受験生がいる親御さんに質問です。

「夫婦関係を犠牲にしたら第一志望に合格させてやると悪魔に取り引きをもちかけられたら、どうしますか?」

 

これ、実は、本日発売の新刊『中受離婚 夫婦を襲う中学受験クライシス』(集英社)という本の帯の文言なんです。

 

「中受」というのは中学受験のことです。もともとは塾業界で、高校受験事業と中学受験事業を区別するときに使われる業界用語だったのですが、最近では一般のひとでも使うことが増えたようです。ちょっとスレたニュアンスがあって、私自身はあんまり使わないんですけど、今回はスレたニュアンスを出したくて、書籍のタイトルにしています。

 

で、中受離婚というのは、ご想像の通り、子どもの中学受験を何らかのきっかけにして夫婦関係が破綻することを意味しています。この本では、3組の夫婦関係が破綻していく様子をセミ・フィクションの物語形式で描いています。

 

1話目は夫の立場から。2話目は妻の立場から。3話目はなんと子どもの立場から、中受離婚を描いています。

 

中学受験に限らず、子どもの受験というのは、家族にとっての大きなイベントであり、そこで価値観のズレみたいなものが露呈しちゃうことは多いと思うんですよね。

 

子どもの受験って、親の未熟な部分をあぶり出すんです。学歴なんて関係ない、偏差値なんて関係ないと口では言っていた親が、実際には模試の結果に一喜一憂し、場合によっては子どもに暴言を吐くようになるし、わが子よりできる子をもつ親を妬んだり、他人の不合格を心の底で笑ったりもする。自分にこんな一面があったのかと自分自身が驚く。未熟な部分が夫婦関係において露呈すると、中学受験クライシスに陥る。

 

でもこの本では、それを悪いことだとは断じていません。むしろこれは成長のチャンスだよと。自分たちの未熟なところをお互いに認めて、それぞれに改善を重ねることができれば、夫婦の絆はむしろ強まります。

 

仮に中学受験クライシスをだましだまし回避しても、長い人生の中では夫婦関係を揺るがすクライシスはいくらでも襲ってきていずれ破綻する。思春期クライシス、更年期クライシス、転職クライシス、復職クライシス、リストラクライシス、介護クライシス……そういうものの一種として中学受験クライシスもあります。

 

中学受験のせいで夫婦関係が危機に陥ったと考えるのではなく、中学受験のおかげで、夫婦として克服すべき課題が明確になったと考えるべきだと思います。受験生がテストを受けて、克服すべき弱点を発見するのと同じです。

 

夫婦の価値観の違いが露呈したときに、大切な構えを1つだけお伝えしておくと、どちらのアプローチが正しいかを争う綱引きを始めてしまうか、子どもに対して複数のアプローチをもっているチームであると思えるかが、夫婦のあり方を大きく左右するってことです。

 

それでもなお、パートナーでいる意味が見出せないなら、発展的解消という意味での離婚も、大切な選択肢だと考えてみてください。

 

何を言い出すんだ! おおたは離婚を推奨するのか! と怒られそうですが、離婚は悪であり極力避けるべきという思い込みに縛られていると、不本意な気分で人生をすごし続けることになりかねないわけです。

 

でも、いざとなったら離婚も辞さずという前提に立ってもなお二人でいることを夫婦がともに選択するのなら、それは奇跡のような幸運なのかもしれない。そんなふうに考えてみたらいいのではないかと思います。

 

※2023年11月2日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。