3月19日、政府はいわゆる「日本版DBS」創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法案」を閣議決定し国会に提出しました。今後、国会での審議が始まります。

 

簡単に言うと、性犯罪歴があるひとが子どもと関わる業務に就かないようにすることで子どもを性暴力被害から守る目的の法律案です。

 

塾、保育所、学校、ベビーシッターマッチングサービスなどで児童への性暴力が頻繁に発生しており、性犯罪に関しては再犯率も高いことが知られています。

 

学校や塾などの事業者が、こども家庭庁に申請することで、就業希望者や従業員の性犯罪歴を照会できるようになります。犯罪歴のデータベースをもっていて、事業所の要請を受けて照会する機関をイギリスではDisclosure and Barring Serviceというので、日本版DBSと呼ばれています。

 

小中高の学校、認定保育所、認定幼稚園、児童養護施設、児童相談所など、行政に監督・認可などの権限がある事業者に関しては、確認が義務化されます。

 

学習塾、スポーツクラブ、認可外保育施設、放課後児童クラブなどの民間事業については任意で取り組めるようにして、確認している事業者をこども家庭庁が「認定」します。

 

認定を受けた事業者はその旨を広告で示すことが許されます。今後はそのような事業者を選ぶ際の一つの目安になっていくでしょう。いちど認定されると確認が義務化されます。

 

照会の対象となる犯罪は、不同意わいせつ罪などの刑法犯のほか、痴漢や盗撮などの条例違反も含まれます。

 

性犯罪歴があった場合、職業選択の自由との整合性の問題から、就労自体は禁じられないものの、事業者の判断で採用を制限することができます。

 

すでに就労している従業員に関しては、子どもに接することのない業務に配置転換するなどの処置が必要になり、それが難しい場合には解雇も許容されるとの考え方が示されています。

 

どこまで遡って犯罪歴を照会するのか。今回の案では、刑の執行終了後、拘禁刑なら20年、罰金刑以下で10年とする方針です。性犯罪の再犯の9割以上がこの期間に含まれているからという理由ですが、もっと長期間にすべきという意見も与党内にあり、施行後の見直しで今後延長される可能性もあります。

 

一方で、犯罪歴は極めてプライバシー性の高い問題です。不正に照会したり、情報漏洩したりした場合の、事業者に対する罰則規定もあります。管理者以外の従業員が照会を申請したり、事業者と偽って照会したりすることも防ぎます。

 

照会する際には、照会される本人の戸籍証明書を提出することが必要で、事業者が勝手に情報を取得できないようにしています。仮に犯罪歴がある場合は、事業者への交付前に本人に事前通告します。内定を辞退したときには事業者側に結果は伝えません。

 

ただしこれでは初犯は防げません。そこで、被害の疑いがある場合には事業所に調査を課し、「おそれがある」場合には配置転換などの雇用の制限が可能になるしくみも盛り込んでいます。ここについては雇用者による制度悪用をどう防ぐのかが今後議論されそうです。

 

また、家庭教師やベビーシッターなどの個人事業主の場合には制度から漏れてしまうことも今後の課題です。

 

完璧ではないにしてもまずはしくみをつくって、子どもを守ることを第一に据えつつ、一方で職業選択の自由にも配慮しながら、改善していくことになるでしょう。