新刊『大学入試改革後の中学受験』(祥伝社新書)が11月1日から書店に並ぶ。前半で大学入試改革の現状をまとめ、後半ではその中学受験への影響をまとめている。本の内容がわかる要素を、以下に抜粋する。

 

 

 

カバーソデ

 

2020年度に大学入試改革が始まる。2024年度にはそれをさらに一歩推し進めることも予定されている。現在の小学生は全員がこの影響を受けることになる。一時は「学力観が大きく変わる」「いままでの受験勉強が通用しなくなる」「従来の有名進学校が凋落する」と騒がれたが、実際のところはどうなのか……。

 

数々の教育現場を取材してきた気鋭の教育ジャーナリストが、大学入試改革の今後とそれにともなう教育の変化を大胆予測しつつ、中学受験における志望校選びの注意点や中学入試出題傾向の変化ほか、中学受験生の親として押さえておくべき要点をズバリ指摘する。半歩先行く「中学受験情報リテラシー」が身につく決定版!

 

 

 

はじめに

 

「大学入試改革が実行されて学力観がガラッと変わる。開成や灘などの従来の進学校が凋落する。中学受験なんてしても意味がなくなる」としたり顔で言うひとたちがいたのは2015年あたりだった。一般のひとたちだけでなく、教育関係者のなかにも散見された。2つの意味で彼らは見誤っていると、当時私は感じた。

 

1つには、もし文部科学省が掲げる理念通りに改革が進むのなら、それは付け焼き刃の受験勉強では太刀打ちできない大学入試になることを意味し、むしろ6年間の時間的余裕がある中高一貫校にますます有利になるからだ。

 

もう1つの理由は、当時の文部科学大臣が掲げる構想があまりにも大風呂敷すぎて、実現可能性は極めて低いと判断せざるを得なかったからだ。つまり、実質的に何も変わらない可能性が高い。

 

いずれにしても、中学受験という選択に追い風が吹くことこそあれど、向かい風が吹くことはないだろうと推測した。そしてそれは正しかった。

 

逆に意外なことが起きた。中学入試改革が、大学入試改革を追い越してしまったのだ。時代の変化に敏感な私立中学校がそれぞれに入試を進化させ、大学入試改革の理念を一部ですでに実現しているのである。

 

これから中学受験を志す親子に、大学入試改革の現状とこれからの展望を正確に把握してもらうことが本書の目的の1つだ。もう1つの目的は、中学入試にいま起きている変化を踏まえ、中学受験の近未来予測をすることだ。

 

第1章・第2章は大学入試改革、第3章は時代を反映した志望校選び、第4章は中学入試の出題傾向に起きている大きな変化、第5章はこれからの中学受験を読み解く上で必要な情報リテラシー、第6章はこれから中学受験勉強に起こり得る変化について述べる。

 

多くの読者がご存じのように、大学入試改革はいま迷走の最中にある。無理もない。「正解のない時代にどんな大学入試を設計するのが正解か」という「正解主義」と、悪いところにばかり注目してそこを矯正しようとする「減点主義」という、この国の教育の悪い面を前面に押し出したような発想でこの大学入試改革が議論されてきたこと自体がもはやブラックジョークなのである。

 

中学受験を志す親子が、省庁によるプロパガンダや一部メディアのミスリード、塾・予備校業界の宣伝文句に惑わされることなく、いま教育に起きている変化の本質を捉え、自身の価値観で道を選ぶ一助になることを願い、本書を執筆する。

 

 

 

各章より抜粋

 

第1章 2020年度大学入試改革のあらまし

2019年8月30日の日本経済新聞で「20年度はそれほど大きな改革ではない」と述べているのは、「明治以来の大改革」とうたった元文部科学大臣・下村博文氏そのひとだ。「2020年度にはそれほど大きく変わらないが、今後大きく変わっていく」というニュアンスを残した表現だが、おそらくそうはならない。

 

第2章 大学からも高校からも聞こえる不協和音

いまは「大学入学共通テスト」の話題でもちきりだが、いずれ批判の矛先は「高校生のための学びの基礎診断」にも向かうだろう。

 

第3章 中学受験の志望校選びへの影響

つまり、いま「大学入試改革への対応は万全です」という学校はむしろ危うい。大学入試制度が変わること自体は事実なので、生徒たちの不安や混乱を解消するための情報収集やきめ細やかな施策は必要だと思うが、学びの内容そのものを新しい大学入試制度に過剰適応すると、学びの空洞化・形骸化を生じかねない。

 

第4章 中学入試に表れた新しい出題傾向

大学入試を変えることで高校以下の教育を変えるというのが大学入試改革の目論見だ。しかしなんのことはない。中学入試においては大学入試の思惑をはるかに超える速さで、時代の変化に対応しているのである。

 

第5章 いま親に必要な「中学受験情報リテラシー」

バブル偏差値などへの注意は必要だが、偏差値一覧を見れば、入学時点での生徒たちのおおよその学力帯は想像が付く。一方、晶文社の学校ガイドの「思考コード」分析を見れば、その学校の生徒たちの伸びしろがわかるのではないかというのが現時点での私の仮説だ。

 

第6章 中学受験勉強の新しいカタチ

だから、励ます意味を込めて言いたい。どんな学校に進むことになろうとも、いま、中学受験勉強をしていることは、何よりもの大学入試改革対策であり、それどころか、社会人基礎力にもなるのだと。

 

 

 

おわりに

 

教育について書いたり話したりすることが多いが、私は教育学の研究者でもないし、教育の実践者でもない。どうやったら子どもの偏差値を上げられるかということはまったくわからないし、興味がない。

 

その代わりに、教育熱心な親御さんたちが気になることを細かく取材して調べる「虫の目」と、専門分野がないからこそ広い分野にまたがって全体を見渡す「鳥の目」と、学校や企業という組織のなかで守られていない立場だからこそ潮目の変化を敏感にとらえられる「魚の目」を駆使して、いま教育に何が起きているのかを描き出し、そのなかで「これだけは押さえておいたほうがいい」というポイントを指し示すことが、私の役割だと思っている。

 

その意味において、これから中学受験の道を行く家庭の親御さんが荒野を見わたすための地図となり、同時にぶれない軸を見つけるためのコンパスとなることを願って本書を著した。

 

(中略)

 

おかげさまで中学受験をテーマにした講演会に登壇することも多い。親御さんたちの熱心さには毎回圧倒される。ただし、私の話を聞いても直接的にお子さんの偏差値が上がるようなことはないのでその点はご了承いただきたい。その代わりに私が伝えたいことは、畢竟するにこの一点。

 

たかが中学受験で人生が決まるわけがない。

 

教育における選択では、「何を選択したか」よりも「なぜそれを選択するのかを説明できること」、そして「選択したあとにそれを良い選択にする努力を怠らないこと」が大事である。