つい先日、ユニセフが、『レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(原題:Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)』というレポートを発表しました。これは、毎年切り口を変えて世界各国の子どもが置かれた状況を分析するレポートで、20年の歴史があります。

 

その結果、日本はなんと世界2位!

 

といっても下から2位です。子どもの精神的幸福度という項目において、調査対象国38カ国中下から2位だったということで、結構衝撃が走っています。実際そうなんだろうなと思うので、社会として少しでも対策を講じるべきだと強く思うのですが、一方で、このデータは実は今回新たに判明した新事実みたいなものではないということは押さえておかなきゃいけないなと思います。

 

今回、何を指標にして子どもの精神的幸福度を数値化したかというと、実は2018年のPISA(国際学習到達度調査)の生徒調査票の中にあった、「あなたがあなたの生活にどのくらい満足しているか」を0〜10の数字で聞くという質問の結果と、15〜19歳の若者の自殺率の2つの指標だけです。

 

それぞれの指標を偏差値に置き換えて、2つの偏差値の平均でランキングしただけです。子どもたちの置かれる現状分析は大変重要ですが、今回のこのランキングはありもののデータを活用して、簡易に計算した分析結果でしかありませんから、下から2番目などというランキングそのものにはあまり意味はないのではないかというのが私の率直な感想です。

 

15〜19歳の自殺率のデータによると、日本では10万人当たり7.5人が自殺しています。これは調査対象国41カ国中30位です。全体平均では6.5人です。

 

 

生活への満足度のデータでは、33カ国中32位と下から2番目でした。先述のようにこれは2018年のPISAのデータの流用なのですが、「あなたの生活にどのくらい満足しているか」という質問に対して0〜10の11段階のうち5以上を付けた子どもの割合です。

 

 

PISAの調査は15歳を対象に行われます。日本では高1が対象です。で、これはPISAのデータを見るときに私がいつも言うことなのですが、忘れてはいけないのは、世界中を見たって極めて珍しい高校受験という過酷な競争を終えたばかりの子どもたちが調査の対象になっているということです。

 

学力的には高くなっていて当然ですし、精神的には疲弊していて当然です。もっと丁寧に言うと、希望の高校に在籍できた子どもは現状に高い満足度を示すでしょうし、望んだ結果が得られなかった子どもたちが低い満足度を示していてもおかしくはありません。そんな状況もこの数字には反映されてしまっているだろうなということは、含めて考えておかなければいけないでしょう。

 

ちなみに今回のランキングを見て感じるのは、経済的な豊かさはあんまり関係ないんだなということです。自殺率がいちばん低いのはギリシャです。財政破綻とかいっていた国です。

 

また、「精神的幸福度」に「身体的健康」と「スキル」の項目を合わせた、総合ランキングでは、日本は38カ国中20位でした。「身体的健康」では1位です。「スキル」というのは、PISAにおいて基礎的習熟度に達している子どもの割合と、すぐに友達ができると答えた子どもの割合から算出されています。

 

 

今回のデータが現実に即していないというつもりはありません。日本の子どもたちの自己肯定感が低いというデータも有名ですし。でもまあ、もともとわかっていたデータを流用しているだけですし、今回改めてそんなにショックを受けるようなことでもないのかなと思います。ランキングにするほどのものなのかなあとも思いますが、ランキングにするからこれだけ話題になるのですけどね。

 

むしろ、今回、「やっぱりなぁ」なんて感想をもつひとも多いのではないかというのが、本当に悲しいところだと私は思います。原因はいくらでも考えられますが、おそらく大人の幸福度も同じくらい低いのではないでしょうか。

 

※データはすべてユニセフHP(https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html)より。

※2020年9月10日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容です。