マーターズ(Martyrs、2007) | 大原浩の金融・経済地動説

マーターズ(Martyrs、2007)

 

モルジャーナ・アラウィ、ミレーヌ・ジャンパノイ他

140点

 

フランス・カナダ合作であるが、フランスを舞台にしたフランス色の強い作品だ。

 

物語は冒頭から文字通り「疾走」する。少女が裸足で駆けるシーンでいきなり度肝を抜かれるが、それから間もなく行われる「無慈悲な殺戮」にはさらに驚かされる。

 

フィルム・ノワールの時代から、無慈悲(無意味)に人が殺されるのがフランス映画の伝統だが、この「無慈悲な殺戮の背景」こそがこの物語の核心である。

 

最初は「児童虐待」をテーマにしているように見えるのだが、次第にこの映画のタイトルである「殉教=マーターズ」がクローズアップされる。

 

前半で主人公と思われていた少女から、後半の主人公である少女へ「バトンタッチ」されてからが、この映画の「哲学」の真骨頂だ。前半部分はある意味「ふり」である。

 

さて、世界最大のカルト宗教は23億人の信者を抱えるとされるキリスト教だ。その中でも、中世に魔女を信じて「無実の人々」を筆舌に尽くしがたい拷問にかけたり、生きたまま焼き殺したカトリックのカルト性は高い。

 

十字架を教会に掲げたり、胸にぶら下げたりしている。しかし、、十字架は電気椅子や首吊りロープと同じ処刑道具である。某宗教団体の教祖が絞首刑となった首吊りロープをかたどったペンダントを、信者達が胸に下げている姿を想像すればよくわかる。

 

また、ワインがキリストの血であり、パンがその肉だなどというのも気味が悪い。

 

さらには、死体やその切り離された手や足などを「聖遺物」と崇めたり、いまだに「悪魔祓い」を行なっている。

 

あるいは、中世にペストが流行った時期には、贖罪のために自ら鞭打って血だらけになりながら行進する集団が出現した。

 

フランスはカトリック教国であるが、この作品もカトリック(キリスト教)のカルト性を理解しないとわかりにくい部分がある。

カルト宗教としてのキリスト教の「死後の世界観」に鋭く切り込んだという意味では、傑作だ。

 

だが、血まみれの残虐なシーンが苦手な人々は、その「世界観」に触れる前に腰が引けてしまうかもしれない。

 

https://eiga.com/movie/54486/