師走。受験シーズン本番。志望校はすでに決まっている受験生が多いとは思いますが、併願校選択や、入試の結果を受けての実際の進学先選びでは迷うことも多いはずです。

 

そこで今回は、高校生くらいをイメージして、人生の選択に迷ったときに気をつけるべきキーワードを3つ紹介したいと思います。

 

自分の今後について、いろいろな大人に相談することもあると思います。いろいろなひとの意見を聞いて視野を広げることはとてもいいことだと思います。

 

でもそんななかで「夢をもて」などと言ってくるようなひとにはご用心です。学校の進路指導の先生なんかには多いかもしれませんけれど。

 

なぜか。

 

子どもが夢に向かって努力をしているのを見ると大人は安心するので、ついそういうことを言いたくなります。

 

ただしそれは子どもの立場に立ってのアドバイスではなく、彼ら自身が安心したいために言っているだけである場合がほとんどです。

 

もちろん本人はまったくそんなこと自覚していないで、本当に良かれと思ってアドバイスしてくれているわけですが。

 

そういう大人に煽られても、自分の夢を無理やり「ねつ造」してはいけません。そんなことをしているとますます自分がわからなくなってしまいます。

 

ここでイギリスの作家アンドリュー・ノリスの『マイク』という小説をちょっとだけ紹介したいと思います。ネタバレを含みます。

 

小さいころからテニスの英才教育を受けた15歳のフロイドは、試合に勝つたびに大好きな熱帯魚を買ってもらう、魚好きな少年でもあった。将来はウインブルドン出場間違いなしと思われていたのに、突然テニスをやめて、熱帯魚屋さんの店員になる選択をするというお話です。

 

悩んだフロイドは、精神科医のピンナー先生の心理カウンセリングを受けます。「どうしたらいいかわからない」というフロイドに、ピンナー先生は「君の年齢なら、たいていは自分が何をしたいのかなんて分かってないよ」と言います。

 

これがまっとうな大人の返答であることは覚えておいたほうがいいでしょう。

 

次に用心が必要なのは「あなたのため」。これはあなたのことを親身になって思ってくれるひとたちがつい口にしてしまう悪気のない言葉です。まさに、親子で意見が分かれたときの、親の常套句でもあります。

 

でもこのセリフが口を突いて出てきたときにはすでに、親のエゴが暴走を始めている可能性があります。子どものためだと思いながら、実は自分の不安や焦りをあなたに投影しているのです。

 

そんなときには、心配してくれる気持ちは受け止めながら、しっかりと自分の意思を伝えましょう。時間はかかるかもしれませんが、多くの親はわかってくれるはずです。

 

さて、最も気をつけなければいけないのは、自分の中の「悪魔のささやき」です。

 

『マイク』という小説のタイトルは、フロイドの前に時々現れる、しかしフロイドにしか見えない青年の名前です。ネタバレですが、彼はフロイドの中にいるもう一人の自分です。

 

マイクの声を聞いてフロイドは決断するのです。

 

誰の中にもマイクはいると私は思います。でも特に若いころは、偽物のマイクも現れます。本物のマイクと偽物のマイクを見分けられなければいけません。これは人生においてとても大きな課題です。

 

どうしたら見分けられるのか。

 

これは小説には書いていなくて、あくまでも私の考えですが、できるだけ若いうちに、「これはマイクの声だ!」と思えるものには従ってみることです。

 

最初のうちは失敗の連続でしょう。それは、本当のマイクの声ではなかったのです。でも失敗をくり返すうちに成功の打率が上がってくる。そうやって本当のマイクの声を聞き分けられるようになっていくしかないのではないでしょうか。

 

若いうちにたくさん失敗の経験を積んでおけば、大人になってから、「悪魔のささやき」にだまされることが少なくなるはずです。

 

要するに大人たちは、「失敗しそうだな」とわかっていても、「もっとしっかりした夢をもて」とか「あなたのため」とか言いたくなる気持ちを抑えて、失敗してそこから子ども自身が学ぶのを見守るしかないということです。

 

※日本語版の『マイク』(小学館)に寄せた「解説」が、こちらから読めます。

※2021年12月2日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。