報ステのCMには、女性蔑視という意味でアウトの部分(最後のテロップ)と、表現が雑で皮肉の文脈が伝わらなかった部分(時代遅れ云々)とがある。一方で、ステレオタイプを打ち壊したいという制作側の意図も見えた。

 

CMのなかでは「産休明けの先輩」が女性であるか男性であるかは明示していない。それを女性だと決め付けてCMを見たのであれば、それこそステレオタイプ的思考である。現状では産休は女性しか利用できないが、すでに男性にも産休が設定されることが打ち出されているからだ。

 

「消費税ちょっと上がったよね」という設定から、近未来のあり得る社会を描いた設定なのかなとも思うので、男性が産休を取って赤ちゃんを連れて出社したというのが裏設定なのだろうと私は思っていた。

 

女性が購入したのが化粧水であることも。いまや男性も化粧水を使う時代であり、「女だから化粧水というのはステレオタイプ!」という批判こそがステレオタイプであるという反論まで、制作者は用意していたのではないかと私は推測する。

 

しかも一時的に表面をとりつくろう化粧品やアクセサリではなく、肌そのものに潤いを与える化粧水であることにも考慮を感じる。いい化粧水を選んだ理由として「未来への投資」という意味合いのフレーズがあったと記憶している。目先の利益ではなくて将来を見据えた賢い選択をしたいよねというメッセージを込めたのだろう。

 

ジェンダー平等が現実社会ですでに達成されていると言いたいわけではないだろうし、ジェンダー平等を願うこと自体を嘲笑する意図がないことは私には伝わってきたので、「ジェンダー平等を訴えることが時代遅れとは何事だ」という批判には首をひねるが(表現が拙くて正しく伝わらなかったことに罪があるとは思う)、「こいつ、報ステ見てるな」はアウト。

 

「こいつ」という呼び方の良し悪しは置いておいたとしても、女性の知的な会話を聞いて「報ステ見てるな」と推測するということは、「普通なら女性がこんな知的な会話をできるはずがない」という前提を含んでいるからだ。制作側の意図が何であれ、これは女性蔑視の批判を免れない。

 

ところで、一部のニュースメディアに、報ステが「ジェンダー平等を訴えることが時代遅れ」というメッセージを発したかのような批判記事が掲載されていた。CMそのものの女性蔑視表現については触れられていなかった。

 

CM動画が削除されてしまったあとで、CMを見ていないひとたちがあの記事だけを読んで「そういうことか」と思ってしまったら、今回あのCMが露呈した構造的女性蔑視の問題の核心を社会的に認知してもらうことを阻害した形になり、それはそれで罪が大きいと私は思う。