どんな内容なのだろうと、恐る恐るページを開いた。盟友常見陽平が「イクメンなんて言葉は嫌いだ」「育児だって労働だ」と連呼していたことは前々から知っている。でもそれは育児・家事の当事者であれば誰でも感じているであろう違和感であるし、「オレはこれだけやってるぜ」アピールてんこ盛りだったらどうしようという不安もあった。実際彼は相当な家事・育児をしているのだが。

 

彼の妻は、外資系IT企業でフルタイムで働く。そこで大学教員としてわりと時間に融通が利きやすい彼が、保育園の送り迎えや炊事などの家事を担当する。地方出張の際には数日分の食事を冷蔵庫に用意しておくという周到さだ。週末は妻の自由時間を確保するため、娘と二人きりであちこちに出向く。アグネス・チャンよろしく、テレビ局に娘を連れて行き、共演してしまうということも。

 

「男性だから」「女性だから」という性的役割分担にもとらわれていない。意識高い系(笑)のように肩肘を張っているわけでもない。現在の社会状況でおよそ考えられる理想的な子育てライフスタイルを体現している。どのような考えからそのようなライフスタイルにたどりついたのかが丁寧に書かれている。「合理的に考えたら自然にこうなるはずだよね」というお手本だ。

 

本書においては、彼の左翼アジテータ的なキャラは出てこない。普段の彼よりも自制的に自分を語っている。「これが父になるということか」と感心してしまう。しかし、社会常識に囚われない彼の素直な生き方が、結果的にそして対照的に、現在の社会の不合理を見事にあぶり出している。「そうそう、そうだよね。なのに現実はどうしてそうなっていないんだ?」という疑問が多数浮かぶ。

 

私が拙著『父親たちの葛藤』で訴えた問題意識とほぼ重なる。「モヤモヤ≒葛藤」。タイトルのメッセージも似ている。それを彼は今回、自然体な一人称のかたちで見事に描いた。その視点は世の「ワーキングマザー」とほぼ一致するはずだ。その意味で、まずワーキングマザーにこの本をおすすめしたい。普段自分が感じている「モヤモヤ」を言語化してもらい、スカッとするはずだ。

 

次にもちろん父親である。常見さんのレベルは世のいわゆる「イクメン」の数段上を行っているが、そこを自分と比較してもしょうがない。常見さんも「自分と同じようにやる必要なんてない」と訴えている。「いましかできないことをできるだけ一生懸命やってみよう。そこで失われるものがあったとしてもあとからいくらでもとりかえしのつくものだ」というメッセージが伝わってくる。

 

そして本来いちばんこの本を読むべきは、将来父親になりたいと思っているすべての男性だ。この本には常見さんが「無精子症」と診断されることなども含め、父親になっていく過程が赤裸々に詳細に描かれている。日本の男性の家事・育児時間や、保活についての情報なども、生のまま描かれている。どこにどんな落とし穴があるのかを、丁寧に教えてくれる。ノウハウではないのだが役に立つ。

 

みんなが常見さんのようにできるわけではない。でも、この本で訴える常見さんの視野や問題意識が世の常識となれば、間違いなく社会は変わる。たびたび沸き起こる「男性vs女性」の炎上劇なども影を潜めることだろう。あ、そうそう。常見さんファンは、子育て中でなくても必読! メディアに出ているときとは違う、常見さんの素のキャラクターがいちばんよく表れている本でもある。