新刊『世界7大教育法から学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』の「はじめに」を転載します。

 

 

はじめに

 

高度成長期そしてバブル崩壊後、日本社会は長く景気停滞期に入っています。産業社会から情報社会へと移行し、経済のグローバル化が進み、今後はAI(人工知能)が人間の仕事を奪うとまでいわれています。

 

先行き不透明な時代とか、正解がない時代などともいわれます。そんな時代に、子どもたちをどう育てればいいのか、親たちは途方に暮れます。行政はさかんに教育改革を訴えます。「でも、何をすればいい? どう変える?」。そのヒントを、本書では、世界の教育法に求めます。

 

モンテッソーリ教育やシュタイナー教育といった名前くらいは聞いたことがあるひとが多いのではないでしょうか。

 

将棋の藤井聡太プロはモンテッソーリ教育の幼稚園に通っていたことが知られています。海外に目を向ければ、オバマ元大統領やマイクロソフトのビル・ゲイツもモンテッソーリ教育出身です。では、モンテッソーリ教育を受ければ、みんな大物になれるのか……?

 

シュタイナー教育は、自然派のスローライフ系のライフスタイルを好むご家庭に根強い人気があります。『はてしない物語』や『モモ』の作者であるミヒャエル・エンデはシュタイナー教育の学校に通っていたことがあるそうです。直接影響を受けたかはわかりませんが、彼の作品のなかに流れる空気感は、シュタイナー教育の幼稚園や小学校に流れる空気感とそっくりです。では、シュタイナー教育を受けると、創造力が豊かになるのか……?

 

世界2大教育法と呼べるこれらの教育法を第1部にまとめました。

 

第2部では、どちらかといえば学校教育のあり方に主眼を置いた5つの教育法を紹介します。レッジョ・エミリア教育、ドルトンプラン教育、サドベリー教育、フレネ教育、イエナプラン教育の5つです。

 

教育関係者でないかぎり、名前すら聞いたことがない教育法が多いかもしれません。「モンテッソーリ」「シュタイナー」「フレネ」は創始者の名前です。「レッジョ・エミリア」「ドルトン」「サドベリー」「イエナ」は地名がもとになっています。

 

レッジョ・エミリア教育は、イタリアの小さな街から始まった幼児教育です。教育のなかにアートの要素をとりいれていることが特徴とされています。

 

ドルトンプラン教育とサドベリー教育はアメリカ発祥。幼児から小中高までの年齢層をカバーします。ドルトンプラン教育は個別に課題を進めていくことに特徴があります。サドベリー教育は、徹底的な自由と自治を追求した学校のスタイルです。

 

フレネ教育はフランスの田舎で生まれました。イエナプラン教育はドイツで生まれ、オランダで育ちました。いずれも小中高の学校で採用されており、この2つはちょっと似ています。

 

これらの7つの教育は、欧米では「オルタナティブ教育」と呼ばれます。「オルタナティブ」とは「別の選択肢」という意味です。産業革命以降世界を席巻している、工場で働かせるのに都合がいい人材を効率よく製造するための画一的教育に対するアンチテーゼです。

 

ただそれでは「代替品」のニュアンスも感じられてしまうので、より前向きな表現として「プログレッシブ教育」という呼称も使われます。日本語にすれば「進歩的教育」となるでしょうか。本書でこれらの教育法をまとめて呼称する際は、便宜上「進歩的教育」という言葉を使用することとします。

 

これらの教育の源流にはおそらく、18世紀の思想家ジャン=ジャック・ルソーがいます。ごく大雑把にいえば、思想的にはドイツの哲学者ヘーゲルやアメリカの教育思想家デューイがその系譜を受け継いでおり、これをピアジェやヴィゴツキーが心理学的な側面から補強し、「進歩的教育」は発展しました。

 

本書では、章ごとに1つの教育法について説明します。教育法のおいたちや理念、そして日本でその教育法を実践する現場のレポートを、それぞれ掲載しています。これだけのページ数でそれぞれの教育法のすべてを正確に説明できるはずもありません。本書における各教育法の説明は、私の独自の解釈を多分に含んでいます。また、取材対象は、あくまでも取材のしやすさ、描きやすさという観点からのチョイスであり、本書に掲載されている園や学校が必ずしも私のおすすめではないことはご了承ください。

 

本書には、3つの役割があると思っています。

 

1つめは、わが子を通わせる園や学校を選ぶ基準として、これらの教育法について知ることができること。2つめは、実際にこのような教育を行っている園や学校には通わせなくても、子育ての参考として、これらの教育法の視点をとりいれることができること。3つめは、社会の一員としてひとりでも多くのひとが世界の教育の多様性を知り、日本の教育を変える心の準備ができるようになること。

 

各教育法についてさらに詳しく知りたくなったかたのための参考図書も各章のおわりに掲載しています。

 

保護者、教員、その他教育関係者……、それぞれの立場から、それぞれの方法で、本書を活用してほしいと思います。