シンガポール出張報告 その1 バイオポリス・NEWater | Making Our Democracy Work! 石井登志郎オフィシャルブログ Powered by Ameba

シンガポール出張報告 その1 バイオポリス・NEWater

一月の国会前の時間を利用して、シンガポールへ視察に参りました。滞在時間が45時間と、丸二日にも満たない『弾丸ツアー』となりましたが、体力の限り(初日は特にグロッキーでしたが)、見聞を深めて参りました。


シンガポールは、淡路島ほどの広さしかない島国です。人口499万人のうち、75%を華人系、14%をマレー系、9%をインド系が占める、いわゆる多民族国家で、政府の統制とリーダーシップが極めて強力な国家との印象を私は持っています。


それで、なぜシンガポールか?、ということですが、これは先日ICT教育の視察で韓国に参りましたが、シンガポールもICTを活用した教育に力を入れており、数年前に原口総務大臣、内藤総務副大臣が当地を訪れ、その現状に感化された結果、22年度の総務省予算(文科省でない!)に「ICTを使ったヒューマンニューディール」事業を新規に10億円計上したことが、私を視察に駆り立てました。見とかないと議論できない!、との思いです。それと、世界的に有名なバイオポリスの視察も、一つの核でした。どうしてシンガポールにバイオ研究施設が集まるのか、これまた見てみないとどうしようもありません。


詳細レポートは別途お読みいただきたいのですが、韓国とシンガポールの共通点は、「トップダウン」の国だと言うことです。これだ!、と思えばそれに向かってがんがん進んでいく。その機動性の高さを、改めて感じる視察となりました。逐次、報告いたします!


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バイオポリス


前日の深夜3時前に現地到着し、ただでさえ7時間のフライトでグロッキーなところ3時間の睡眠しか取らずに、翌朝9時から始動、バイオポリスに向かいました。


昨年、NHK特集でシンガポールが取り上げられたとき、バイオポリスにスポットがかなり当てられていました。要はこれから世界の成長分野となるバイオの技術を、全部シンガポールで研究してもらうように集めてしまおう、という理念の施設で、シンガポール政府の強いリーダーシップのもと、開設されました。京都大学の伊藤教授が、研究室ごとシンガポールに移設したことは有名ですが、そのすごさが実感できる視察となりました。


私がまずお会いしたのが、早稲田大学バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)http://www.waseda.jp/WABIOS/japanese/index.html の皆さん。これまで、日本の企業と共同で研究室を持っておりましたが、その契約満了に伴い、早稲田大学のひとつの施設という形でリ・オープンしたものです。研究の中心は『人工血液』の開発。これが成果として形になれば、献血の代替となりますし、不治の病への対応も期待できます。そうした中で、私が一番関心があったのは『研究の成果・果実』が誰のものになるか、という点です。日本の『英知』が流出し、そして日本の国益となるべきところをシンガポールに取っていかれる、そんなことであれば最悪のストーリーだな、と思っていましたが、それは早稲田の研究室に関しては見当違いであることがわかり、ちょっと安心しました。


つまり、この研究室のために資金を出しているのは早稲田大学であり、日本政府の補助金も活用しておりますが、WABIOSはバイオポリスの『ひとつのテナント』であるだけで、成果物(知的所有権)は早稲田大学に帰属するとのこと。


では、なぜわざわざシンガポールに来るのか。その理由は、その後、バイオポリスを見て回ってよくよくわかるのですが、要は「日本で研究していると、試験管を洗い、培養液を用意し、マウスを飼育し、そして色々な廃棄物の処理を適切にするところまで、研究室の仕事になる。また、高性能で高価な機器を使用するには、外に出かけていくか、機器の種類を絞って限られた予算内で手配されたものを使うほかない。それが、ここでは一切ない。必要な機器の準備は、全部整っている。余計な仕事をせずに、研究に打ち込める。」ということです。


それでは、どれだけ研究のための設備が充実しているのか。


バイオポリスを回って、なるほど、なるほど、とうなずくことばかりでした。例えば、Zebrafish(めだか)はバイオの実験に様々な用途で使われるようですが、その実験用に、なんと30万匹のZebrafishを飼育しているとのこと(ちなみにこの施設の責任者はロシア人研究者)。実際に見ませんでしたが、マウスも相当な単位でまとめて飼育しているようです。また、ビーカー、試験管、培養液など基本的な機材の準備態勢のすごいこと。そんなの洗うのなんてたいしたことないだろー、と思ってしまうのは研究者マインドを理解しておらず、かなり繊細なバイオの研究において、いちいち洗ったりなにしたりとしなければいけないことが、どれだけ研究効率を下げるかと考えれば、こうした設備はありがたいことこの上ないのでしょう。また、高価な高性能機器がいくつもいくつも整備されており、もちろん多くの研究者が使用しますから予約はいりますけども、日本のひとつの大学機関が持てるはずもない数量の高級機器が自由に使用できるわけですから、それはすばらしいことです。


