【私の外交論 その1】東アジアを安定させ、人々の経済・暮らしを向上させる | Making Our Democracy Work! 石井登志郎オフィシャルブログ Powered by Ameba

【私の外交論 その1】東アジアを安定させ、人々の経済・暮らしを向上させる

フィリピンのモンテンルパ捕虜収容所にて

2013年1月、私は太平洋戦争の終戦に伴い、連合軍の捕虜として身柄を拘束され、現地における裁判の末、17人に対し絞首刑が実行された地、モンテンルパを訪れました。国の命令で見知らぬ南の地に赴き、上官の命令で行った様々な所業を異国において裁かれ、家族の顔を見ることなく失意のうちにこの世を去った彼らが、いったいどんな心境であったか、想像を絶する無念さであったことと思います。彼ら以外にも、多くの同胞が戦闘のみならず飢餓や伝染病で命を落とし、帰らぬ人となっています。もちろん日本人以外にも、対戦したアメリカ兵も多くが命を落とし、現地フィリピンの民間人も数十万の犠牲者が出ています。戦後に裁かれたのは敗戦国の日本だけであり、その象徴がA級戦犯や巣鴨プリズンやモンテンルパにて収容されたBC級戦犯です。日本人ですから、敗戦国のみが裁かれたことに釈然としない思いはあります。しかし、無念の思いでこの世を去ったすべての御霊は、何らかの名誉回復とか報復とかを求めているのではなく、決して同じ過ちを繰り返さない、愚かな殺し合いを二度としないことを求めているはずです。


東アジアの安定こそ我が国の幸福につながる

日本の繁栄と人々の平和な暮らしは、名実ともに地域の安定があってこそ実現されるものです。数字の上でも、アジアシフトは顕著です。2012年の国別輸出量では、中国18%(1位)、韓国8%(3位)、あとベストテンには台湾(4位)、タイ(5位)、香港(6位)と、アジア勢が続きます。輸入も中国21%(1位)で、あとは資源国が続きますが、韓国(6位)、マレーシア(7位)、インドネシア(8位)と、アジア諸国で占められます。これは、日本企業の工場移転などを通じて、日本がアジア諸国と経済圏を一体化してきた証左でもあります。この傾向は強まりこそすれ、弱まることはないと思われます。
一方で、日本の近隣諸国との外交関係がなかなか膠着した状態から抜け出さず、経済にも悪い影響を及ぼすことが心配されています。中国、韓国の国内事情もありますが、首脳外交が目詰まりを起こしていることは決して良いことではありません。政治の安定と、トップ同士の信頼関係、そして信頼関係を築こうとする努力を示す姿勢があってこそ、経済にも好影響をもたらします。


安倍政権は東アジアの不安定要素

不戦を誓い、平和な世界を導くべき我が国が、今は不安定要素になっています。特に昨年末の安倍首相自身による靖国参拝がその一つですが、首相が言うような「内政問題であり、戦没者に対し尊崇の念と哀悼の意を捧げると共に不戦を改めて誓った」という言い分が、現実としては他国に理解をされていないことを認識すべきです。総理大臣たるもの、国家を代表する立場ですから個人の思いを強く打ち出す自由は制限されるものです。
首相周辺の理解不足も気になります。先日、衛藤首相補佐官が、「アメリカが日本に対して(首相が靖国参拝をしたことを捉えて)『失望した』と言うが、我々の方こそアメリカに失望した」と自らの動画で語り、顰蹙(ひんしゅく)を買い官房長官からも注意を受け、その動画を取り下げたということがありました。
これは、「アメリカは同盟国として日本の立場に常に立ってくれるべきではないのか」という考えがあると思えますが、アメリカは日本の代弁者ではありません。アメリカはあくまでアメリカの国益を追求します。また、アメリカにとっての同盟国は日本だけではありません。アジア太平洋地域でも、日本以外に韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアと同盟関係にあり、シンガポールとも強い結びつきを持っています。日本だけが特別というわけでなく、アメリカの“世界戦略”におけるパートナー、つまりコマとして日本があるということです。元外務省・国際情報局長などを務めた孫崎亨氏は著書「戦後史の正体」の中で、アメリカにとって日本は、将棋の駒に例えると、時に飛車であり、桂馬であり、歩となる。仮に飛車の役割を日本が担っているとしても、“王手飛車取り”のような手を仕掛けられた際には王=アメリカを守り、飛車=日本を犠牲にすることは大いにあり得る、としています。


集団的自衛権行使を目指す前に、まずは信頼される努力を

今、安倍政権では、集団的自衛権に関する議論を進め、憲法解釈の変更によってその行使を認めさそうとの動きがあります。確かに、憲法上の制約が日本の平和協力の足かせになっているとの主張に理解できる部分もあります。ただ、どんなに国際情勢が変化し、どんなに論理的に必要な集団的自衛権の行使であったとしても、その動きを「日本の軍国主義復活」と見られるようならば、前に進めることはできません。安倍総理が言う「積極的平和主義」を実行に移すための大原則は、日本が近隣諸国から信頼され、尊敬されることです。
そのやり方にはいく通りもありますが、私が考える日本の平和貢献は、核兵器廃絶に向けて強力に動くことです。昨年には、わが国も初めて国連において「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」に賛同する決定をしました。アメリカの核の傘にあるとされる我が国において、これまで踏み出せなかった一歩が前進したわけです。私はこれをさらに進め、マレーシアやコスタリカが推進する核兵器禁止条約の発効に向けて、わが国が積極的な役割を果たすことも一つの手段と考えます。もちろん、相当高いハードルを超えねばなりません。しかし、求められるのは我が国の「姿勢」です。他国の信頼を積み重ねること、それは必ずしも集団的自衛権行使を可能にすることだけではないこと、アメリカだけが我が国外交の全てではないことを肝に銘ずるべきです。過去を踏まえながら平和な未来をつくる、そして自主自立外交を目指す、これが我が国の外交ビジョンであるべきです。