拙著『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)より

 

茨城県の公立高校では最近大きな改革がありました。2020年度から2022年度にかけての3年間で、一気に10校の県立高校を中高一貫校化することになっているんです。

 

その中には水戸第一土浦第一も含まれており、両校ともすでに中高一貫校化しています。水戸第一は旧制一中(戦前のトップ校)の流れを汲む名門校。土浦第一は近年では東大合格者数で水戸第一のお株を奪う県内トップ進学校。東京都でいえば、日比谷と西が中高一貫校化するようなもの。

 

そのほかの8校も各地域のトップ進学校であり、県内の教育熱心な家庭に与えるインパクトは甚大です。公立名門高校に進めばいいやと思っていたご家庭でも、「あら、うちも中学受験しなきゃ!」ということになっています。

 

なぜこのような決断をしたのか。県の教育委員会によれば「すでに設置している中高一貫教育校3校では探究活動など6年間の計画的・継続的な特色ある取組を行っており、学業だけでなく課題解決能力の育成などにおいても優れた実績を出しています」とのこと。

 

一方、東京都にはこれまで10校の都立中高一貫校があったのですが、そのうち5校は高校からの入学も可能でした。しかし2023年度までにすべての都立中高一貫校を完全中高一貫校化することを決めました。高校から入れなくなるということです。

 

判断の根拠になったのが、2018年に東京都が発表した「都立中高一貫教育校検証委員会報告書」です。

 

報告書には「内進生(中学からの入学者)」と「外進生(高校からの入学者)」の進学実績を比較したグラフも掲載されています。難関国立大学への内進生の進学実績では、日比谷や西など都立進学指導重点校七校とほぼ同等の進学実績を出していることがわかります。実際には、同じ都立中高一貫校であっても中学校からの入学と高校からの入学では入試の難易度に違いがあることも決して無視はできませんが、違いは大学進学実績だけではありません。

 

報告書には「併設型高校(高校からも入学枠がある中高一貫校)における各種大会・コンクール等での実績について、過去3年間の全国大会以上の出場・受賞実績を見ると、文化・スポーツの双方で実績が挙げられているが、 個人での出場・受賞実績は概ね内進生によるものとなっている。内進生については、高校受験のないゆとりを生かして、趣味や部活動など、自分の興味や関心があることに取り組めていることが結果に結び付いているものと考えられる」とあります。

 

茨城県や東京都の公立中高一貫校が、進学実績を向上させるだけでなく、多方面で個性的な学校文化を花咲かせるとしたら、この動きは他県でも続くかもしれない。

 

2000年代から公立中高一貫校が全国にできていますが、実はこれももともとはいわゆる「ゆとり教育」の一環として始まったものでした。「ゆとり教育」そのものは方向転換を余儀なくされたわけですが、そのなかでも生き残ったのが公立中高一貫校だったわけです。

 

いわば、「ゆとり教育」を受けるために各地で中学受験が盛んになっているという、一見するとおかしな状況になっているということです。

 

世界的に見ても高校受験という制度がある国や地域は、少なくとも先進国の中では非常に稀です。その意味で中高一貫教育が一般的になることには大きな恩恵があるのではないかと私は考えていますが、昨今の中学受験の過熱状況にうかつに巻き込まれることには注意が必要です。

 

いまテレビでは「二月の勝者」という中学受験ドラマが話題になっていますが、拙著『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)も昨今の過熱気味の中学受験の状況に冷や水を浴びせるような内容になっていますので、お読みいただけると、地に足のついた中学受験ができるのではないかと思います。

 

※2021年11月18日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。