OECD(経済協力開発機構)が3年おきに行っている国際的な学力調査通称PISAの2015年度の結果が再び注目されている。「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の評価については2016年12月にすでに発表されているが、今回新たに「協同問題解決能力調査」の結果が発表されたからだ。

 

 おさらいしよう。PISAでは通常、15歳の「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を調査する。いわゆる日本の受験勉強の国語・算数・理科・社会とはちょっと違い、知識の量よりも読解力・思考力・表現力を見る問題が多い。

 

 順位は関係ないといいつつも、気になるもの。2015年度の日本の順位は、数学的リテラシーと科学的リテラシーにおいてはOECD加盟国35カ国のうち1位。読解力で6位。OECD加盟国以外も含めた72カ国の中では、科学的リテラシーが2位、数学的リテラシーが5位、読解力は8位となる。

 

 ちなみに、OECD加盟国以外を含めたランキングで、科学的リテラシー、数学的リテラシー、読解力のすべてにおいて1位となった国はどこか?

 

(1)フィンランド

(2)韓国

(3)シンガポール

 

 正解は(3)のシンガポール。OECD加盟国以外のランキングでは、そのほか香港、マカオ、台湾などアジアの国や地域が目立つ結果となっている。

 

 日本では、いわゆる「ゆとり教育」になった直後の2003年調査ではランキングが落ち「PISAショック」などといわれたが、いまは少なくとも順位のうえでは復調している。それが「脱ゆとり」の成果なのかどうかはなんともいえない。

 

 今回改めて注目されているのが「協同問題解決能力調査」の結果。「革新分野」の調査として、2015年度の調査で初めて実施された。

 

 OECDは「協同問題解決能力調査」を「複数人が、解決に迫るために必要な理解と労力を共有し、解決に至るために必要な知識・スキル・労力を出し合うことによって問題解決しようと試みるプロセスに効果的に取り組むことができる個人の能力」と定義した。そのうえで、コンピュータ上の仮想の人物とある課題について対話をするチャット形式で調査を行った。

 

 ちなみに今回調査から、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の調査についてもコンピュータ使用型調査に移行されている。説くに科学的リテラシーに関してはコンピュータ上で条件を入力するとそれに応じたシミュレーション結果が表示され、それに基づいて回答するというインタラクティブな調査方法が導入されている。

 

 今回改めて発表された「協同問題解決能力調査」の結果によると日本はOECD加盟国中1位。加盟国以外を含めても2位。加盟国以外での1位は?やはりシンガポールだった。

 

 「1位」と聞くと「すごい!」となるが、「協同問題解決能力」なるものをどうやって調べたのか。

 

 たとえば3人チームでクイズコンテストに参加して、架空の国の地理と人口、経済の3分野の問題に挑戦するという設定で、戦略をたて、誰がどの分野を担当するかを決め、最短時間で解答を終えるまでの手順を効率的に進められたかどうかを判定する。

 

 ただ単に「いい人」になるだけでなく、ときには仲間にびしっと言うことも求められる。メンバーのどういうふるまいがどうチームのパフォーマンスに影響するかは文化に依存する部分も大きいので、この結果が普遍的な価値をもつかどうかはちょっと評価しかねるというのが正直なところ。

 

 速く正確に正解にたどり着くだけのテストとは違う「ものさし」をつくることは、子供たちのさまざまな能力に気付くきっかけになる。たとえば日本では、全国に約200ある公立中高一貫校にて、単なる学力テストではない「適性検査」と呼ばれる入試が行われている。知識の量ではなく思考力そのものを試す。それが従来の中学入試では測れなかった能力を見出すのに役立つということで、いまでは私立中高一貫校も同様の入試形式をまねするようになっている。そうなると従来のいわゆる「偏差値」が意味をなさなくなってくる。

 

 そのあたりの最新事情については新刊『公立中高一貫校に合格させる塾は何を教えているのか』(青春新書インテリジェンス)を参照されたい。