教育の現場を取材していると、幼稚園から高校までの先生たちがよくおっしゃるのが、「子供はぼーっとしている時間に成長するのに、いまの子供たちは忙しすぎてぼーっとする時間がない」ということです。

 

ぼーっとする時間が大切だということはちょっと理屈で考えればわかります。

 

ひまなときにこそ、子供は自分の時間をどう使おうか考えます。そこで自発性や主体性が芽生えます。自分が、何を好きで、何をしているときが幸せで、何を欲しているのかを感じ、自分自身を知る時間でもあります。

 

それが「人生の羅針盤」になります。

 

常に予定を埋められてぼーっとする時間を奪われると、「人生の羅針盤」を使いこなせないひとになってしまいます。主体性なく、なんとなく世間的に良いといわれる方向性を向いて生きるしかなくなります。

 

そんな状態で、いくら高学歴を得ても、英語やプログラミングができても、何の意味があるのかという話です。

 

いままでの取材経験からすると、特に心身ともに急激な成長を遂げる幼児期と思春期には、ぼーっとする時間が大切な気がします。

 

子供たちと日々接している先生たちはこのことを経験的に知っていたわけですが、どうやら脳科学でもぼーっとする時間の効能がわかってきているということを、『セルフドリブン・チャイルド』という書籍を読んで知りました。

 

1990年代の半ば、神経科学者のマーカス・レイクルは、ひとが何らかの仕事や目的に集中しているときに脳のある部分が働いていないことに気づきました。その部分に「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という名称を付けました。そしてその後の研究で、意識を集中しない休息の状態でこそDMNが活性化していることを突き止めました。

 

DMNは「内省」しているときに働くそうです。DMNが活動しているときに、ひとは過去と未来について、解決する必要がある問題について考えるそうです。何らかの問題二丁面しても、頭に健全な空間があると、DMNがほんの数分の休憩時間の間に問題を分析、比較、解決して、代替のシナリオをつくることができます。

 

DMNが効率よくオンオフを切り替えるほど、ひとは日常のできごとをうまく処理できる野だそうです。DMNをうまく使っているひとは、記憶力、思考力の柔軟性、読解力を含む認知能力の検査で好結果を出す傾向があります。精神的にも健康だということです。逆にうつ病、自閉症、ADHD、不安障害があると、DMNが効率よく機能しないのだそうです。

 

心理学者のアダム・コックスは、「50年前の子供は数時間何もすることがないと退屈になったかもしれないが、近年子供は30秒で退屈を感じるようになった」と指摘しています。

 

「無駄な時間」を嫌う癖が付いてしまったせっかちな大人が子供たちを常にせっつくから、子供たちもせっかちになり、ちょっとでも暇な時間があるとそれに耐えられず、つい手元にあるスマホやゲームをいじってしまうのかもしれません。

 

ぼーっとする時間は大人にも大切です。DMNはまばたきをする一瞬でも発動するそうです。ちょっとの時間でもいいので、意図的にぼーっとする時間を生活のなかに取り込むことで、人生の質を飛躍的に高める可能性があるようです。

 

※2019年6月20日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」で話した内容の書き起こしです。