私事ですが、結構失敗を引きずるタイプなんです。気持ちの切り替えが苦手なんです。自分の失敗だけじゃなくて、イヤなことがあったときなんかも結構嫌な気持ちを引きずるほうです。さっさと気持ちを切り替えて別のことに取り組んだほうがいいとは思うものの、気持ちはひっかかったままになります。

 

みなさんはどうです? こういうとき、どうします?

 

でもわりと最近こう思うようになったんです。気持ちの切り替えが苦手なのは、自分の強みなのかもしれないと。

 

教育関係の取材を続けていると、いくら知識や技能を教えてもらっても、自分でやってみて失敗してみないとそれらが本当に身につくことはないんですね。つくづく失敗って大切だなと思うんです。でもせっかく失敗しても、それをすぐに忘れちゃったら、そこから学べることも減っちゃうじゃないですか。

 

たった1回の些細な失敗でも、頭の中で何度もそのシーンをリプレイして、「なぜ俺はあそこでこんなことをしちゃったんだ!」とか「なぜあのときこんなことを言っちゃったんだ!」などと何度も後悔してその反省点を無意識にまで刷り込むことで、次に似たような状況になったときに同じパターンを回避できるようになることもあるんだと思います。

 

失敗を何度リプレイしても「次はこうすればいいんだ!」みたいな明確な答えが得られることは少ないんですけど、たぶんリプレイしながら無意識がいろんな可能性を探っていると思うんですね。

 

しかも1つの失敗だけではなくて、いくつもの失敗のリプレイを重ねることで、一見まったくべつの状況に見える失敗にも共通項があることがわかったりして、それを回避しようとする無意識の働きが、そのひとの自然な振る舞いになっていくんじゃないかという気がします。

 

大小いろんな失敗、たとえば思い出すと思わす「あっ」って小さな声を上げたくなってしまうような恥ずかしい経験とか、誰かに対して「あのときは申し訳なかったなあ」という気持ちをずっと引きずっていることとか、みなさんもあるんじゃないかと思います。それらがぜんぶ、自分の中に「問い」として、積み残されているんだと思います。「あのとき自分にはほかにどんな選択肢があったんだろう?」って。これって財産だなって、わりと最近思うようになりました。

 

この変化は、40代半ばからお酒を控えるようになったことが大きいかもしれません。昔は感情の起伏があると、ついお酒を飲んでしまって、思考を停止しちゃっていたんでしょうね。でもお酒を飲まなくなると、じっくり後悔する時間がとれるんです。

 

いまはまた、ぼちぼちお酒を飲むようになったんですけど、昔みたいに「後悔するような飲み方」はしません。少量を一口一口味わって飲むようになりました。

 

ちょっと前までは、いつまでも過去にとらわれている自分は、自分の中のダメな部分だと思っていました。でも過去の苦々しい経験をいつまでも抱えていることができて、それを自分の糧にできているって、実はすごいことなんじゃないかと思うようになりました。その糧がいまの自分をつくり、それが味わいになっていったらもっと素敵だなと思います。

 

車が行き交う道路の真ん中で立ち止まって後悔していたら危ないですけれど、ふと一人になれる時間なんかに、しみじみと後悔を噛みしめてみるのも、人生の味わい方のひとつなんじゃないかと、50を目前にして思います。

 

※2022年4月21日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。