他者の心を類推する能力をもつことを、心理学では、心の理論を獲得すると表現します。
さっそくちょっとした課題に挑戦してみましょう。
(1)サリーは黒い箱にお菓子を入れました。
(2)サリーは出かけました。
(3)アンが黒い箱からお菓子を取り出し、隣にあった白い箱に入れました。
(4)お菓子を食べるためにサリーが帰ってきました。
質問:サリーは、黒い箱と白い箱のどちらを開けるでしょうか?
答えは黒い箱ですよね。
でも、3〜4歳だとこの問題になかなか正解できないそうです。
4〜7歳でようやく正答率が高くなるという結果が示されています。
つまり4歳くらいまでの子どもだと、他者の視点に立つことが難しいということなんですね。
幼稚園生に、相手の立場に立って考えてみなさいといってもなかなか難しいということです。
これは「サリーとアンの課題」といわれて、心理学上とても有名な実験です。
子どもって思った以上に理解力がないんですよね。
大人だってみんな子どもの頃は同じだったはずなのに、そのことを忘れてしまいます。
でも、私が幼稚園生だったころ、箱だか何かを開けられなくて困っているときに、父から「頭を使いなさい」と言われて、本当に頭で開けようとしたことをいまでも覚えています。
それくらい子どもの認知は未熟なんだということはわかってあげておくと、親も「なんでこの子はわからないの!」なんてイライラしなくてすむでしょう。
ではもう1つ。もう一段複雑な問題に挑戦してみましょう。
(1)ジョンとメアリーは公園で遊んでいます。
(2)公園にはアイスクリームの屋台が来ていました。
(3)メアリーはアイスクリームを買おうとしたのですが、お金が足りませんでした。
(4)アイスクリーム屋さんは「ずっとこの公園にいるから、あとでお金を持ってくるといいよ」と言いました。
(5)メアリーは家に帰りました。
(6)ジョンは公園に残っていました。
(7)するとアイスクリーム屋さんが移動しようとしました。
(8)ジョンは「どこに行くの?」と聞きました。
(9)アイスクリーム屋さんは「ここではアイスが売れないので、教会の前に移動する」と言いました。
(11)ジョンはメアリーに伝えなきゃと思ってメアリーの家に向かいます。
(12)教会に移動する途中、アイスクリーム屋さんはメアリーに出会ったので、「教会にいるから、そっちに買いに来て」と伝えました。
(13)ジョンがメアリーの家に着くと、メアリーはアイスクリームを買うと言ってもう出かけたとのことでした。
質問:ジョンはメアリーを探しに行きました。ジョンはどこに向かったでしょうか。
正解は、公園ですよね。
「アイスクリーム課題」という、これも有名な実験です。
大人にしてみれば間違えようがない問題のように思います。
しかし、この類いの課題に答えられるようになるのは実は9〜10歳くらいからなのだそうです。
「Aさんは、Bさんが○○だと考えている、と思っている」ということを心理学では二次的誤信念と呼びますが、小学校3〜4年生まではこれがうまく理解できないものなのです。
だからしょっちゅうお友達関係でもトラブルを起こします。
まだ心の理論が獲得できていないことを理解したうえでトラブルに対応することが大切です。
ちなみに、推理小説が読めるようになるのもようやく小学校の中学年からということです。
その意味では名探偵コナンのアニメは、その年頃の子どもたちが誤信念に気づく訓練になっているのかもしれません。
ドリフターズのコントにもこの誤信念を利用したものが多かったような気がします。
お笑いコンビのアンジャッシュの、勘違いコントシリーズが面白いのもこの誤信念をさらに複雑なレベルで利用しているからです。
もし、さきほどアイスクリーム課題をうっかり間違えちゃったというひとは、普段からひとの話をよく聞かず、他人の気持ちを早とちりする癖があるかもしれません。SNSでのやりとりなんかでは特に要注意です。身に覚えのある方は、気をつけてみてください。
※2020年12月3日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。