週刊スピリッツで連載中の中学受験漫画『二月の勝者』と私（おおたとしまさ）のコラボレーション書籍『中学受験生に伝えたい勉強より大切な100の言葉』（小学館）が発売になります。すでに一部の書店には並んでいるようです。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」がコンセプト。中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しています。発売を記念して、書籍の「はじめに」をこちらに転載します。
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はじめに
週刊「ビッグコミックスピリッツ」で連載中の『二月の勝者』という中学受験漫画が面白いと教育関連企業のひとから聞いたとき、私はきっとデフォルメされた中学受験を描いたものか、あるいは極端な中学受験ノウハウを漫画化したものなのだろうと勝手に想像していました。しかし実際に読んでみると、「あれ？ これ、中学受験のすごく本質的なことが描かれている！」とびっくりしました。
漫画の中に、中学受験の現状を説明する基本情報はときどき出てきますが、いわゆる受験テクニックや合格ノウハウみたいなものはほとんど出てきません。中学受験という選択をした親子や、それに関わる主人公・新米塾講師の佐倉麻衣たちの葛藤が描かれています。
これまでの私の取材経験をもとに言わせてもらえば、中学受験をする親子には必ずそれぞれのドラマがあります。人間の成長ドラマです。子どもだけでなく、親も成長します。
形の上では、ハッピーエンドのドラマもあれば、ほろ苦いエンディングのドラマもあります。いずれにしても涙なしでは語れない壮絶なドラマです。平凡な中学受験などありません。
その意味で『二月の勝者』は、「桜花ゼミナール」という中学受験塾の教室を舞台に繰り広げられるいくつもの親子の成長ドラマを同時並行で描いた物語だといえます。登場人物にわが子や自分を重ねながら読む親御さんも多いのではないでしょうか。
そして、もう一人の主人公・カリスマ塾講師の黒木蔵人は、冷徹な合格請負人として登場します。
「君達が合格できたのは、父親の『経済力』そして、母親の『狂気』」
……などと、にべもないセリフを連発して、まわりをぎょっとさせます。
でも彼が子どもたちに向ける眼差しには何らかの「願い」を感じます。そんなに突き放したような言い方ばかりしないで、もうちょっと素直でわかりやすい温かみのある言葉を使えばいいのにとは思いますが、そこにも彼の思惑があるのでしょう。
黒木の「願い」とは何か。
コミックの第4集までを読んだところでちょっとわかった気がしました。そして強く共感しました。そこで、彼が内に秘める「願い」をともに叶えるために親としてできることは何かを、100の言葉にしてみたものが本書です。
ただし、子どものやる気を高めて合格を引き寄せるコーチングのような言葉ではありません。桜花ゼミナールにわが子を通わせる親の気持ちになって、つまり漫画の中では描かれていないもう一人の登場人物になりきって、自分のセリフとしてこれらの言葉を読んでみてください。黒木の「願い」にだんだんシンクロできるのではないかと思います。
本書では、100の言葉にそれぞれ漫画のコマを対応させています。そのものズバリのシーンである場合も、「なぜこのシーン？」と思うところもあると思います。不思議に思う場合には、ぜひ該当のシーンの前後を実際に漫画で読み返してみてください。
中学受験に取り組む親子や中学受験関係者にとっては、必ずしも漫画を読まなくても、何かしら得られるものがあると思います。本書を読むことで、漫画を読んでいないひとでも『二月の勝者』の世界観を感じることができるとも思います。もちろん、漫画とあわせて読めば相乗効果が生まれて、漫画に対しても本書に対しても、より理解が深まることでしょう。
登場人物の名誉のために、一つ付け加えておきます。本書では漫画のシーンを恣意的に切り取って挿入しています。そのシーンだけで登場人物の人格を決め付けないでください。彼らは成長の途中にあるのですから。
最後に、もう一つお願いがあります。
本書の内容を鵜吞みにせず、必ず「自分ならどうするか」を考えながら読んでください。まったく同じ主旨のお願いが漫画の中にも出てくるので引用しておきます。授業見学を申し出た佐倉に対する黒木のセリフです。
「あくまで『見たものをどう活用するか』の判断は、『自分の頭で考える』これが見学の条件です」
ましてや、本書は中学受験生本人のための自己啓発本ではありません。子どもにそのまま渡して読ませるようなことはしないでください。「願い」は、必ず自分の言葉で伝えてください。
中面はこんな感じ
