『二月の勝者』という漫画が大ヒットしています。ご存じですか?

 

中学受験をテーマにした漫画です。週刊ビッグコミックスピリッツで連載されており、コミックは第8集まで出ていて累計65万部の大ヒットを飛ばしています。

https://bigcomicbros.net/work/6358/

 

 

7月から日テレ系でテレビドラマ化も決まっていたのですが、新型コロナウィルスの影響で撮影が延期され、放送も延期されています。主演は柳楽優弥さんと井上真央さんです。

https://www.ntv.co.jp/2gatsu/

 

 

中学受験業界のひとから「この漫画面白いですよ」と聞いたとき、私はすっかり誤解していたんです。何せ最初のシーンが「君達が合格できたのは、父親の『経済力』 そして、母親の『狂気』」というセリフで始まりますから、中学受験の闇の部分を煽るような漫画かと思ったんです。

 

そういうにべもないことを言ってまわりを凍り付かせる塾講師・黒木蔵人が主人公なのですが、漫画の中での彼の言動をよく見てみると、どうやら彼は単に冷酷な合格請負人ではないことがわかってくるんですね。

 

そして『二月の勝者』に描かれている中学受験観は、私がこれまで『中学受験という選択』(日本経済新聞出版社)や『もし中学受験で試が折れそうになったら』(KADOKAWA)や『中学受験「必笑法」』(中央公論新社)で訴えていた中学受験観にそっくりだなと感じるようになりました。

 

どういう中学受験観かというと、これは私なりの表現でしかありませんが、要するに高い偏差値をたたき出すためのサイボーグを育てるのではなくて、自分の目標に向かって努力することの大切さと、それによって得られた成長を、ひとと比べなくても自覚できるひとになろうよということなんです。子どもだけじゃなくて、子どもの中学受験を通して、むしろ親こそがひととして成長しようよというメッセージが込められているように思います。

 

実際に作者の高瀬志帆さんとも何度か直接お話しする機会がありまして、意気投合して、実はこのたびコミックの第8集の刊行に合わせて、私も『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)という本を書かせてもらいました。表紙を高瀬さんが書き下ろしてくれて、中の本文にも全ページに『二月の勝者』のコマが挿し絵として挿入されています。

 

コミック最新刊の第8集の中に、私の感覚からすると「やばいな」と思う親御さんが2人出てきます。「やばいな」というのは「こういう親が子どもに中学受験をさせると危険なんだよな」というパターンに当てはまる親です。

 

1人は黒木が勤める桜花ゼミナール吉祥寺校の成績トップである島津順くんの父親。もう1人が今川理衣沙さんの母親。2人に共通するのは、偏差値的な意味で学校のブランドを気にしていて、他人から羨望の眼差しを受けるような学校に合格しなかったら意味がないと思っていることです。

 

加えて島津くんの父親は、勉強を苦行だと思い込んでいる。だから辛くて当然なのだと、苦しさに耐えるのが受験なんだと、自分の大学受験での経験を12歳のわが子に追体験させようとします。今川さんの母親は、中学受験で“いい学校”に行けなかったら高校受験で“リベンジ”すればいいと思っている。「誰に何をリベンジするんだ?」って話です。

 

「うちの子、中学受験に向いていますか?」という親は多いのですが、それって難しい質問なんです。難関校に合格できるかという意味なのか、中学受験という機会に成長できるタイプかという意味なのか、わかりませんから。むしろ「中学受験に向いていない親」のほうがわかりやすいんです。「偏差値60以上じゃなかったら意味がない!」みたいな「ゼロか百か思考」が危険なんですね。

 

ただ実際は、わが子の中学受験という機会を通して、親自身がそういう短絡的な思考に気付いて、親として、ひととして、成長できるケースも多くあります。島津くんの父親も今川さんの母親も気づいてくれればいいなと願いながら、私は漫画を読んでいます。

 

『二月の勝者』は中学受験をテーマにしていますが、高校受験にも大学受験にも共通する大切な価値観が描かれていると思います。親として子どもの成長をどう見守ればいいのかという価値観です。中学受験関係者はもちろん、中学受験に直接関係ない立場のひとも、ちょっと立ち読みしてみたらいかがでしょうか。こちらのサイトで第1話を立ち読みできます。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73613

 

 

 

 

※2020年7月2日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。