書評:『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』、映画ディア・ファミリー原作 | 大原浩の金融・経済地動説

書評:『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』、映画ディア・ファミリー原作

 

 

清武英利著、文春文庫

130点

 

事実を基にした「ノンフィクション」である。

 

語り口は淡々としている。取り立てて激しい感情表現があるわけでは無い。

 

だが、登場人物たちの心の奥底から湧き上がってくる感情が、圧倒的な力で迫ってくる。徹底的に「家族の心」を中心に据えて物語を展開しているせいだと思う。

 

読めばわかるが、町工場のオーナーが無謀にも人工心臓の開発に挑んだ「開発物語」という「事実そのもの」が我々の心を鷲掴みにする。

 

それに加えて、可憐な少女が死の恐怖におびえながらも、けなげに生きるという抒情性が加わる。

 

家族の絆、いじめ問題、淡い恋心、宗教への傾倒なども織り交ぜながら展開する物語は「桜の花びらの運命」に集約されたといえるであろう。

 

医学的、工学的な事実もきちんと描写されていることが、物語をよりリアルなものにしている。

 

丹念な取材による物語が骨太であることによって、感動のボルテージが大きく上昇した秀作である。

 

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