中学受験漫画の金字塔『二月の勝者−絶対合格の教室−』(小学館)のコミック最終巻となる第21集が、本日発売になります。そこで今日は、過熱する中学受験に『二月の勝者』という作品が投げかけたメッセージは何だったのかをお話ししてみたいと思います。

 

今日は最新巻の発売日なので、最新巻に関するネタバレはしませんが、第20集まででわかっていることと、第21集の見どころについてお話ししたいと思います。

 

『二月の勝者』は一般には中学受験漫画と呼ばれています。小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」で2017年から2024年まで連載され、2021年にはドラマ化もされています。

 

連載は、主人公の中学受験塾講師・黒木蔵人が、「カン違いも甚だしい。君達が合格できたのは、父親の『経済力』 そして、母親の『狂気』」と、生徒たちに言う場面から始まりました。

 

そもそもタイトルからして「勝者」とか「絶対合格の教室」などという刺激的な言葉を冠していて、いかにも「勝ち組」を育てるためのスパルタ教育の話なのかと思いました。

 

でも実際に作品を読んでみると、「あれ、思ったのと違う!」ってことに気づきました。露悪的に見える主人公なのですが、そのきつい言葉の奥に、そして子どもたちを見るまなざしの奥に、優しさや、悲しさみたいなものが感じられるんです。

 

黒木は表向き、桜花ゼミナールという中学受験塾の吉祥寺校の校長という役職です。しかし彼には実は裏の姿があることを、もう一人の主人公である新米塾講師の佐倉麻衣は探り当てます。

 

裏の姿。黒木は「スターフィッシュ」という塾の主宰者でもあるのです。「スターフィッシュ」は、塾とはいっても、無料塾です。

 

この番組のこのコーナーでも無料塾については何度か説明したことがありますよね。家庭の事情で塾に通えない子どもたちに勉強を教えるボランティア活動です。

 

黒木は、中学受験塾で富裕層のご家庭から安くはない月謝をとってエリート教育をしながら、無料塾で子どもたちに勉強を教える活動も、自腹を切ってやっているわけです。この構造から、なんとなく作品のメッセージが、見えてきませんか?

 

ネタバレぎりぎりのラインでお話しすると、第21集では、黒木のいわばエリート教育が、無料塾での教育と、ある一本の糸でつながります。そのほか漫画には、不登校も教育虐待も中受離婚(?)も描かれます。中学受験は通過点でしかないということが、壮大なスケールで描かれます。

 

要するに『二月の勝者』とは、中学受験漫画とは呼ばれますが、決して中学受験の中だけの話をしているのではなく、中学受験塾という特殊な場所から、教育問題全体を、そして社会の課題の全体を見渡して、「それでいいの?」と問うている作品なのです。

 

私も中学受験に関する本をたくさん書いていますが、まったく同じ視点から中学受験を描いています。それで作者の高瀬さんとは意気投合して、『「二月の笑者」になるために』という共著書が本日コミック最終巻と同時に発売されます。

 

「笑者」には、「勝つ」ではなく「笑う」という漢字を使っています。「誰が勝つか負けるか」ではなく、「誰もが笑える社会にしていこうよ」というメッセージを込めています。これが私と高瀬さんの共通の思いです。

 

「うちの子は中学受験しないから関係ないわ」ではなく、いまの社会に疑問を感じる多くのひとに読んでいただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※2024年7月11日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。