昨年6月に「世界7代教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方」という本を出しました。これからしばらくこのコーナーで、その世界7代教育法の概要を1つずつ紹介していきたいと思っています。トップバッターはモンテッソーリ教育。

 

モンテッソーリ教育は、マリア・モンテッソーリという女性が、1907年にローマの貧民街のアパートの一室で始めた教育です。モンテッソーリは、当時女性としては非常に珍しかった医師で、もともとは知的障害をもつ子を保護する施設で働いていました。そこで類い希なる観察眼で、子どもの発達についての数々の発見をしたのです。

 

モンテッソーリの最大の発見は、「子どもにはみずからを自分の力で育てていく力が備わっている」ということでした。モンテッソーリはこれを「自己教育力」と呼びました。子どもの「自己教育力」を信じることがモンテッソーリ教育の核です。要するに、大人が教えなければ子どもは育たないという教育観から、子ども自身が子どもを育てるのだという発想の転換です。

 

次にモンテッソーリは、子どもたちが自分の発達の順番に沿って、そのときどきで必要な遊びに自然に取り組むことを発見します。自分にとって必要な能力を発達させるのにちょうどいい遊びを子どもは自ら選択して、夢中になって遊ぶのです。モンテッソーリは、その時期を「敏感期」といい、夢中になって遊んでいる状態を「集中現象」と呼びました。大人からすれば「遊び」に見える活動は「自己教育力」に基づいて子どもが自らに課す課題ですから、モンテッソーリ教育ではそのような知的活動を「おしごと」と呼びます。

 

モンテッソーリ教育を行う幼稚園に行くと、子どもたちが手を伸ばせば届くところに無数の「おもちゃ」のような「教具」が、並べられています。モンテッソーリ教育の幼稚園では、「さあ、みんなでお遊戯しましょう!」という集団行動をするのではなく、子どもたちがそれぞれに好きなことをしていいことになっています(お遊戯やお歌の時間がないわけではないのですが)。そして子どもたちが自分の好きな教具で好きな活動を自分の好きなペースで行うのです。

 

それぞれの子どもが自分の敏感期に適した教具を無意識で選び、夢中になって遊ぶ集中現象の中で自分を教育しているのです。きれいに整理整頓されて並べられている無数の教具が、まるで子どもを手招きしているように、子どもを吸い寄せて、夢中にさせるのです。そのための環境設定がモンテッソーリ教育の肝だということもできます。

 

もう一つの肝が大人の関わりです。子どもが自分自身を教育するわけですから、大人があれこれ教え込んではいけません。教具の使い方がわからなければ、横でゆっくり手本を示すだけ。教室の中では危険を防ぐような最低限のルールだけを決めて、余計なことで叱らなくてすむような環境を初めから設定しておきます。余計なものは子どもの手に届くような場所に置かないとか、子どもの心がざわつくようなことをしないということです。

 

モンテッソーリは大人が子どもに関わるときのコツをたった2つのフレーズで表現しました。「ひとりでできるように手伝って」「すべての不必要な援助は、発達の障害物になる」です。そうすることで、「援助なしに行動ができる」という意味で「自由」な人間を育てるのがモンテッソーリ教育の理念です。

 

子育ての視点として参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

ちなみに、マイクロソフトのビル・ゲイツ、グーグルのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、Amazonのジェフ・ペゾスなどのイノベーターたちがそろってモンテッソーリ教育の出身であることが知られています。

 

※2020年3月26日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。