官房長官の講演での「農林水産政策と農協改革の転換論議」は納得できない
ところで、官房長官が、11日に、読売国際経済懇話会で講演され、200名を超える財界人や各国大使等が聴講されたという。
一番最初に、安倍内閣発足後のアベノミクスで、わが国の強い経済をつくり上げ、GDPも増加し、最大値を示しているし、株価も上がり、20年間続いたデフレからの脱却、有効求人倍率も0.8から1.60へと向上したし、企業収益も過去最高で、内部留保も増額、国・地方の税収も増えていると高らかに唱っておいでになる。それらはその通りだ。
しかし、その一方で気になるのは、農林水産業を大きく取り上げ、農業を「守りから攻めへの転換を図った」とおっしゃっていることだ。減反政策の見直しを40数年ぶりに行ったこと、また、農地集約化して農地バンクをつくり、意欲のある人に農業を営んでもらいたい、とおっしゃっている。
しかし、これだけでは、必ずしも目に見える成果が上がっていないためか、「希望」を述べておられるだけの印象だ。出席者が企業経営者や外国大使館関係者が中心で、しかも豪雨被害が生じている時に、若干、遠慮されたのかもしれない。
ところが、農協改革については、強い調子で主張されている。すなわち、「農協中央会に圧倒的な権限があり、農協はそれに従わざるを得ない状況だった」と批判されている。本当にそうだったのだろうか。
そして、「地域の農協が地域の特色を生かせる仕組みを作った」「結果として就農する人が増え続けている」と高らかにおっしゃっている。「2年間で6万人ずつ増えている」ともおっしゃっているが、50~60歳も含めて、他産業を離職された中高齢者が、親の逝去等を機に農業に戻ったに過ぎない。農地バンクの取り組みも十分な成果を生んでいない。
もちろん、このことを否定的にとらえるものではないが、もっと検証されなければならない。本当に、農外から自立的な農家が戻ったのか、株式会社等の企業の農業参入と連動した農業雇用の形ではないのか、等々である。
そして、官房長官は、「林業でも民間の林地を市町村に集約し、大規模化し、意欲がある人には貸し出せる森林バンクを作った」「水産業でも、漁協が強力な権限を持っている養殖の仕組みを、公平な効率的な仕組みに見直すべく法改正をする」とおっしゃる。
そして、規制改革することで、農林水産業の展望は開けると強調されている。ここまでおっしゃると、農業・林業・そして水産業も、株式会社等の企業参入を行うということなのかと考えてしまう。まさに、地域の農業者の協同の強化ではなく、「農協改革を断行した」とおっしゃる形での大々的な企業参入を進めるということなのかと受け止めざるを得ないのである。