ビーンズの外観(著者撮影)

 

東京都心の飯田橋に、不登校経験者や勉強になかなか気持ちが向かない子どもたち向けの個別指導塾があります。名前をビーンズといいます。

 

そういう状態のお子さんを相手にしているわけですから、塾といってもいきなり無理矢理勉強させたりはしません。むしろ、勉強に向かう以前の土台づくりにじっくりと時間をかけます。ビーンズでは、その方法を「ビーンズメソッド」と呼んでいます。

 

ビーンズの講師になるためにはいい大学を出ているとか、教科指導がうまいとかだけでなくて、このビーンズメソッドをしっかりと理解して実践できるようにならなきゃいけないわけですが、そのテキストはなんと50万字にもおよびます。書籍5冊分です。いわば「ガラスの十代のトリセツ」です。

 

ビーンズメソッドは、学校に行きたくない状態の子どもだけでなく、たとえば中学受験勉強にやる気が起きなくてそんな自分をごまかすためについYouTubeやゲームの世界に逃げてしまいがちな子どもへの対応にも応用できるなと私は感じましたので、今回はここでその基礎概念を3つ説明したいと思います。

 

まず1つめ。ビーンズでは、なんだかんだで楽しく生きていけることを「自立」と呼んでいます。

 

自立さえしていれば、世間の荒波に飲み込まれそうになっても踏ん張れるし、何かに挑戦する意欲も湧いてくるとのことです。自立する前に荒波を経験させたり、無理矢理何かに挑戦させたりするからおかしくなるのです。

 

そして、2つめ。ビーンズメソッドによれば、そもそも子どもには二つの根源的欲求があります。「ありのまま欲求」と「ドライブ欲求」です。

 

ありのまま欲求とは、ありのままの自分でいたい、ありのままの自分を認めてほしいという欲求です。ドライブ欲求とは、何らかの成功を目指して自分でリスクとコストを引き受けたいという欲求です。この2つの相反する欲求のバランスがうまくとれているときに「自立」できるということです。

 

たとえば、「今だらけていると将来苦労するぞ!」などと脅して、無理矢理受験勉強させれば、偏差値は上がって、志望校には合格できるかもしれません。でも、それではありのまま欲求もドライブ欲求も満たされていませんから、ぜんぜん自立できていない状態で突っ走っているようなものです。すると、受験が終わってから反動が来ます。いわゆる燃え尽き症候群になってしまうわけです。

 

最後に3つめ。子どもが自立に至るまでには、「信頼関係構築期」「安定期」「挑戦期」「ゆるやか旅立ち期」という4つの時期を経る必要があるとビーンズではとらえています。

 

特に安定期からゆるやか旅立ち期までは行ったり来たりをくり返します。いま子どもがどの状態にあるのかを見極めながら関わり方を調整する必要があります。

 

ここで詳細は割愛しますが、大事なのはここです。挑戦期になるまでは、大人の正論を押しつけたり、新たな負荷をかけたりしてはいけないということです。そこで焦ってはいけないのです。

 

大人が正論を説いて教えて、ちょっと負荷をかけることで子どもは成長するのではないかと思うひとも多いかと思いますが、挑戦期に到達する前に焦ってそういうことをすると、成長する前にしんどくてつぶれてしまうんですね。

 

これらの考え方は不登校だけでなくて、中学受験生にもまったくそのまま言えることだと感じました。

 

今回はちょっと抽象的な話しかできませんでしたが、わが子に対して不安を募らせている親御さんたちの視野がなんとなくでも広がってくれればうれしいなと思います。

 

ビーンズメソッドについてもう少し詳しく知りたいと思う方はぜひ拙著『不登校でも学べる』(集英社新書)をご覧ください。

 

※2022年10月6日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。