1月9日に拙著『超進学校トップ10名物対決』(日経プレミアシリーズ)が発刊される。緊急事態宣言下のGo To Bookの1冊として、どうぞ。

 

東大・京大・国公立医学部の合格者数でトップの10校(開成、灘、東海、洛南、東大寺学園、甲陽学院、麻布、西大和学園、筑波大附駒場、ラ・サール)の名物授業・名物行事・名物部活など、特徴的な「素顔」を密着取材し、合格実績を支える秘密を明らかにするとともに「いい学校とはどんな学校か? 」という普遍的な問いに迫る1冊。コロナ禍で、学校説明会や文化祭、運動会の見学もままならない。中学受験を考える保護者・子どもにとっての好読み物!

 

序章では、東大、京大、国公立大医学部の合格者数ランキングを多角的に分析。超進学校トップ10は、大学通信さんの協力を得て特別に作成してもらった「東大+京大+国公立大医学部」の合計合格者数の直近5年間の平均値によるランキングをもとにしている。その上位50位までのランキングは保存版のデータだ。ここでは特別に「はじめに」を転載する。

 

 

 

 

はじめに

 

便宜上「教育ジャーナリスト」と名乗ってはいるが、実際は、先生や子どもたちの「観察者」だと自分では思っている。『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』が森や草原を舞台にそこにあるきらきらとした「命」の物語を描いたように、実のところ私は、学校を舞台にそこにあるきらきらした「命」の物語を描きたいだけなのだ。

 

さて、本書は、最難関大学合格者数ランキングで上位にある学校に実際に足を運び、進学実績以外のちょっと変わった角度から光を当て、その学校の素顔の魅力を明らかにしようという企画である(学校選別基準については42〜46ページ参照)。

 

進学校を比較検討するための学校カタログではないし、一部の秀才しか入れない学校の教育を見せびらかす意図もない。これらの学校に共通する教育姿勢を、「いい学校とはどんな学校か?」「いい教育とはどんな教育か?」を考えるきっかけにしてほしい。

 

ところで最近興味深い調査分析結果を目にした。東京都医学総合研究所とロンドン大学の共同研究によって、60年以上にわたる大規模追跡調査の結果を分析したところ、思春期の時点で抱いていた価値観が人生の終盤での幸福感に大きく影響することがわかったという(※1)。具体的には以下の示唆があった。報告書から引用する。

 

・思春期の時点で抱いていた「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識(内発的動機)が強いと、高齢期の幸福感が高まり、「金銭や安定した地位を大切にしたい」という価値意識(外発的動機)が強いと、幸福感が低くなることを明らかにしました。親の社会経済的地位や、本人の学歴によらず、この関係が認められました。

 

・若者に対して経済的な成功や安定を目指すように強調するよりも、自身の興味や好奇心をはぐくむ教育環境を作っていくことが、活力ある超高齢化社会の実現に向けて重要な対策であると示唆されます。

 

さらに、報告書には「若い頃の様々な欲求や誘惑に負けずに自分をコントロールする力(自己コントロール力)は、成人した後の経済的な成功を左右しますが、幸福感の指標である人生を振り返った時の満足感(人生満足感)とは関係しません」とも記されている。

 

ノーベル賞受賞の経済学者ジェームズ・ヘックマンの研究成果をもとにして、偏差値的な学力よりも自己抑制力などの非認知能力が重要だという言説が流行した(※2)。さらにペンシルベニア大学心理学教授のアンジェラ・ダックワースは、非認知能力のなかでも「GRIT(やり抜く力)」が、〝人生の成功〞に大きく影響すると主張し、世界的な注目を浴びた(※3)。

 

しかし先に挙げた論文では、「やり抜く力」とて、〝経済的成功〞の要因にはなるが、それ以上ではないことを示している。

 

論文の示唆するところを私なりにまとめれば、要するに、中高生のうちにせこい損得勘定を刷り込むなという話である。

 

なぜ私はここでこの論文を紹介したのか。本書に登場する学校の多くが、まるでそのことを知っていたかのような教育を行っているからだ。