外国人技能実習の介護職解禁(中) パネルディスカッション「受け入れにどう対応するのか」 | 介護付有料老人ホーム としおの里 (群馬県太田市)介護付ホーム

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【パネリスト】
社会福祉法人ことぶき会施設長・立石裕一氏
NPO法人メンターネット理事・三輪美幸氏
さくら共同法律事務所弁護士・山脇康嗣氏
<司会>協同組合外国人技能実習サポートセンター理事長・水谷賢氏
(以下敬称略)

転換期迎えた技能実習制度

水谷 まず自己紹介を兼ね、新外国人技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)に対する評価、あるいは疑問点などについて話を進めたい。

山脇 私は外国人の国内就労のための入国業務を専門に担当する弁護士であり、就労系外国人の入管業務について法務局入国管理局と定期的に協議している。新技能実習法の大きなポイントは技能実習制度に新たに介護職を導入することにしたことだ。ただ、これは単に職種の追加ではなく、これまでの製造業と違って初めて対人サービスの業務を実習制度で認めたということに意味がある。これまでの受け入れ職種は建設、縫製など、モノが相手だったが、介護は現場でコミュニケーション能力が問われる。実習生たちは介護福祉施設などで実質的に就労し、入所者と日本語で意思疎通を図らないといけないことが最大の相違点だ。だから事故などが発生した場合の責任は、これまでとは比較にならないほど大きい。その意味で介護職の導入は実習制度の大きな転換期ともいえよう。

立石 光生病院グループの社会福祉法人「ことぶき会」(岡山市北区厚生町)の特別養護老人ホームの施設長を務めながら、外国人の介護・看護人材を受け入れる協同組合「おかやま医療福祉ネットワーク」の事務業務も担当している。このネットワーク組織は2015年に組合傘下の特別養護老人ホームなど7法人で設立した。これまでにある程度専門的な技術を持つ人材を移入するEPA(経済連携協定)を通じてフィリピン、ベトナム、インドネシアから延べ50人程度の外国人の介護人材を受け入れ、組合傘下の施設で就労してもらっている。現在は組合傘下の介護福祉施設は9法人となった。11月からの新技能実習法の施行を前に今、技能実習生を受け入れるため、監理団体の認可申請の準備をしている。

三輪 協同組合外国人技術実習サポートセンター(岡山市北区春日町)とNPO法人メンターネット(同南方)の理事として、行政書士の立場で4年ほど前から外国人技能実習生の受け入れ認可の手続き業務などを行っている。受け入れ職種として介護職が認められたことは、万年的な人材不足に悩む介護福祉業界にとってありがたいことだ。その一方で新技能実習法では実習生が基本的な日常会話がこなせる4級(日本語能力検定)ぐらいで入国し、1年以内に3級の能力習得を義務付けているが、実際に施設などで就労(実習)しながら短期間で3級に合格できるのかどうか、日本語の能力不足で施設入所者との間でトラブルが起きないのか、という不安はぬぐいきれない。介護職は技能実習制度にとって初めての対人サービス業務であって、さまざまな観点からの対応が必要となる。

国際貢献と人材不足

水谷 新技能実習法は外国人実習生の適正な技能習得と人権保護をうたっている。裏を返せば実習生をわが国の人材不足の解消策、あるいは労働力の需給手段に使ってはならないとう理念がある。しかし、これまで技能実習生は単純労働力として最低賃金で便利よく使われているという指摘があった。新技能実習法がことさら国際貢献、人権保護を強調しているが、その背景には何があるのか。

山脇 政府の公式見解によれば、「実習生をわが国の労働力の需給調整の手段としてはならない、という趣旨を十分に理解していない受け入れ機関が一部にあり、実習生の人権問題や低賃金雇用などの多くの問題が出ている」として、技能実習制度の本来の目的である国際貢献の趣旨を徹底させるのが新法の狙いだと言っている。確かに日本の認知症などに対する介護技術は世界でもトップレベルで、その技術を世界に伝えることは国際貢献にはなる。実際にベトナムやモンゴルなどが自国の技術のレベルアップのため、介護職実習生の受け入れをわが国に要請するケースはあった。しかし本音のところ、今回の介護職の解禁は人材不足に起因していることは間違いない。わが国は原則、入管法で移民受け入れにつながる外国からの単純労働力は受け入れていない。その役割の一端を現在全国で21万人ぐらいいる外国人実習生が果たしている、という根本的な矛盾を抱えている。介護職の人材不足がさらに深刻化するのは間違いなく、当面の介護職人材の補充的な手段といわれても否定できない面もある。問題は国際貢献と人材不足の解消をどう両立できるのか、入管法の趣旨との整合性を維持できるのか、そこに新技能実習法の本音の目的があったのではないか。

立石 国内の介護業務は重労働の割には賃金ベースが低く、就労の場として若者に人気がない。スタッフが長続きせず短期間で退職するケースが多く、長期で安定した雇用を期待するのは難しい。介護士養成学校は定員割れのところが目立ち、若者の人材確保はこれからも一段と厳しくなるだろう。どうみても将来的にも人材不足は解消されない。このため私が所属する介護福祉法人の「ことぶき会」では、EPAで2009年度から外国人の導入を始め、現在フィリピンなどから5人を受け入れている。今年12月にも新たに外国人の介護人材2人が就労する。新技能実習法はこうした厳しい現場の声に応えるため、EPA以外に技能実習制度の枠内でも、介護職人材の移入に門戸を開いたのではないか。問題はあるとしても現場としては歓迎している。

