右から、トビタテ!留学japanの船橋力さん、japan timesの生澤浩さん、私 (写真:shingo sato)

 

先日、大学のアメフト部の創立50周年記念パーティに参加した。土と汗と涙まみれの4年間を過ごさせてもらった部の存在と、今回のパーティ開催のために尽力してくださったみなさんには感謝してもしきれない。

 

モテたい一心で始めただけのアメフト。選手としてはへっぺこだったにも関わらず、ob代表のトークショーに登壇させてもらった。社会人としてそれなりの年月を過ごしたうえで学生時代を振り返り、特に現役世代に対してのアドバイスとなるような話をとのことだった。

 

文科相の「トビタテ!留学japan」プロジェクトの責任者の船橋力さんと、ジャパンタイムズのスポーツ記者でアメフト解説者でもある生澤浩さんという豪華なおふたりが具体的で的確なアドバイスをしていたので、私はあえてこんな話をした。

 

「将来どんなことをやっておいたほうが有利だとか得だとか、そんなせこいことは考えるな。学生のいましかできないことを一生懸命やれ。それは練習と恋愛だ。ガンバレ」

 

冗談で言ったんじゃない。本気だ。

 

「これからの時代を生きるうえで必要な力って何ですか?」という質問はよく受ける。そのときには以下の3つを答えることが多い。

 

(1)そこそこの知力と体力

(2)やり切る力

(3)自分にはない能力をもつひととチームになる力

 

(1)は学校に行けていれば十分。ただしここでの「知力」とは、「考える力+教養」というような意味合いだ。(2)は幼少期においては習い事、思春期においては主に部活で養われる。夢中→達成→挫折→克服というサイクルのなかで身に付く。

 

(3)はやや複雑だ。同質の人間とつるむのではなく、自分とは違う能力や前提をもつひととチームとして有機的につながることができなければいけない。そのために必要なのは、論理的コミュニケーション力とユニークネスだ。

 

他者と結びつくために共感力が必要なのは言うまでもない。しかし単なる共感力だけだと、「気が合わないヤツ」とは組めない。その壁を乗り越えるのに必要なのは、実は「論理力」である。表面的な意見が違っても、論理の力で考えを掘り起こしていけば、もとはといえば「前提」の違いによって意見の違いがもたらされていることがわかる。前提の違いに気付ければ、話し合いの糸口がつかめる。これが”前提を共有しない相手”とのコミュニケーション作法だ。

 

そして、言わずもがな、多彩な能力をもつ集団に加わるには、自分にもとんがったユニークネスがなければいけない。簡単に置き換え可能な存在では、そのような集団から必要とはされない。アメフトはまさにそういうスポーツである。

 

ただ、(1)(2)(3)だけだと、最も重要なものが足りていないのかなと、最近思うようになった。

 

名誉も富も手にした社会的地位のあるひとが、いい年して、セクハラだとか淫行疑惑だとかみっともないスキャンダルを起こすのはなぜか。若いころに本気の恋愛を経験してこなかったからでないかと思ってしまう。

 

就活において、リクルーターの会社員が学生相手に性的関係を迫ったり、セクハラをしたりという極めて卑怯な事例も多いと聞く。心底誰かを愛した経験があれば、そんなことができるはずがない。

 

こういうことに関しては、性とか愛とかに関する教育の必要性を訴える声もあって、それもいいと思うのだけど、それよりも大事なのは、若くてバカで未熟なうちに、自分の気持ちをごまかさずにまっすぐに誰かを愛してみる経験なんじゃないかと思う。

 

これからの時代にはこんなスキルを身に付けておくといいとか、スタートアップをしたいなら学生時代から人脈をつくっておけだとか、そんなこざかしい入れ知恵ばかりする大人がときどきいる。でも大人が若者に対して本当にしなければいけないことは、「いましかできないことをしろ」「若いころしかできないことをしろ」と胸を張って言ってやることだと思う。若いときには「若さ」という武器を最大限に使わなきゃもったいないから。

 

若いエネルギーを運動にぶつけてもいいし、研究にぶつけてもいい。ボロボロになるまでやったほうがいい。でもいちばん大事なのは、若くてバカで未熟なうちに、誰かを心底、ボロボロになるまで愛する経験をすること。若くてバカで未熟だから当然うまくいかない。それでいい。それがいい。

 

そうすれば、自分探しのために世界中を旅しなくたって、「自分ってこういう人間なんだ」という感覚がつかめる。この世の中で、本当に大切なものが何なのかが、うっすらと見えてくる。これがその後の生き方に大きく影響を与える。どんなに頭が良くたって、どんなに強靱な肉体をもっていたって、愛を知らなければ何にもならない。私はそう思う。

 

蛇足になるが、奇しくも今日は、私を「無条件の愛」で育ててくれて、12年前に亡くなった、母の誕生日。私に最初に愛を教えてくれたのは、間違いなく、母だったのだと思う。

 

 

※2019年2月28日のfmラジオjfn系列「oh! happy morning」で話した内容の書き起こしです。