岐阜県の山村地域にある私立西濃学園のリクリエーションルーム

 

 

「不登校特例校」って言葉を聞いたことがありますか?

 

正式名は「不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」なんですけど、不登校を経験した子どもや不登校傾向の子どもでも学びやすくカリキュラム編成されている学校のことです。

 

要するに、学習指導要領をある程度無視してゆるいカリキュラム編成にしている学校ということです。いわゆるフリースクールとは違って、文科省が認める正式な学校です。

 

具体的には、年間の総授業時数の二割程度の低減や、習熟度別クラス編成や異学年クラス編成、一人一人の学習レベルやスピードに応じた個別学習時間の設定、総合的な探究の時間の増加、学校設定科目としてソーシャルスキルトレーニング、コミュニケーションタイムなどを行っている例があります。

 

いわゆる合理的配慮(障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。以上、障害者の権利に関する条約より)を手厚くしている例もあります。

 

学習指導要領を始めとするさまざまなルールでがんじがらめにされた学校には通えなくても、カリキュラムをちょっと緩めてもらったり、ちょっと合理的配慮をしてくれたりするだけで、毎日学校に通えるようになる子どもたちはたくさんいるんです。要するに学びのバリアフリーです。それなら、全国の学校を不登校特例校しちゃえばいいじゃないかと私なんかは思ってしまいます。

 

ただそこで気になるのは「不登校特例校」という名称だったんです。不登校の子が毎日通う学校という時点で語義矛盾です。実際に通っている子どもたちの前で語るにふさわしい名称ではありません。

 

そこで、このたび文科省は、不登校特例校の名称を「学びの多様化学校」に変えることを発表しました。一人一人の子どものペースを大事にされ、多様な学びが保障される学校のあり方を表現した名称にしたという意図です。現在全国に24校ありますが、将来的には300校設置を目指すということです。

https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2023/20230831.html

 

 

私が書いた『不登校でも学べる』(集英社新書)という本でも、「不登校特例校」という名称は不適切では?と問題提起していました。本の中で私は「多様な子どもたちに対応するための規制緩和校」なんてどう?と提案していたのですが、当たりませんでしたねえ。

 

それはともかく、学びの多様化学校の子どもたちが元気に学校に通えるなら、ほんとに全国の学校はむしろ学びの多様化学校から、学校のあるべき姿を学ぶべきだと思います。学びの多様化学校が、不登校を経験した児童・生徒に限らない「ちょっとゆるいだけの学校」として全国に広まっていけば、日本の学校の常識が覆るはずです。これ、不登校が減るだけじゃない教育変革をもたらす可能性があると私は思っています。

 

もし学びの多様化学校が日本の学校のスタンダードになっていけば、学習指導要領や検定教科書が有名無実化していきます。学習指導要領や検定教科書の運用が緩まれば何が起こるか。入試制度が変わります。みんなが同じように同じことを学んだ前提が崩れれば、画一的な一問一答形式の出題がしにくくなります。際限なく高得点を争うような試験が意味をもたなくなります。

 

学びの多様化学校には実は、そんな社会的役割もあるのではないかと期待しています。