山脇 政府がいうように国際貢献を額面通り受け止めれば、実習生がわが国で学んだ先進的な介護技術などを自国に持ち帰り、母国の介護福祉事業に役立てるということなのだろう。高齢化時代を迎える中国では、介護福祉施設が急ピッチで建設され、アジア全体の介護事業の潜在市場は500兆円とも言われている。日本の最先端技術はこれから大いに期待され、今後アジアのために果たす役割は大きいだろう。ただ、実際には国内の介護の人材不足という現実と、技能実習制度の目的である国際貢献の理念とが乖離(かいり)し、制度のあり方に疑問を指摘する声があるのは確か。これは個人的な意見だが、何も国際貢献を狭義に捉えるのではなく、例えば日本に在留中に習得した日本語や、日本文化、風習などを海外に伝えることも立派な国際貢献なる。そう考えると海外から人材を移入し、人材不足を補うことと国際貢献とが、必ずしも乖離しているわけではない。

不安が残る日本語能力

水谷 一方で実習生の日本語能力や介護キャリアの不足などが、現場での重大事故につながりかねないという懸念もある。

三輪 安易に実習生を受け入れると、現場でトラブルが起きる可能性は十分に考えられる。このため新技能実習法では受け入れ基準を厳しくして、技能実習生、受け入れの監理団体、実習先の企業・団体の3者に一層厳しい条件を加えている。例えば実習生は本国においても同種の介護の実務経験があるか、介護課程を修了、もしくは介護士資格を有しているものに限定した。実習生の日本語能力については、母国で160時間以上の日本語教育を受けた上、入国時に検定でN4程度、つまり日常会話ができる程度の能力を求めている。さらに日本に在留中に240時間の日本語講習などの座学が義務付けられ、1年間でN3程度の能力が要求される。もし3級検定に合格できなければ、実習を続けることができず帰国処置がとられる。介護現場で言語能力の不足が重大事故につながるという懸念があるからだ。また、受け入れ側の監理団体は実習生を5年間以上監理・指導できる優良な団体などに限られるとし、実習先の施設も運営が始まって3年以内は対象外とし、監理の目が行き届きにくい訪問看護や在宅介護支援は除外されている。しかし、現実問題として施設で毎日働きながら日本語を勉強することは、かなりハードなことで、どこまで基準が守られるかは定かでない。

立石 EPAは技能実習制度より高い日本語能力レベルが必要とされている。当施設ではEPAでベトナム、インドネシア、フィリピンから人材を受け入れているが、入国時にすでにN3以上の能力があり、在留中にN2の能力を身に付ける。入国後も全寮制で6カ月間かけてみっちり日本語や技術の勉強をしてもらっている。しかし、それでも現場に配属されると、入所者とのコミュニケーションがかなり厳しいのが現実だ。日本人スタッフとの業務の引き継ぎ、連絡もスムーズにいかないケースも時々ある。さらに方言もあり、誤嚥(ごえん)や徘徊(はいかい)などの専門用語もあるので、実習生は相当に勉強しないと追いついていけない。EPAでもこんな状態なので技能実習生の場合は、日本語教育がどのくらいできるのか、そこが大きなポイントになるのでは。

山脇 日本語能力については新技能実習法で入国時にN4程度という条件があるが、この「程度」という表現が微妙だ。介護分野は単純作業に比べ高いコミュニケーション能力が必要で、そのためには日常会話以上の能力が必要だ。かといってN4の能力にこだわりすぎると、希望者が激減するため、表現をあいまいにしているのだろう。しかしEPAがN2を目標にしていることを考えれば、同じ職種でありながらN4程度のラインに下げたのは正直言って不安を感じる。

水谷 介護事故リスクの大きな要因は転倒、転落、誤嚥だといわれている。現場で入所者とのコミュニケーションを欠くと事故につながりやすい。監理団体や受け入れ施設の監督・指導が非常に重要になってくる。かといってリスクを恐れ、実習生を肝心の介護業務から遠ざけ、洗濯など雑務だけに従事させれば、本来の技能実習の目的から外れる。日本語能力とともに実習生の人権問題もしっかり認識しておく必要がある。その一つが賃金水準。新技能実習法では日本人と同等か、それ以上ということだが、施設を運営するサイドとしてどう受け止めているのか。

賃金水準は日本人と同等か、それ以上

立石 EPAの場合だと受け入れた人材1人につき、賞与も含んで年間で約270万円相当はかかる。これは国内の高校卒程度の賃金ベースだが、さらに住宅費の援助などを考えると、日本人の介護職と同等かそれ以上にはなる。首都圏での給与水準も考えて賃金を出さないと、岡山みたいな地方都市には人材は来てくれないので、経費はそれなりの水準をキープしないといけない。少々人件費が高くつくかもしれないが、将来EPA制度による介護職人材の受け入れが廃止されるといううわさもあり、人材を担保する意味で技能実習生の確保には積極的に取り組む方針だ。

山脇 介護職の技能実習生の人件費は、監理団体に支払う管理費や実習生の住宅支援などを考えれば、日本人の若者の賃金より割高になるかもしれない。しかし、離職率が高い介護職の現場で、実習生は最低でも3年、長ければ5年間は定着してくれる。その意味で同一人材を一定期間キープできるメリットは大きい。最低賃金ぐらいに抑えたら賃金ベースが高い他の職種に魅力を感じ、失踪するケースも出てくる。特に実習生に不満が出ない賃金の対応は重要だ。 

水谷 今回の新技能実習法の施行で、技能実習制度の理念と現実の壁が大きくクローズアップされてきた。超高齢化社会を迎えたわが国が将来、外国人労働者をどう位置付け、どう活用していくのか。現状では国からの情報開示が遅れがちで、新技能実習法の不透明感はぬぐえない。しかし、新法が将来のわが国の外国人労働者の受け入れ政策を占う試金石となるのは確かだ。今後の動向を注視していきたい。