6月7日に『男子校の性教育2.0』(中公新書ラクレ)という本が刊行されました。いまや全国に約2%しか存在していない男子校で行われている性教育やジェンダー教育の実態について取材したものです。

 

専門家の外部講師を招いて性教育講座をイベント的に開催するケースもあれば、保健体育はもちろん家庭科や社会科や国語などの教科教育のなかで性やジェンダーについて考える授業を行う場合もあれば、女子大や女子校とのコラボで女性の生理やジェンダーについて考える取り組みもありました。

 

具体的な取り組みについては書籍をご覧いただきたいのですが、今回は、その取材過程で聞いた興味深い話をお伝えしたいと思います。

 

ある男子校の先生が教えてくれたことです。あるクラスで、授業が荒れることが頻発しました。そこでその先生が、どんな授業で荒れやすいのかを分析してみると、女性の非常勤講師の先生の授業で荒れやすい傾向があることがわかったそうです。

 

もちろんその先生たちの授業が下手だとか指導力がないとかいう問題ではありません。

 

その傾向に気づいた男性の先生は、生徒たちの前でその分析結果を話しました。生徒たちはみんな「あっ!」というリアクションをしたそうです。生徒たちは無意識のうちに、女性でしかも非常勤講師という立場の先生に対して、いわゆるなめた態度をしていたわけです。

 

これは実はいろんな学校で聞く話です。それこそ非常勤講師として男子校で働くある女性は、「威圧的な担任がコントロールしているクラスは弱い立場の先生の授業で荒れやすくなります。あれ、迷惑しちゃいますね」と言っていました。「あれ」っていうのは威圧的に権威主義的にクラスをコントロールしようとする担任のことです。

 

ほかの男子校の非常勤講師の男性も、高圧的な教員がいると、その半面で、立場の弱い先生の授業が荒れるという傾向を話してくれました。

 

1980年代にイギリスで書かれた『男の子は泣かない』という本では、女性教員の授業が荒れてしまったときに、強面の男性教員が乗り込んできて生徒たちを一喝して秩序を保つような方法で、男性教員が女性教員を「助ける」ことで、学校の中の男尊女卑のムードがますます強化されることを報告しています。

 

男子校に限らず、共学校であっても同じだそうです。共学の場合は、女子生徒との相対的な力関係で男子が優位に立とうとしますが、男子校ではそれがでいないので、女性教員に無意識の差別が向かうのだそうです。

 

日本で書かれた論文でも、男性教員が権威主義的な態度で学校内の秩序を保とうとすればするほど、学校が男性的な社会になり、女性教員や女子生徒の地位が貶められると指摘しています。

 

男性の専任教員が、男性であることと専任教員であることの両面での特権性を振りかざして生徒たちをコントロールしようとする学校で、知らず知らずのうちに男尊女卑の態度が、男子にも女子にも刷り込まれるということです。

 

日本のジェンダーギャップ指数が146カ国中118位だということが発表されました。昨年発表では125位でしたから少しはランクが上がったのですが、まだまだな状況です。

 

日本の高校の約92%はすでに共学校になっていますが、それでもなかなか男女平等が実現されない背景には、学校という組織がもつ権威主義的なムードが影響しているのかもしれません。

 

拙著『男子校の性教育2.0』は、「男子校×性教育」という視点から、すべての学校を視野に入れて書かれた本ですので、ぜひご覧ください。

 
 

※2024年6月13日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。