ただ、重要な点があります。私は、早稲田の研究室が生み出した知財は、早稲田のものになると書きましたが、別の日本人の研究もそうかと言えば、そうではありません。つまり、早稲田の場合は資本を早稲田が拠出していますから、成果は早稲田のものになりますが、シンガポールが研究資本を出しているケースでは、その研究が生み出した知財は当然シンガポールのものとなります。これは、明確な『知の流出』です。


このバイオポリスはすばらしい施設です。かなり、カネのかかる施設です。日本の『知の流出』を懸念するのであれば、バイオポリスを早稲田の研究室的に利用するのは日本の国益という観点でかなっているでしょうが、研究資本をシンガポールに持ってもらうようなケースを国として放任することは、国益を損ねることになりかねません。


アジアないし人類の共有財産としてバイオポリスが活発に活用されることはすばらしいことと思いますが、同時に、我が国の国益を追求するのであれば、シンガポール政府から資本を受ける代わりに我が国の政府がよい研究にはしっかり予算をつけて、そして生み出された知的財産という成果物を、我が国のものとすることが考えられないか、そう思ったところです。日本の、これからの戦略の質が問われます。






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NEWater


シンガポールでひとつ注目されているのが、NEWaterと呼ばれる下水再生水の活用プロジェクトです。要は、日本であれば汚水を川に流して問題ない程度にまで浄化して川から海に放流するのですが、シンガポールではその一部を再利用していると言うわけです。


それもこれも、淡路島ほどの島国に500万人もの人々が暮らしており、恵まれない水需要をまかなうために、マレーシアからの輸入に多くを依存してきました。一方で、それが極めて大きな取引材料とならざるを得なかったことから、何とか自国で水を調達できないか、との深刻なニーズが背景にあり、結果として技術の進化によって可能となったNEWaterを導入することとなりました。


現在、NEWater該当施設は全部で4工場稼働しています。今回はその一つである、チャンギ空港近くのNEWater施設を見学しました。


西宮の水道局が管理する浄水場を見に行ったイメージがあるので、この施設とのギャップは極めて大きく、同じ水の施設でも全然違うなー、と、ただただ感心するのみでした。とにかく、水そのものは見えないのです。なぜかと言えば、白い筒の中を通ってろ過されているわけですから、その筒があちらこちらに整然と並んでいる姿が見せられるばかりです。しかし、これがある意味、未来の水工場なのだと、最後の方には自然と受け入れることが出来ました。


シンガポール全体の水需要の約2割から3割を賄っています。ただ、飲料用水全体から見ると1.5%のみがNEWater由来で、NEWaterそのものが一番多く活用されているのは工業用水です。


確かに、私もNEWater飲みました。『大阪の水』みたいな感じでペットボトルに入れて、売ってはいないんですが見学者用にくれるのですけども、はっきり言って、おいしくない。ミネラルなど栄養成分がないからだ、と言うのですが、気持ちの問題か、何かよくわかりませんが、とにかくおいしくない。(ごめんなさい!)一方で、工業用水(主に半導体工場の洗浄工程やビル冷房の冷却水)はおいしい必要もありませんので、こちらへ多くが活用されているそうです。


ついでに書きますが、シンガポールには一カ所、海水淡水化プラントもあります。このプラントを稼働させれば、シンガポールの水需要の9%程をまかなえるということですが、NEWaterよりもコストが高く、どうやら今はあまり稼働していないらしい、と。しかし、海水と汚水なら、私は海水の方がいいかな、なんて思いますけども、いずれにせよ水は人類の生存に関わる問題です。


さて、ここで一番大切なことは、NEWaterにせよ海水淡水化にせよ、その浄化に欠かせない処理プロセスにおいて、日本の技術が活用されていることです。いわば、日本の逆浸透膜ないし精密ろ過膜がなければ、こうしたプロジェクトは成り立たないのです。一方で、プロジェクトには不可欠な日本の技術ですが、日本の水道供給体制は国交省、厚労省、各自治体と民間企業と、それぞれに区分けされているため、他国の水プロジェクトを一体的に請け負う体制・ノウハウが欠けているようにも思えました。つまり、極めて立派な技術ではあるが、日本は単なる『部品屋』に過ぎないのではないか、我が国の『知』は『部品屋』よりももっともっと多くの価値を提供できるはずではないのか、との思いも強く持ちました。


水ビジネスが、日本の経済の大きな柱として成長することは、世界中の水不足を解決することにもつながるはずです。その意味で、日本はもっと水問題に取り組むべきと痛感しました。そんな思いを、案内してくれた国交省より出向している清瀬書記官と共有したところ、同氏から「6月に水サミットがシンガポールであります。是非、大臣に出席をしていただけたら、日本の存在感を示すことが出来るのですが。」と言われました。私は、「わかりました。前原大臣に伝えますね。」とお答えしました。前原大臣には、早速国会開会日にその旨お伝えし、大臣からは「なるほど、それ、大切な問題ですね。」と返答いただきました。行っていただければいいんですが、いずれにせよ、日本としての『水ナショナルプラン』が必要と強く思う機会となりました。