円 | 498兆8032億円 | 1.5% |
出典:世界経済のネタ帳(2018年の実質GDP)
するとですな、2009年のリーマンショック後がヒドいことになってるのがわかる。
別に民主党の政策が良かったんじゃなくて、2009年は外部要因で異様にGDPが低い、が正しい見方だろう。
ただ、民主党を擁護するわけじゃないが、2011年の東日本大震災で△0.1%に抑えられているのは立派といっていいんでないかな。
同様に2012年から2018年(速報値)を見てみる。
年 | 名目GDP | 実質GDP | 変動率(実質GDP) |
2013年 | 503兆1756億円 | 508兆7806億円 | 2.0% |
2014年 | 513兆8761億円 | 510兆6871億円 | 0.4% |
2015年 | 531兆9857億円 | 517兆6009億円 | 1.4% |
2016年 | 538兆5328億円 | 522兆4568億円 | 0.9% |
2017年 | 546兆6083億円 | 531兆4042億円 | 1.7% |
2018年 | 557兆0058億円 | 537兆6850億円 | 1.1% |
改めて見ると安倍政権がかなり安定してるのがわかる。
さて、最初の引用と見比べると、どうも数字があわんのだわ。
ゲンダイの主張では、10年が489.6兆円となっているが、2010年の実質GDPは492兆0234億円のようだ。
また、2012年は498兆8032億円らしいので、その差額は6.8兆円、1.3%(年あたり0.65%)に過ぎない。
記者の言ってる、「6.1%も伸ばした。」になってないんだが。確かに1次資料じゃなく2次資料だから、間違いの可能性はあるけどね。
さらに、同じルールで計算すると、2013年~2018年の安倍政権では、約29兆円、5.7%(年あたり0.95%)となる。
そもそもの主張がひっくりかえってしまったんだが、大丈夫か?
その9
「GDPの6割を占める個人消費が、民主党時代は増えていました。個人を犠牲にして資産家や大企業を儲けさせる安倍政権よりも、勤労者の生活を重視する民主党の経済政策の方が、国民は暮らしやすかったと思います」
増えてましたって言ったって、2年のことやろ。
以下の表を見る限り、2010年、2011年はたいしたことないわな。(2012年は良いと思うが)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc112310.html
一方の安倍政権では2013年は良かったものの、2014年の消費増税でボロボロになってる。
でもな、そもそも消費増税を国会で通したんは野田政権だろ。そら安倍政権がそれを阻止できんかったのは事実やし、そこは責められて仕方ないとは思う。
ただ、その後も国民経済コワさんで済んでるってのは十分評価に値すると思うぞ。アレこそ経済をハカイするファイナルウエポンやからな。
ま、これについては、それほど強く反論できるわけじゃないので、これくらいにしとこう。
って、これで話は終わりなんやが、
あのさぁ、シロートで論破できちゃうってどういうこと?
これで金もらってるとか恥ずかしくない?
もう少し骨のある文章を書いておくれ、ゲンダイさんよ。