5月2日から4日は名物・文化祭

 

5月2日から4日の3日間、東京都港区にある麻布中学校・高等学校では、同校の目玉行事である文化祭が開催されている。意味不明な盛り上がり方をしている校内に足を踏み入れると、「これが本当に東大に98人もの合格者を出す学校か」と目を疑うだろう。

 

先日、麻布の平秀明校長にインタビューをした。詳細は拙著『開成・麻布・灘・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』(祥伝社新書)に掲載しているが、その一部をここに転載する。日常の麻布の様子を感じられるのではないだろうか。

 

拙著では、麻布のほかにも、開成・灘・東大寺・武蔵のベテラン教師たちに、いまどきの「男の子」育てについてのインタビューを掲載している。

 

男子校の教室に「女子」がいる!?

 

 うちのいいところは、たまに心が女性の生徒がいたりしても、自然にそれを受け入れる雰囲気があるところですよね。単に異性との付き合い方よりも進んでいる部分もある。

おおた 何年か前に、完全に女の子の格好で登校している生徒がいて、それが普通にクラスになじんでいるという話がありましたけど、毎年1人や2人そういうケースがあるということですか。300人いたら、確率的にはいますからね。

平 去年は卒業式で3人くらいがスカートで卒業証書を受け取っていましたよ。卒業式を象徴的なカミングアウトの場にしたのかもしれません。同級生たちも笑ったりしないで普通に対応していました。

おおた 麻布の卒業式によくあるウケ狙いのパフォーマンスではなくて?

 ウケ狙いのはもっと別のがいましたね(笑)。

 

男女共同参画社会の意識づけも必要

 

 昔と違って、男女共同参画社会の意識が進んでいるので、将来は結婚して、家庭を築いていくということを、男性も主体的にやっていかなければならない。そういう意識も男子校で養っていかなければと思っています。

おおた 麻布ではだいぶ早い時期から家庭科やダイバーシティ理解の教育に力を入れていましたよね。

 高1で家庭科の「生活総合」という科目を学びます。バリアフリーの話から調理実習や消費者教育みたいなものまでいろんなことをやります。向かいにある愛育幼稚園に実習に行ったり。夏休みの課題として、家族のための料理づくりを必修にしています。栄養バランスも考慮して献立を考えて、買い物に行って、一汁三菜をつくって、写真を撮って、家族に食べてもらって感想を聞いて、レポートにまとめます。もちろん後片付けも。それに影響されたのか、最近、お料理研究部というクラブができました。お料理甲子園に出場したり、結構真面目にやってます。

おおた いいですね。

 女子校の先生たちと話していても、昔は良妻賢母というかお嬢様学校だった女子校が、いまやキャリアウーマンを育てるような教育をしていたりしますよね。今後は共働きが当たり前になっていくでしょうし、育児についても夫婦で対等にやるようになるでしょう。その点では、女子校に通う女子よりも男子校に通う男子の意識はだいぶ遅れているなあと思っています。男子校であっても家庭科的な教育は必要だし、世の中は男性と女性で成り立っているわけだから、そういうライフスタイルも見通して、勉強したり、ひとと関わっていく必要があるだろうと考えています。

 

スマホはナイフと同じ

 

おおた スマホとかネットについて、麻布はどういうスタンスですか?

 禁止はしてないので持ち込みはできますけど、さすがに授業中は使ったりすると没収します。教員の立場から言えば、やっぱり友達関係が見えづらくなる。特に中学校の低学年だと、ある1人の子を叩いちゃったりとか、ネットの中で。それはリアルタイムにはわからないので、ちょっとタチが悪い。

おおた 学校としてはそこが問題ですよね。

 禁止している学校はあるけれども、将来は必ず使うことになるツールだから、やっぱり使いこなすことは大事なのかなと思います。ナイフを与えてるのと同じ。ナイフは、鉛筆を削ったり果実の皮を剥いたりとか、そういう便利な反面、ひとを殺すこともできる。スマホだってコミュニケーションツールとして便利だけど、使い方を誤まれば人間を社会的に抹殺することもできるわけですよね。ナイフを渡すのと同じくらいの気持ちで渡してくれないと困るということです。

おおた ナイフを与えるというのは、麻布の教育そのものじゃないですか。危険だからといって触らせないのではなくて、そこを乗り越える人間になってもらわないと困ると。

平 いま、ナイフ自体を使える子は少ないけどね。中1の生活科学でリンゴの皮むきからやらせてる(笑)。

 

両親が医者という無言の圧力

 

 いまの親御さんは、成績とか友達関係でも、子供以上に悩んでしまうというか、過保護になってますよね。はっきり言って男の子なんて、元気で楽しく生きていればそれでいいじゃないかと思うんですけど(笑)。「できたら現役で大学に行ってほしい」とか「できればT大学」「できれば医学部」とか、そういうのを背負わされちゃうと子供も大変だろうなと。

おおた 親本人としては「そんなに理想を押し付けているつもりはない」と言いながら、かなり高い「理想」を「当たり前」のものと思って求めてますよね。「そんなに簡単にできることではないと思いますよ」という目標をスタンダードだと思っている親御さんも多いですからね。

 子供は敏感だから、親が言わなくても「こうなってほしいんだろうな」っていうのは微妙に感じます。まして両親が医者だったりしたら無言の圧力だよね。

おおた そこに罪はないんだけど、どうしようもないですよね。

 やっぱり子供は親の所有物ではない。子供には子供の人生がある。たとえ自分の子供であっても、親のコントロールで動かしてはいけないし、子供は子供の判断なり将来設計があるわけだから。助言したり指導したりすることはあるかもしれないけど、自分のコントロール下に置くのは間違いです。

 

大学受験直前に赤ちゃん返り!?

 

 麻布生なんか、幼虫期(昆虫の成長に例えて)に抑圧されている子が多いと思う。だから麻布に入ってから、幼児のときにやっていなかった水鉄砲遊びとか、なんかくだらない遊びをやって喜んでるんじゃないかな。あれは、小さいときにできなかったことをいま取り返してるんだなと思って。またそれが麻布だからできるんですけど(笑)。

おおた そうそう! それが麻布生の微笑ましい痛々しさ。外から見るとはっちゃけて見えるんでしょうけれど。

 一昨年だったかな。学校の事務室にいきなりアマゾンから荷物が来て、高3のヤツが注文してたみたいなんだけど、空気で膨らますプール。それを中庭に広げて、水を溜めて、高3がバシャバシャやって遊んでるのを、中1がビックリして見てた(笑)。

おおた ウケる。