3夜連続いきなり「おわりに」シリーズの最終回は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(2015年、朝日新聞出版)。

では、いきなり「おわりに」。

 

 

 いい学校に取材に行くと、幸せな気分になれる。すべての学校が愛いとおしい。結婚式に出席した後の感覚に近い。たくさんの前途有望な生徒たちが、希望と不安を胸に抱きつつ、巣立っていくのがイメージできるからだ。「この学校があれば未来は明るい」と感じられるのだ。そういう学校が増えてほしいと思う。一〇〇年かかっても、二〇〇年かかってもいいから。

 人間と同じで、どんな学校にも悪い部分は必ずあるのだろうが、本書ではあえてそこには注目していない。切り取るなら「いいところ」を切り取るようにして

いる。本書の目的は名門校の善し悪しを比較することではなく、名門校の叡智を紹介し、「良い学校とは何か」「良い教育とは何か」を考えるきっかけにしてもらうことだからだ。教育関係者はもちろん、一般の保護者にも、名門校の教育から得られる教訓はたくさんあったはずだ。

 学校の価値を偏差値や進学実績で推し量る風潮は未だ強い。そのような価値観に染まった大人は無意識のうちに、子供を、偏差値や通う学校名で評価してしまっているかもしれない。

 しかし、名門校と呼ばれるほどいい学校の本質的な価値が、決して偏差値や進学実績によるものではないと、一人でも多くの人に知ってもらえれば、その風潮を少しでも改められるのではないか。一人ひとりの子供の可能性にもっと気付いてあげられる社会になるのではないか。子供たちも、目先のテストの点数ばかりに囚われなくなるのではないか。もっと自由な生き方を模索しやすくなるのではないか。そういう逆説的な願いこそを、本書に込めたつもりである。

 名門校の教育は確かにすばらしい。しかし、みんなが名門校に行く必要はないとも私は思う。社会全体が、名門校のような空気で、子供たちを包み込んであげればいいのだ。そのためにこそ、私は本書を著した。この思いが、一人でも多くの人に届けば、幸甚だ。

 

二〇一五年一月 おおたとしまさ